軽口露がはなし

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軽口露がはなし 巻之二

  第一 伊勢講の当番

 一 去る医者いせ講の有りし所へ風(ふ)と立ちより、「これはいかうにぎやかなる体ぢや。」と申さるれば亭主申すは、「伊勢講にて御座候。」「それは御大儀。」といふに、「されば貴様のお薬と同じ事にてよくまはり候。」といへば、ことの外医者よろこびかへりけるに、又存じたる所へ寄りける。爰もどたくたといそがしく料理しけり。亭主申すは、「今ばんはいせこうつとめ申すなり。さいはひの所へ御出でなされた、勝手にて酒一つまゐれ。」といふ。「これは御大儀ながらも目出たい事。」と申すれば、亭主、「されば貴公の薬と同じ事にてさいさいあたります。」というた。

  第二 蚤の式三ばん

 一 ある人蚤を壱疋とらまへ、式三番をまはせける。むかひの親父これを見て、「扨もおもしろき事かな、吾ものみ一つほしや。」と思ひ、著類(きるい)を見れども、かねて女房きれいずきせしゆゑ壱疋もなし。是非なく四五日も程過ぎ、ある夕ぐれ時分、何かはしらず壱疋とらまへうれしゆ思ひ、三番さうを始め、自ら口笛を吹きゆびにて畳をたたき、片手に扇子をもち、きげんよくまはせける所へ、成人の子外より帰り、「親父これは何をなさるる。」と云ふ。「のみに三番さうをふまするぞ。おれは目がかすんで太夫殿の舞ひぶりが見えぬに、火燭を灯してちやと見よ。」といへば、むすここころえたとて火そく持ちきたりみるに、「何とよくまやるか。」ととふ。「いや親父まひはせぬぞ、まはぬも道理で御座る、役者がかはりて白身太夫ぢや。」といふ。

  第三 藤の丸がかうやく

 一 ある所に藤の丸のつきたる、なうれんかけたる家にて番を勤めけるに、折ふし田舎人通りあはせ、その儘立ちより、膏薬を買うてみやげにせんと所望する。番の者、「爰にはなし。」といふ。「して是れは何ぞ。」ととふ。「いやかうやくにてはなし、是れは町役なり。」と返答した。いと興有る答へにや。(『元禄笑話』19「藤の丸が膏薬」)

  第四 はなし鳥のさた

 一 じやうのこはき者二人寄りあつまりゐける所へ、門をはなし鳥はなし鳥と売り歩くなり。一人が云ふやう、「あのつばくらといふ鳥はとび魚になる。」といふ。又一人、「いやそれは大きにうそなり。」というて、両人赤面してせりあひける所へ、わるじやれなるをとこ一人来り此のせんさくを聞き、「むかしよりも、山のいものうなぎになる抔といひならはしけれども、つひに見たる事もなし。然れどもさも有るべし、おれも此の二十五日に北野の天神へ参るとて、はちくのかはざうり一足十九文にて買ひたるに、宿へ戻りみれば長刀になつた。」というた。(『元禄笑話』20「放し鳥の沙汰」)

  第五 蛸やくしへの日参

 一 三條辺にうはきなる男あり。いつの頃より蛸薬師日参いたし、其の身一代のうち蛸をくはぬとて、人にも披露せしが、祇園の涼みの折ふし、四條河原の床のうへにて、友達酒のみ居けるに、茶屋の肴とてもみ塩の大蛸を、物の見事に切りはやし出しける。彼のをとこ、やがて此のたこをしたたかにくひけり。つれの友、「それはたこなるに、何とて其の身はくひ給ふぞや。」といへば、此のをとこ、「さればきのふ十二日に、ふや町のほてい薬師へ願をかけかへ、向後われ一代の間は布袋をくはぬといふて、蛸のさいしんを乞ひたり。」(『元禄笑話』「蛸薬師への日参」)

  第六 親も閉口

 一 十二三なるむすこに親意見するは、「おのれに何をいひ付けても返事せず、打ちうなづいて許りゐるていたらく、近頃見ぐるし。おし五郎にてはあるまい、人の物いふにはいやおの返答申せよ、但しうなづく許りにて物事済めば、しぜんおれが目が見えずば、その風俗は見えまいし、然らば一代埒のあく事は有るまい。」などと、さんざんにらみ付けしかりける。子がいふやうは、「返事を高声にしたればとて、もし親父つんぼの時は。」というた。(『元禄笑話』18「親も閉口」)

  第七 仏前三具足

 一 去る田舎に一村みな一向宗にて、道場へまゐりて御讃嘆を聴聞いたし、事をはりて講衆申さるるは、「仏前のみつぐそくの内、らふそく立を仕なほし申さずばなるまい。あの鳥を何ぞ余の鳥にこのみ申したいが、何とおもはるるや。」といへば、いづれも此の議に同(どう)じ、「されば、烏や庭鳥もいかがなり、何がよかろや。」とせんぎしけり。其の中に小ざかしき男のいふは、「とかく白さぎにめされかし。」といふ。座中此の議然るべしと談合きはめけるに、坊主罷り出でて申さるるは、「いやいやさぎは無用になされ、其のしさいは、どぢやう坊主にさし合ひぢや。」

  第八 一家の内の物語

 一 ある所に一家まじはり、色々の物がたりをする次に中ゐの女房がいふには、「あの正月ある事は、五月かならず有るとなれば、万事いはひもつつしみもいたしたがよい。」と申せば、十四五なるこしもと女が是れを聞き、「さてはさやうにあることか、おれは左右も思はぬなり、正月はかちんをさいさい見もしくひもしたが、五月のけふは二十八日になれど、餅とて一つもみぬ程に。」(『元禄笑話』17「一家中の物語」)

