[生業]
農業 農は本県最も重要なる生業にして、之に従事するもの県内人口の百分の六十なり{農業者五十四万余人}。
商業 都邑の人は大抵商業を営む。四日市・津・桑名・松坂・宇治山田等を最とす。
工業 製糸・紡績・製陶・製茶等、近来大に進歩し、醸造・製油・製紙等も亦、頗る進めり。然れども工業は今日にありては未だ充分の盛大に達せず。
漁業 海浜の人は大抵漁業を営む。志摩・牟婁及び伊勢の南島を最も盛なりとす{漁業者は八千六百戸}。
鉱業 鉱坑甚だ多からざるが故に、鉱業は未だ盛ならず。
樵業 山地の人は大抵樵業を営む。牟婁・伊賀等最も盛なり。
[物産]
農産物 米を第一とす。其の一年の収穫高は百二十万余石にして、価額は平均五百万円なり。米に次ぎて多額なるは、麦・菜種・茶葉・藍葉・綿・大豆・甘薯の類とす。
{年内産出の価額、麦は米の五分の一、菜種は十分の一、藍葉は二十五分の一に当る。}
山林の産物は杉・檜・松等を最とす。産額実に夥し。
鉱物 陶土・石灰・鉛・銅・銀等を著名とす。金属は産出未だ甚盛ならず。
{銀の一年間の製煉高は三貫余に止る。}
水産物 第一は鰹にして、一年に収入する価額、殆ど三十万円に達す。之に次ぐものは鰮・鯷・石花菜等なり。
製造物 製茶・生糸・木綿織・油・紙・陶器・綿糸を著大なりとす。
{一年に産出する価額、茶は五十九万円、生糸は六万八千円に達す。}
{三重県の産茶額は静岡県に次ぎて日本国中の第二に位し、製茶地方十県の一なり。}
{紅茶は製造未盛ならず。玉露は僅に三重郡に産す。}
本県産品の外邦に輸出するものは、製茶・精米・生糸・万古焼及び、海参・鮑・鯣(するめ)等の海産物なり。海産物は重もに支那に輸出し、其他は英・米・仏等の諸邦に輸出す。
[人情風俗]怜悧にして生計の道に長ぜるは各地大抵同じと雖も、伊勢は尤も通達にして志摩は尤も温柔に、牟婁は質樸極まりて稍粗野なり。
{語調は県内大抵同一なれども、桑名の士族は今に白川訛(なま)りを失はず。北より南に至るほど言語優柔にして丁寧なり。牟婁は一種の語調ありて、語尾の音高し。}
[管轄の沿革] 明治四年、創めて安濃津県を置きて伊勢の安濃以北の八郡及び伊賀全国を管轄せしめ、伊勢南部の五郡及び志摩・牟婁は度会県之を管轄し、県庁を山田に置けり。安濃津県は県庁を津に置きしが、翌五年、四日市に移し三重県と改称し、六年に県庁を津に復せり。九年、度会県廃し、其の管地尽く三重県に合す。是に於て四国二十一郡、一県の支配となれり。
十一年、郡制の令あり。管内を十五部に分ち、毎部に郡役所を置きて之を支配せしむ。二十一年、市町村制の発布あり。即ち、大に市町村の区画を更新し、自治制の基礎を確定す。

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