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【翻字】
楠三良兵衛正勝(くすのきさむろうびやうへまさかつ)
笛竹(ふえたけ)の 声(こゑ)の あるじを 尋(たづ)ぬれば 地水火風(ちすいくわふう)の 四大(しだい)なりけり
〇士は楠正儀(くすのきまさのり)が末子(ばつし)也南朝既(なんてうすで)に亡(ほろ) びて後髻(のちもとゞり)を切(きつ)て教外(けうげ)のむねを しとふ且(かつ)て僧虚風(きよふう)といへるに見(まみ)へて 虚鐸(きよたく)の音(ね)を学(まな)ぶ今の尺八是 なり夫此音(それこのね)は唐(とう)の普化(ふけ)禅師 に始り法灯国師入宋(そう)して我朝(わがてう) に伝(つた)へ弟子寄竹(きちく)に授(さづ)く夫より 虚風に至(いた)る迄(まで)四世を経(へ)たり士また これを伝(つた)へて名を虚無(きよむ)と改(あらた)め 五畿七道を行脚(あんぎや)して此音(ね)を 弘めしかば世の人是より此徒(このと)を称(しよう)し て虚無僧(こむそう)と呼(よべ)り俗(ぞく)たりし時(とき) 子あり同しく出家す傑堂(けつだう)の能勝(のうしやう) 禅師と号して洞宗の英傑(ゑいけつ)たり

【校訂本文】
 楠三郎兵衛正勝
 笛竹の 声の主を 尋ぬれば 地水火風の 四大なりけり
 〇士は楠正儀が末子なり。南朝、既に亡びて後、髻を切つて教外の旨を慕ふ。かつて、僧・虚風といへるに見へて、虚鐸の音を学ぶ。今の尺八、これなり。それ、この音は、唐の普化禅師に始まり、法灯国師、入宋して、我が朝に伝へ、弟子・寄竹に授く。それより、虚風に至る迄、四世を経たり。士、また、これを伝へて、名を虚無と改め、五畿七道を行脚して、この音を弘めしかば、世の人、これより、この徒を称して「虚無僧」と呼べり。
 俗たりし時、子あり。同じく出家す。傑堂の能勝禅師と号して、洞宗の英傑たり。

【語釈】
四大:仏教でいう、万物を構成する四つの要素、地・水・火・風
楠正儀:南北朝時代の武将、公卿。楠木正成の三男。
教外の:「禅宗」の意。「教外」とは「言葉で表されていない仏の教えの神髄」をいい、「旨」は「趣旨」。
虚風:不詳。普化宗および虚無僧に関する歴史書(偽書説あり)『虚鐸伝記国字解』中にこの名が見える。
虚鐸:中国・唐代の長い竹製の縦笛。尺八よりかなり長い。
普化禅師:唐の禅僧。普化宗の祖師。
法灯国師:心地覚心(本書5)。鎌倉時代の臨済宗の僧。紀伊国・妙光寺の開山。
寄竹:不詳。『虚鐸伝記国字解』中にこの名が見える。
四世:『虚鐸伝記国字解』によると、虚鐸とその曲は、学心(覚心)-寄竹-儀伯-臨明-虚風-虚無と伝えられた、とある。
五畿:山城・大和・河内・ 和泉・摂津の畿内五カ国
七道:古代の7つの官道(東海道、東山道、北陸道、山陰道、山陽道、南海道、西海道)およびその周辺の国々を指す。つまり「五畿七道」で「全国」「国じゅう」の意。
傑堂能勝:南北朝・室町初期の曹洞宗の禅僧。『朝日日本歴史人物事典』には「楠木正儀の次男」「俗名は正能」とある。
洞宗:曹洞宗

【解説】
 18人目は楠木正儀です。この人は武士であり、出家して云々は伝説の域を出ません。但し、傑堂能勝という曹洞宗の僧は実在しており、楠木正成の孫であったことは事実です。
 紹介文の前半は出家後の略歴、つまりは伝説の要約です。後半は傑堂能勝の紹介で、ここには「子」とありますが、史実としては正勝の弟です。
 歌意は、「笛を吹く人も、地・水・火・風という「四大」が一時的に集まったものに過ぎない」という仏教の教えをそのまま歌にしたものです。