勅を奉じて重成新院を守護し奉る事

 さる程に新院は.御室を憑み進らせられて、入らせ給ひしかども、門跡には置き申されず、官遍法務が房へぞ入れ進らせられける。御室は五の宮にて渡らせ給へば、主上にも仙洞にも、御弟にておはしましけり。此の由五の宮より内裏へ申されたりければ、佐渡式部大輔重成を進らせられて、院を守護し奉られけり。余りの御心憂さにや、御心の留まる事はましますまじけれども、かくこそ思召し続けける。
  思ひきや身をうき雲となしはてて嵐の風にまかすべしとは
  憂きことのまどろむ程は忘られて覚むれば夢の心地こそすれ

(底本:『日本文学大系 第十四巻』「保元物語」(国民図書1925年刊。国立国会図書館D.C.))

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