  第九 疱瘡の養生

 一 上京新在家あたりを、三十許りの男とほりけるに、にしの方よりとしごろなる女房、下女一人めしつれ来るとて、此の男をみてほやほやと笑ひより、「粗忽ながら其方様を私所へ御供申したき。」と語る。此のをとこ常に色このまぬにもあらねば、早速に同道してかの女の所へ行き見れば、れきれきの家居なり。やがてろぢの戸をあけ、屏風引きちらしたる座敷へよび入れ、種々料理をくはせ、さて最前の女房いふ様は、「ちかごろ申しかねたる儀におはしまし候へども、私はこれの養君に、乳をまゐらせしうばにて御座候。今年十六になり給ひて、あちこちより縁付の事のみ申し参りしが、そもじ様に一めあはせ参らせたく存じ、扨かく申し入れたる事に候まま、是非御あひ下されよ。」と、手をとりおくの一間へつれ行きけり。男夢かうつつかなどと思ひながら、ふるひふるひ屏風のそばまで行きけり。かのうばむすめの枕もとへ寄りていふ様は、「もうしおまへ様にかかせられますなと申す証拠は、此の人を御覧じませ、おかきなさるるとひとしく、あの人の顔のやうにみつちやが出来ます。」というた。(『元禄笑話』26「疱瘡の養生」)

  第十 道化者があいさつ

 一 文盲にしてしかもだうけ者あり、其のとなりによしある人住みけり。或時夫婦いさかひはじまりて、たがひに声たかくなりけるに、かのだうけ者行き、けんくわ最中にあいさつするこそ、「おまへ様がおまへ様なれば、こな様がこな様なり、事のたとへにも大坂に介(すけ)六といふ大工さへ御座るに、かんにんさしやんせ。」といへば、此のつかぬ言葉がをかしゆなりて、夫婦ともににがにが笑うて中をなほりた。(『元禄笑話』27「道化者が挨拶」)

  第十一 風呂入り

 一 「ちと御めんなれ、草臥ものでひえ者で、どうもならぬが、あき所はいかが。」「御通りなされ、奥は武蔵野にて侍る。」「近頃かたじけなし。」抔というて、小風呂の内へ入りけるに、然る人、「山高きが故にたつとからず。」と口ずさみに申すを、なま物じりなる者が是れを聞き、「庭訓のただ中をいはるる。」といふにをかしく思ひ、又一人がいふ、「其方は物しりがほな事を云ふ、あれは庭訓にてはない、節用集といふ謡の本にある事ぢや。」と。(『元禄笑話』25「風呂入り」)

  第十二 欲ふかき姥

 一 ある山家に欲ふかきうばあり。人の物と見ては、木の葉ひとつわら一すぢなりとも、くれいくれいとたくしもらふなり。ある時大きなる鼠をとらまへそこなうて、尾許り引きちぎれ捨てけるを、「それをくれよ。」といふに、人、「これは鼠の尾なり。そなたにやりてもやくにたたぬ物よ。」といへば、かの姥、「成程やくにたつ。」と云ふ。「何にするや。」ととへば、その尾を干しておき、姥が家に伝はりたるきりのさやにするというた。(『元禄笑話』24「欲ふかき姥」)

  第十三 舞まひと百姓と口論

 一 それぞれに忌言葉のあるぞかし、茄子にはまふといふことばを百姓も憚るなり。都七條朱雀にてなすびをうゑる百姓あり、又その節は吉祥院開帳の折から、参詣の人の勧進をせし舞をまふ男あり。或時とほりあはせ見れば、大きなる土工李(とくり)に杯をそへて有り、ちと是れをなん望みにや思ひけん、畠へ立ちより、「さらば一節まはん。」と云ふ。百姓聞きて、「あらもつたいなや門出あしし。」と大いに腹立しけれ。兎角いひより酒をのみのませけるが、立ちて行きざまに、「さきほどの腹立は、たがひにねもはもおりない事よ。」と上ぬりを申した。

  第十四 坊主魚の願ひ

 一 ある所の地頭と中のよき出家あり。振舞によばれて色々食物の咄ありしに、「海月と云ふものは精進めきたる物なり、出家にもまゐらせたや、殿に云うて是れをゆるしにせん。」などと語る。年たけたる弟子聞きて、「殿へ仰せ上げらるるついでに鯉鮒の事をも頼み入れ、又私が名を替へます、宗加と申すがすきで御座る。」

  第十五 きれいずき

 一 きれいずきなるもの有り、けぬきを持ちて口のはたのひげをぬきゐたり。そばなるもの、「少しそれをわれにかし給へ。」といふ。「かし候はん間、むさい所をぬき給ふな。」とて渡しける。「扨もよくくふけぬきぢや、なんでもたしなみ人(て)かな。」抔とほめちらし、大かたしまひ、のどの下をぬきければ、かの者いふやうは、「それむさい所よ。」とゆびざししければ、「のどの下にむさき所がありや。」ととがめければ、「成るほど成るほどむさい、御身の下帯をはさむ所ぢや。」といふ。(『元禄笑話』23「綺麗好」)

  第十六 ひけふ者の喧嘩

 一 夜ふけて三條大はしを通る者あり。むかうより来る人に橋の中ほどにて行きあたり、それをとがめたがひに口論になし、一人は大男一方は小男、双方につかみ合ひ、大男は苦もなく小男をくみふせ、馬のりにしてゐたり。小男今ははやこれまでと思ひ定め、九寸許りのさすがをぬきつかんとせしを、上なる大男これをみて、高声に、「やれ人ごろしよ出合へ出合へ。」というたは、組みふせて居ながら卑怯者ぞと。(『元禄笑話』22「卑怯者の喧嘩」)

軽口露がはなし巻之二 終

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