凡例
一 本書は県内高等小学校及び尋常小学温習科の教科用に供ずる目的を以て編輯せる所にして、其の体裁は専ら本県尋常師範学校附属小学の教案に参考し且、二三の卓識なる教育者の意見に従ひて組み立てたり。
一 人口・戸数・里程・面積及び、山の高さ・川の長さ等は、本県最新の統計表に拠りて記載せり。
一 南・北牟婁郡の面積は、明治二十年の三重県治一覧には七十六方里とあれども、同年の統計表には六十八方里とあり。蓋し、皆実測せしものにあらざれば、到底正確のものあらず。故に最新の南北牟婁全図に拠りて、仮りに六十二方里と記載せり。
一 地図は三重県管内全図によりて調製し、其の県外に係る部分は、文部省蔵版の日本帝国全図に拠れり。
一 木曽川工事は非常の土工にして、其の完全は尚数年の後を期せざるべからず。故に目下、既に竣功せる部分のみ水路を改め、其他は従来の形勢を描けり。
明治廿三年一月 梅原三千 識

教師の注意
一 児童に地理を授くるは、地上に羅布排列せる事実上の概念を与へ、以て農・工・商業等、人生の業務を資するにあり。之を授くる法、先づ自然物の位置・形状等を知悉せしめ、而る後、人為的事実に及ぼすべし。
一 自然物の位置・形状等を知悉せしむるは、之を地図の観察にとらざるべからず。即ち、地図其物によりて、山岳の高く中天に聳峙する、或は江河の溶々として奔流する、或は蒼海の淼々として涯なく水天相接する、或は平原茫々沃野千里なる等を想見して、能く真に迫るの画図を心裡に映出せしめざるべからず。是れ児童が日常目撃せる教室・学校及び、学校近傍の地理に基を開きて、是等の理解力を啓発せしむる所以なり。
一 教室・学校及び学校近傍の地理は、各校・各地、皆異なるが故に、此編仮に理想的構成のものを掲げて、其の教授法の一例に供す。
一 世の教育者謂ふ、「地学教授に費す時間は、其半を以て地図研究に充つべし」と。蓋し地図によらずば、児童をして自然物の位置・形状・高低・遠近・広狭等を会得せしむること能はざればなり。故に此編、各国の首に地図研究の目を置き、問題を掲げ、生徒の観察研究に便す。但し其の問目甚だ少きが故に、教師宜しく更に数多の疑問を発して、生徒をして其の力の能ふ限り精密に研窮せしむべし。
一 地理教授の法、自然の順序に従ふべきは勿論、尚彼是相関の理を悟らしむべし。故に、山脈を説くや木材・鉱物の産出及び其気候に及ぼす関係を記し、川流を説くや舟楫・灌漑の便否を述べ、都邑を説くや交通の便否、製造物品等を記す。
一 物の形状を容易に記臆せんには、先づ之を画くに熟するを要す。故に生徒をして時々地図を画かしむべし。此編の描図法の一斑を掲げて教授者の参考に供す。
一 教科書を用ゐて地理を教授するや、世間往々、章句暗述の弊に陥る者あり。然れども是を以て「教科書を用るは不可なり」といふは、書物教授の術を知らざる者なり。蓋し彼の筆記教授に於て諸観念を啓発し、而る後、備忘の為筆記せしむる場合に於て、書物を出し購読せしめば、則ち彼の弊に陥らざるのみならず、時間に経済にして且児童予習に便を与ふること多々なるべし。
明治二十二年十月 編者識

挿絵003