(三)海岸 北部は岬・湾出入多くして、其沿岸は岩角なり。南部は屈曲少なくして砂浜なり。
 (1)港
  【木ノ本港】・【尾鷲港】は牟婁の産物を輸出する要港なり。
   {牟婁は地僻にして、且、海波険悪なるが故に航行不便にして、港繁盛するに至らず。}
   {然れども近来、伊勢・大坂間を往復する汽船の、木ノ本・尾鷲・長島・引本・二木島諸港に寄港するものあり。}
 (2)浦
  南牟婁の海浜を【七里浜】と称す。船行甚だ危険なり。
 牟婁の海岸は漁業甚だ盛にして、鰹・鰤(ぶり)・鮪(しび)・鰘(かど)・鰮等は其の産最も多く、又、【阿田和村】の海浜に於ては鯨を猟す。
 鰹は鰹節に製し、鰘は塩物として近国に出す。殊に佳品なり。

挿絵063

(四)都邑
  【尾鷲町】は人口五千余。北牟婁郡役所{県庁より二十七里}あり。
  【木ノ本町】は人口三千余。南牟婁郡役所{県庁より三十七里}あり。
  此の二町は伊勢より和歌山県に通ずる要路に当り、其の繁庶なること牟婁に最たり。然れども路遠く且険にして運輸不便なれば、財源に富めども殖産商業未だ盛大にをもむかず。

(五)人情風俗 人気素樸(そぼく)にして淳良(じゆんりよう)なるも、稍粗野の風あり。

[附説]{牟婁は古の熊野にして神代の事蹟ある処なれども、土地の状勢前述の如くなれば、何事も世の進歩に後れしなり。中世に熊野別当といへる神官ありて、威勢を振ひ郡内を支配したりしが、其後、土豪互に争ひ各一方に割拠したり。徳川将軍の時に至りて和歌山藩の領土となり、木ノ本の代官庁之を支配せり。維新の後に至りて藩廃して県となれり。

復習問題
 {牟婁の概勢は如何。〇山脈は如何。〇八鬼山は。〇山の産物は。〇川流の方向は。〇鵜殿村に何ありや。〇北山川・音無川は如何。〇川の功用は。〇低地及び其地味を語れ。〇農産物は如何。〇良好なる農産物は。〇気候は如何。〇伊勢に比して何程の相違ありや。〇海岸の状勢は如何。〇何れの港か要港なりや。〇何故に港か大に繁昌せざるや。〇海産物は如何。〇捕鯨の地は。〇都邑の最たるものは何町なりや。〇何故に商業盛ならざるや。〇然らば道路と殖産の関係は如何。〇牟婁の人情風俗は如何。〇其れは何故に然るや。〇此郡の歴史を述べよ。

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