江戸期版本を読む

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【翻字】
 世中は目にみる 事をほんとせよ 聞ぬることは かはる物也

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 もろこし杜牧といふ人は たぐひなき文者にて 千とせの後阿房宮(あばうきう)の 賦をまさまさと見たる やうに書あらはし侍れ共 李斯趙高などいふ其 比の人のまのあたり見 たるには中々および がたしと論ぜしたぐひ 成べし代々の君たる人 佞臣の讒言を誠と聞 いれ国にわさはひおこり たるためし又いもせの 中の契をたち友の交 をさけ或は継母の讒
 言にて実子をそま つにするたぐひあげて いふべからずよくよく此 哥をあぢはへしるべし

【通釈】
 世の中は、目で見た事を本当であると考えよ。聞いた事は(とかく事実とは)変わるものである。

 「中国の杜牧という人は比類ない詩人であって、(それが焼亡して)千年後になって、阿房宮の賦を実際に見たかのように書き表しましたが、李斯や趙高などといった当時の人が目の当たりにした光景にはなかなか及び難い」などと論じるたぐい(の、この歌の趣旨)であろう。代々の君主である人々は、佞臣の讒言を真実と聞き入れて(その結果)、国に災厄が起こった例、又、夫婦の仲を断ち、友との関係を裂き、或いは、継母の讒言で実子を粗末にするたぐいは、(一々その例を)列挙することができない(ほど多い)。十分にこの歌を味わい(、その心を)知るべきである。

【語釈】
・文者…学者。また、詩文に巧みな人。
・本…本当であること。真実。
・杜牧…803~853年。晩唐の詩人。「阿房宮賦」の作者。
・阿房宮…秦の始皇帝(前259~前210)が建てた宮殿。
・李斯…生年不詳~前208。秦の宰相。
・趙高…生年不詳~前207。秦の宦官・権臣。
・佞臣…口先巧みに主君にへつらう、心のよこしまな臣下。
・讒言…事実を曲げたり、ありもしない事柄を作り上げたりして、その人のことを目上の人に悪く言うこと。
・妹背…夫婦。夫婦の仲。

【解説】
 第十三首目は「人から聞いた話でなく、目で見た事を信じる」ことの重要性について詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、五重塔と壮大な門を遠くに望む騎馬武者を描いています。

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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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【翻字】
 あきはてにけり 世中にといひかくいひ むつかしき 人をばひとが

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 古今の哥にそへに とてとすればかゝり かくいへばあないひしら すあふさきるさにと いへる心ばへ也おほき 人の中にはかならず かゝる心ばへの人も世 間ほゝ見およぶ事也 みな和の道をしらず 我を立るねじけたる 心よりなる事也お のれとつゝしみかんがへ てつき友だちにも あきはてられざる ごとくして身ののち までもゆうにやさし き人なりしかとこひ したはれむ程の人は いかにゆかしからまし

【通釈】
 世の中で、あれこれ口うるさく言う面倒な人は、人がすっかり嫌になってしまうものである。

 古今和歌集に(ある)「そゑにとてとすれば斯かり斯くすればあな言ひ知らずあふさきるさに」という歌の趣旨(と同じ)である。大勢の人の中には、必ずこういう性格の人も世の中にはだいたいいるものである。(こういう人は)皆、和の道をわきまえない、我を張る、心のねじ曲がった心から、(こういう人に)なるものである。自ら慎み、よく考えて、愛人や友達にも愛想を尽かされようにして、死んだ後まで「優しく思いやりのある人だったね」と慕われるほどの人なら、どんなに奥ゆかしいことだろうか。

【語釈】
・むずかし…煩わしい。めんどうだ。
・そへにとて…古今和歌集(巻十九・一〇六〇)の歌。「それだからと思ってああすればこうで、またこうすればああなる。ああ言いようもない、すべてちぐはぐではないか」。
・てつき…主人が侍女・女中などと肉体関係を結ぶこと。また、その相手の女。
・おのれと…自分から。みずから。
・身の後…死後。
・優なり…やさしいさま。
・やさし…他人に対して思いやりがあり、情がこまやかである。控え目に振る舞い、つつましやかである。

【解説】
 第十二首目は「文句や理屈を言うのを控える」ことの重要性について詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、水辺で酒宴をしている男性二人に三味線を持った女性一人、その脇に地に片膝をついて男性が一人、宴席の主人らしい男と何か話をしている場面を描いています。

