重仁親王御出家の事

 さる程に、新院の一の宮重仁親王のおはします所聞えずして、人々承つて、彼方此方尋ね進らする処に、今月十五日女房車に乗つて、朱雀門の前を西へ過ぎさせ給ふを、平判官実俊、見附け奉つて留め申せば、御出家あるべきにて、仁和寺の方様へ渡らせ給ふとぞ、御供の人申しける。依つて此の由奏聞しければ、素懐を遂げさせ進らすべき由仰せ下されけり。花蔵院僧正覚暁、参つて申さるる仔細あつて、中御門東洞院なる所へぞ遷し奉りける。即ち実俊承つて守護し進らせけり。

(底本:『日本文学大系 第十四巻』「保元物語」(国民図書1925年刊。国立国会図書館D.C.))

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