(二)気候 寒・熱共に酷(はげ)しからずして動・植に適す。其南部は北部よりも暖く、海岸は内地より暖し。殊に外海岸は尤も温暖なり。雨量は概して適度を得。
  {寒暖計平均六十度。}
  {海浜は夏涼くして冬暖きものなり。}

(三)海岸
 (Ⅰ)内海岸 揖斐川口より大湊に至るまで大なる彎曲(わんきよく)をなし、海岸の長さ三十余里、波静に遠浅にして、岬港少なし。
  (1)港
   【桑名港】は美濃・尾張に近く、熱田港{尾張}・大垣町{美濃}との間に小汽船の往復ありて、漕運(そううん)便利なり。
   【四日市港】は水深く浪穏にして碇泊に便なり。東西二京の中間に位し、横浜港と日々汽船の往復ありて、二京間の水運は多く此港に由る{近来、大坂港に定期往復する汽船あり}。又、熱田港{航路八里}・贄崎港{航路八里}・神社港{航路十二里}に小汽船の定時往復あり。本県第一の良港にして、輸出入甚盛なり。
    {年内輸出入の総額三千余万円に達す。}
    {稲葉三右衛門氏、此港の狭くして不便なりしを患ひ、明治六年、築港事業を興し、海浜の地一万余坪を堀り広げしより大に便利を得て、今日の繁盛に趣けり。}
    {今後、更に大波止(はと)を設くることを得ば、繁庶今日に倍せん。}

挿絵027

   【贄崎港】は岩田川口にあり。満潮(まんちやう:しほさし)の時は大川の状をなせども、川口浅くして大船を入ること能はず。然れども四日市港・神社港より汽船の来往あり。

挿絵028R

   【神社港】・【大湊港】は宇治山田町に近くして、南勢の要港なり。神社港は小汽船の四日市・贄崎より来るものありて、伊勢参宮の要津たり。
    {大湊は造船の盛なる所なり。}
  四日市港・桑名港は洋船碇泊所にして、贄崎・神社・大湊及び【大口浦】は洋船寄港所たり。此外、【富田】・【白子】・【若松】・【松崎】・【大淀】の諸浦は、和船碇泊所なり。
  (2)浦
   【辛州】浦・【白子】浦は白砂遠く青松連り、風景佳なり。二見浦は奇石海中に双立し、景色絶佳なり。賓日(ひんじつ)館あり。海水浴場を設く。

挿絵028L

  内海の浦々は皆好き漁場なり。即ち桑名に白魚(しらうを)・蛤(はまぐり)、富田に鰕(えび)・蛤の類を産出し、【若松】・【白塚】・【阿漕】・【矢野】は、鰮(いはし)・鯷(ひしこ)の大猟(たいりよう)あり。南部に至るほど外洋に近ければ、魚介の大なるものを産す。
   {蛤は時雨(しぐれ)煮とし、鰮は食用の外、肥料を製す。}
  又、多気郡【東黒部村】・度会郡【浜郷村】の海浜は、塩を製して近郷に供給す。
 (Ⅱ)外海岸 波荒く水深くして岬湾出入し、岸に岩角多し。偏鄙(へんぴ)なれば繁盛の港なし。
   {外海岸を総称して南島といふ。}
  (1)港
   五カ所・贄・古和等は南島の要港なり。
    {贄港は近来、大坂通ひの汽船寄港す。}
  (2)岬浦
   【田曽崎】・【缺崎】は大なる山嘴(さんし:やまのみさき)なり。
  南島の海岸は温暖にして魚類多く、岬湾出入するが故に、捕魚に便利なり。海産の著名なるは、鰹・鯛・鯖(さば)・烏賊(いか)・鰕等なり。鰹は鰹節に製して諸国に出す。
   {宿田曽村字宿浦の鰹節は最も上品なり。}

挿絵029

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