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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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【翻字】
 いくほども なきよのなかの 月花に うらみくぜちは あぢきなき哉

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 いくほどもなき みじかきあしの一よの夢 の間の生涯によしあし なにはの事どもにつき 恨みくせつに朝夕を おくりむかふるたぐひの 人心はあさましき事 なればたゞ和の道をま もるべしとなり

【通釈】
 いくらも(人生長くは)ない世の中には、美しい月や花もあるというのに、恨み言や言い争い(ばかりを言い合って暮らすの)は、つまらないことだ。

 いくらも長くはない、葦の節の間隔が短いように、短い一夜の夢のような生涯で、良い事や悪い事、さまざまな出来事について、恨み言や言い争いで日々を暮らすような人の心は浅ましい事であるから、ただ人と仲良くする和の道を守るべきであるという歌の心である。

【語釈】
・くぜつ…言い争い。文句。
・あぢきなし…つまらない。
・葦の…「よ(節)」を導く修辞。「よ」は「夜」の意を掛けている。
・なには…「難波」は歌枕で、「葦」の名所。「なに」は「何」の意を掛けている。

【解説】
 第十一首目は「不平不満で日々を送らない」ことの重要性について詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、座敷に女性が四人座って、一人が月を眺めている場面を描いています。

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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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【翻字】
 世中は人に 用をも いふならひ 度かさなるや うるさかるらん

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 路(みち)を近国の諸侯 にかりて敵をうちしためしなど あればさも有ぬべし されどもたびかさ ならば誰しもうる さからまししからば こゝろづかひすべき 事なりさきの哥 には物を大かたは かるまじといひ又 此哥にはかるもかす もうき世のならひ なることをいひて 又たびかさなるを うるさきといへる心 味ふべし

【通釈】
 世の中は、とかく人に用を頼んだりするものだ。(しかし、あまりに)たび重なると、(頼まれる方は)煩わしいものであろう。

 道を近国に借りて(領内通過を認めてもらい、遠方の)敵を討伐する例などがあるので、そういう(人に何か頼むという)こともあるであろう。しかし、たび重なると煩わしいであろう。だから、(それは)配慮すべき事である。前の歌には「大体は(人に)物を借りてはいけない」と言い、この歌では「物の貸し借りは世の中の通例である」ことを言って、又「たび重なるのは煩わしい」と言っている、その心を味わうべきである。

【解説】
 第十首目は「人にむやみに物を頼まない」ことの重要性について詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、中央の縁先にいる女性が左手の庭先にいる男性に何かを言い付けている姿を描いています。右手の座敷に座って煙管を吸っている旦那のような人は、何か関係があるかどうか不明です。

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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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【翻字】
 人の物 そんずるものぞ たいがいに ことだにならば かるな世中

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 いづれのうつはもの にても目にこそし かと見えねども用 るにしたがいてそこ ねぬといふことなし 遠慮もなくむさと はかるべからす是も 我をせむるのいまし めぞかし此心を以て 人より物をかりに 来たる時にかさぬのみ ならず人をあさけ りいふことなかれ源信 僧都の起請にも 不可備用他人物 親間雖借用早 速可返之といへり

【通釈】
 人の物は壊す(ことがよくある)ものだ。だいたい(借りないでも)事が済むのであれば、借りるな。世の中は(そうしたものだ)。

 どんな器物でも、(ひびや傷は)目にはっきり見えるわけではないが、使用する中で壊れないものではない(。壊れることがよくある)。遠慮もなくむやみに借りてはいけない。これも、自分を戒めるための教訓である。このことで、人から物を借りに来た時に貸さないばかりか、借りに来た人を嘲笑したりしてはいけない。源信僧都の起請にも、「他人の物を借りてはいけない。親しい間柄でも、借りた物はすぐに返さなくてはいけない」とある。

【語釈】
・むざと…考えもなく。軽率に。むやみに。
・源信僧都の起請…源信(942~1017)は天台宗の僧侶。その著「二十五三昧起請」を指すか。
・不可備用他人物親間雖借用早速可返之…注には訓点があり、「他人(の)物を借用(す)べからず。親しき間借用(すと)雖も早速(に)之を返(す)べし」と訓読できる。

【解説】
 第九首目は「人に物を借りずに」の重要性について詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、左手の人が何か物を落として壊したところで、右手の女性がそれを見ているような場面を描いています。

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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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