(一)概勢 外洋に沿ひて東北より西南に延び、山多くして嶮峻なり。
(Ⅰ)山脈 北・西の境に山脈横たわり、内地も亦山岳重なりて、至る所、山ならざるはなく、其の大和境には人跡の絶へたる所あり。
【八木山】は沿道第一の絶険なりしが、近来、新道を【矢ノ川峠】に開きしより、往来稍便利となれり。
牟婁の諸山は森林茂り、杉・檜・栂(とが)等の良材に富むこと県下第一にして、尾呂志谷・寺谷{五里(いさと)村}等は有名の森林なり。
{寒き地にては山より木材を出すに冰の上を滑(すべ)り下すことを得べし。牟婁にては大雨の至るを待ち、渓流に投じて流し下すを便方とす。扨、海に出したる後、大なる筏に組み、舟にて引きて運ぶ。}
{南牟婁郡宇和野村大字鵜殿(うどの)に於て、蒸汽器械を以て木材を引き割る。}
獣類は鹿・猪・苦獣(にく)等夥し。
鉱物には銀・銅・石炭・石材等あり。【楊枝川村】{上川村}の銅坑は有名にして、月に三千余貫を出す。石炭は【小舟村】{上川村}の近傍を最とす。
[附説]高地は平坦ならずと雖も地味樹木に適す。樟脳(しようのう)・椎茸等、山地の産物なり。
{南牟婁は北牟婁に比すれば地勢頗る平易にして土地稍低し。}
(Ⅱ)水脈
(1)川流 皆東流して海に入る。唯、南牟婁郡西部の渓流は西流して【北山川】に会す。
【音無川】{又、熊野川}は和歌山県境を流るる大川にして、其の枝流北山川を合せて、拾五里の間、舟楫を通ず。
牟婁の諸水は音無川を除く外、概ね短流にして灌漑の利少なしと雖も、木材を運出する用に供ず。
(2)池沼 有井村の【山崎前沼】を最大とす。
{有井村大字有馬村に花窟(はなのいわや)あり。伊弉冊尊(いざなみのみこと)を祀る。}
(Ⅲ)低地 東南海岸に低地あれども砂壌(すなぢ)にして耕作の利少なし。農産物は甘薯・茶・煙草の類のみ。然れども気候暖きが故に好き蜜柑を産し、其名殊に著はる。
(二)気候 山間と海岸との別はあれども、南洋の温潮を受くるが故に、概して頗る温暖なり{寒暖計平均六十七度}。

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