img093r

【翻字】
天桂(てんけい)和尚
まゝよやれ 住(すめ)ばこそ あれ 難波(なには)江に よしといふとも あしといふとも
〇師名は伝尊(でんそん)号は天桂紀州 和哥山の人也八才にて伝弓(でんきう)和尚 を礼して落艸す十八にて行脚(あんぎや)し 偏(あまね)く済洞(さいとう)の知識(ちしき)に参し終(つい)に 駿州静居(すんしうせいきよ)の五峯(ごほう)和尚に嗣法(しはふ) すしかつしより化席(けせき)を開(ひら)きて 大に群類(ぐんるい)を度(ど)す晩年(ばんねん)大坂に 蔵鷺菴(ぞうろあん)を創(はじめ)て隠栖(いんせい)し 自(みづか)ら老螺蛤(らうるいごう)と称し又年八 十八に及びて老米虫(らうべいちう)とも称せらる 其年の十二月十日示寂す時に 享保二十年也 此哥はある人の師を嘲るよしを 聞てよみ給ひし也

【校訂本文】
 天桂和尚
 ままよやれ 住めばこそあれ 難波江に よしといふとも あしといふとも
 〇師、名は伝尊、号は天桂。紀州・和歌山の人なり。八才にて伝弓和尚を礼して、落艸す。十八にて、行脚し、遍く済・洞の知識に参し、終に、駿州・静居の五峯和尚に嗣法す。しかつしより、化席を開きて大いに群類を度す。晩年、大坂に蔵鷺菴を創めて、隠栖し、自ら「老螺蛤」と称し、又、年八十八に及びて、「老米虫」とも称せらる。その年の十二月十日、示寂す。時に、享保二十年なり。
 この歌は、ある人の、師を嘲る由を聞きて、詠み給ひしなり。

【語釈】
伝弓:現和歌山市の曹洞宗寺院・窓誉寺の僧。
落艸:不詳。「落髪」の意か。
済・洞:臨済宗と曹洞宗
知識:仏道に教え導く指導者
静居:静居寺。現静岡県島田市の曹洞宗寺院。
五峯:五峯海音
化席:不詳。「教化済度のための講席」の意か。
蔵鷺菴:現大阪市天王寺区の曹洞宗寺院
享保二十年:1736年

【解説】
 46人目は天桂伝尊です。紹介文はその略歴と、歌の詞書です。
 歌は少々難解ですが、詞書のおかげで歌意が次のようにわかります。「人が何と言おうが勝手に言わせておけば良い。良いも悪いも現にこうして難波の地に住んでいるのだから」。「難波江」と「葦(あし)」は縁語、「よし」は葦の別称、ともに「良し」「悪し」の意を掛ける掛詞です。