【八】
(伝九郎、七之助を裏切る 伝九郎と駕舁の争い 江戸金、お里を救い出す)
(伝九郎、七之助を裏切る 伝九郎と駕舁の争い 江戸金、お里を救い出す)
江戸屋金兵衛は、ソンナ事が出来たとは知らず、しかし油断はならぬと、毎日子分をソレとなく東陽寺へ遣って、お里を見廻らせる。今日も勘太を遣った処が、「別段何の仔細もない。」と聞いて安心し、一口飲んで枕に就いた。二時(やつ)とも思う頃に、
勘『親分。東陽寺から良全さんが来ました。』
金『何、東陽寺から使いが来た。』
偖はお里の身に凶事があったかと、枕を蹴って立ち上がった金兵衛。
金『良全さん、何事か。』
良『オー、親方。今しがた伝九郎が来て、お里さんを連れて行(ゆ)きました。』
金『シテ、行った先は。』
良『そりゃ、どっちへ行ったかよく知らんでナ。』
金『しかし、大概落ち着く先は判って居(い)る。イヤ、大きに御苦労でございます。』
良『和尚さんがえらい心配をして、早う此の事をあなたに知らせイと言われましたので、大急ぎで参りました。』
金『勘太、脇差を持って来い。』
勘『親分、どこへ。』
金『知れた事を聞くナ。行(ゆ)く先は高木だ。』
勘『相手は侍。まづ七八本の刀はございましょう。ソコへ親分一人で飛び込んでは……』
金『たとえ何人揃って居ようとも、木偶の坊同様な奴郎(やつら)だ。俺が一人で沢山だ。』
勘『どうかソンナ事を言わねえで、俺(わっし)も連れて行っておくんなさい。日頃習った剣術の腕を試すのはこういう時だ。』
金『汝(てめえ)、剣術を習ったか。』
勘『「習ったか。」とは、親分情けねえ。一刀流を七日、真影流が七日、無念流が七日、鞍馬流が七日に微塵流を七日と習って、合わせて五七三十五日。親分、蒸し物は一周忌にしましょう。』
金『何を言やアがる。不在(るす)を頼むぞ。』
金兵衛は甲斐甲斐しく支度をなし、覚えの脇差を振り込んで、お里の行った先は必定(てっきり)高木の住宅(すまい)と、道を急いで参りました。
御話は別れて、此方(こちら)は伝九郎が駕(かご)屋を急き立てて連れて参った高木の住宅。七之助は若党佐平次を相手に酒を飲んで、今か今かと待って居(い)る。
佐『若旦那。他に女のないではございません。主(ぬし)あるお里は廃(よ)したら宜(よ)うございましょう。此の事が大旦那に知れては大変でございます。』
七『貴様の知った事ではない。黙って居ろ。男が一度(ひとたび)思い込んだ事は、虎を描(か)いて猫と言っても飽く迄通す所存だ……佐平次。大分足音が聞こえるが、帰って来たのではないか。』
佐『ハイ。』
佐平次が立ち上がるトタンに、「ドカドカ。」と庭へ入って来たは、伝九郎に幸之助。続いておかめ。駕(かご)が一挺。此の駕(かご)にはお里が入って居ります。其の他に四五人の大男。是は、「もし途中で金兵衛に会っては一大事。」と、護衛の為に高木七之助が頼んだ者。
七『イヤ、伝九郎。大きに御苦労であった。』
伝{*1}『ようやくお里は引っさらって参りました。』
と言いながら、駕(かご)よりひき出して座敷へ上げる{*2}。伝九郎は高木から受け取った酒代(さかて)を駕夫(かごや)へ渡して何か耳打ちをした。
駕『ヘエ、承知して居ります。イエ、大丈夫でございます。』
駕夫(かごや)は引き取る。跡に護衛に従(つ)いて来た人々は、いくらかの金を貰って、高木の住宅の裏と表へ別れて、江戸屋から来るのを防がんと頑張った。
此方(こちら)は七之助。厭がるお里の手を取って引き寄せ、
七『お里。是程思う七之助の真実を酌んだら悪(にく)くはあるまい。又泣くのか。たって貴様が「厭だ。」と申せば、無理には迫るまい{*3}。しかし俺も武士だ。嫌われただけの返報はいたしてやるから。』
と、傍らにあった一刀を引き寄せる。是を見て居た伝九郎が、
伝『マア、若旦那。御待ちなさい。こういう事はすべて短気ではいけません。気を長くもって、徐々(そろそろ)と持ち込まなければ纏まりませんヨ。「深草の少将は小町の元へ百夜(ももよ)通った。」と言うじゃアございませんか。短気は損気とやら。何事も怒ってしまってはそれぎりで。大方コンナ事があるだろうと、女房(かかあ)を伴(つ)れて参りました。牛は牛づれとか。女は女でなければ説得(ときつけ)るに工合(ぐあい)が悪うございます。オイ、おかめ。お前(めえ)何とかうまくお里さんを説得(ときつけ)てくれ。若旦那は気が短くッていけねえから。』
