(三)【海岸】内海は伊勢ノ海と言ひ、尾張を隔つること五、六里、南北十余里にして岬角なし。南大湊より北伊尾川の海口に至るの間、平坦なること三十里。北に桑名・四日市の両港あり、中間に鼓ヶ浦・贄崎港・阿漕浦等あり、南に二見浦あり。伊尾川は美濃より来り、木曽川は尾張より来り、各南流して相合ひ、長嶋を抱きて共に内海に注ぐ。是を国の東北境とす。
{二見浦は度会郡江村の海岸にあり。奇巌海中に双立して景色壮快なり。神宮に賽する者并せて此の地を観ざるもの少なし。又海水浴場あり。側らに碑文を建つ。此の海浜に賓日舘あり。楼上より登臨すれば、富嶽・白根山・白山・御岳・駒ヶ岳、其の他近国の諸山海中に浮ぶが如く、眺望絶佳なり。明治二十年三月皇太后宮行啓の時、行宮の為めに作りしものなり。又為めに御塩山を開鑿して、二見より志州鳥羽に至るの新道を開き、車馬の往来を便にす。故に昔日に比すれば大に運輸の便あり。}
【気候・地利】此の国の気候は概ね温暖にして中和を得たり。然れども山地に属するに随ひ稍寒冷なり。
{寒暖計平均十七度。}
西南山岳地方を除くの外、大抵土地膏腴にして穀物良く熟す。山麓或は谿谷には処々広闊なる森林あり。殊に安濃郡河内村・鈴鹿郡加太村・一志郡矢下村・同郡波瀬村等は森林多き地にして、松・檜・杉等の材料を出だす。砿山は銀及び銅鉱あれども、未だ盛に採堀するに至らず。
{多気郡大杉村は大台ヶ原山の東麓にあり。数里の間嶮峻にして、人跡未だ到らざる地あり。此の渓間に大杉の霊木あり。囲み四丈、高さ八十五尋あり。}
[多気郡大杉谷の森林は、松・杉・檜・欅・栂等の良材多く、殊に能く暢茂す。鬱蒼として昼暗く、県内第一の森林なり。此の地の如きは実に他邦に稀なり。又渓澗に大瀑あり。其の尤著るるものは、千尋・嘉茂助・不動・七ツ竈等、孰れも五十余丈の大瀑にして、野尻村にも亦有名の大瀑あり。此の地に瀧ヶ原太神宮を奉祀す。]


海浜は漁塩の利多し。一志・安濃・河曲・奄芸等の沿海に於ては、晩秋の頃より漁業殊に盛りなり。又、朝明・桑名等の沿海には、中春の候白魚・蛤等を産すること夥し。川流は皆水浅くして運輸の便少なし。贄崎港より四日市港の間、汽船常に往来し、又東南神社港にも往復して運輸頗る便なり。温泉は三重郡西坂部村の御舘湯、同郡菰野村の鹿ノ湯、一志郡榊原村の温泉、多気郡丹生村の潮ノ湯、同郡大ヶ所の炭酸泉、度会郡阿曽炭酸泉、同野後の炭酸泉等あり。皆浴客多く各薬効あり。
{榊原村の温泉は貝石山の礎にありて、古より著名の温泉なり。又菰野は景色清麗にして、近来は夏日暑を避くる為め来り浴する人多し。}

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