かめ『何とかお里さんへ話してみよう。ねエ、お里さん。高木の若旦那の言う事を聞けば、お前は蔵奉行の御令閨(ごしんぞ)様になられるンだヨ。それだのにアンナ不具(かたわ)な沢市さんへ義理を立てるとは、どう考えても妾(わたし)には判らない。それも、「検校様。」とか沢市さんが言われて、黒塗りの橦木(しゅもく)の杖でも突くような、立派な身分の御新造にもなるなら、たとえ相手が盲目(めくら)でも、又考える事もあるけれども、上下(かみしも)揉んで五十か百、一生涯うだつは上がらないヨ。お前なぞは年も若いし、花なら是から発(ひら)こうという、謂わば蕾の今の身を、何も好んでアンナ盲目(めくら)の女房にならなくっても宜(よ)さそうなものだネ。サア、若旦那の言う通り、お前の心のもちようで、御令閨(ごしんぞ)になれるのだヨ。何をお前泣いて居(い)るンだネ。』
七『おかめ。此女(こいつ)は中々執拗(ごうじょう)だから、ソンナふうに柔らかく申しては、いつまでも埒があかぬ。モー俺はあきらめた。しかし只はあきらめん。今まで辛く当たられた、其の返報をいたしてやる。』
かめ『マア、若旦那。お待ちなさい。ほんとうに此の女も執拗(ごうじょう)なら、あなたも短気ですヨ。「深草の少将は小町の元へ百夜(ももよ)通った。」と言うじゃアございませんか。』
七『イヤ、其の事は伝九郎から聞いたが、俺は深草の少将程の辛抱は出来ぬ。』
かめ『マア、御待ちなさい。ゆっくりモー一度説得して見ますから。しかしここではあなたが怒るので、充分に説得が出来ませんから、他(わき)の御坐敷へ行って。』
七『どこへでも勝手な所へ伴(つ)れて行(ゆ)け。』
かめ『サア、お里さん。一緒に御出(い)で。じゃア、伝九郎さん。此の女(こ)は妾(わたし)が預かるから。』
伝『預かるのは宜(い)いが、大分御座敷が陰気になって来た{*4}。一杯熱く御酣(おかん)をして、若旦那と中川さんへ上げてくれ。』
かめ『そうだろうと思って、お酣(かん)も出来て居(い)るから。』
と、おかめが持って来た酒。
伝{*5}『よし。其処へ置いて行け。』
伝『それではお里さんは汝(てめえ)に任せるから、「ウン。」といういい音(ね)を出すようにしてくれ。』
かめ『ドンナ音(ね)が出るか知れないが、モー一度当って見ようから。』
と、おかめはお里を伴(つ)れて次へ立つ。
後(あと)に伝九郎が、
伝『サア、若旦那。御一ツ御あがんなさい。中川さんも…』
幸『イヤ、忝い。高木様、まづ召しあがれ。』
伝『チト御酌が気に入りますまいが。』
七『蝮の伝九郎が酌をしてくれるので、是がほんとうの蝮酒であろう…此の酒は妙にザラリとするが。』
伝『イエ。そんな事はございません。』
七『俺の口のせいか。』
伝『中川さん。どうでございます。』
幸『夢中に飲んでしまったので、拙者には判らん。』
七『伝九郎。其の方、一ツ飲んで見ろ。』
伝『ヘエ。私も頂戴いたしますが、モー一ツ若旦那飲んで御覧なさい。』
七『ドウ…ブッ…是もザラ付くようだが…ウーン。コヽ、是は…伝九――郎。』
伝『若旦那。どうなさいました。』
幸『アッ。是は。』
と言うと、中川に高木七之助が口から泡をブクブク出して打ち仆(たお)れました。此の容子をジットみて居た伝九郎。
七『おかめ。計略(はかりごと)は上首尾だ。』
かめ『そうかえ。』
襖をサラリとあけて、お里を伴(つ)れて立ち出る三日月おかめ。お里は之を見ると、「アレ――。」と一声。逃げようとするを押さえて、
伝『声を立てるナ。』
と、飛びかかって小手を縛め、口にはかねて拵えて置いた、真綿に針を入れた猿轡を啣(は)めた。あたりを窺う伝九郎。泡を吹いて仆(たお)れて居(い)る七之助に中川を見て笑ったが、
伝『ヤイ。今飲ました酒の中には魔睡剤(しびれぐすり)がはいって居(い)るのだ{*6}。是、よく聞け。此のお里故には、俺も江戸屋ににらまれて、とても此の土地に永居は出来ねえ。ソコデおかめと相談して、どうせ高飛びををするには、此のお里を引きさらい、大阪か兵庫へ持って行って金にするつもりだ。わずか十両か二十両のはした金で、飽くまで汝(てめえ)に忠義を尽くす程、まだ伝九郎は耄碌はしねエぜ。実は東陽寺からお里をひき出した時に、すぐに逃げようと思ったが、汝(てめえ)が途中用心の為付けて寄こした人足が邪魔になって、ソコデ此所(ここ)まで一時(いつじ)女(たま)を持ち込んだのだ。永い苦しみはあるめえ。夜(よ)が明ければもとの身体(からだ)になるかも知れねえ。気が付いたら是から先は改心して、悪事をするなら俺を見習え。』
「改心して悪事を見習え。」という、コンナ判らない事はございません。七之助に中川は、気は確かだが口が利けませんから、恨めしそうに伝九郎を白眼(にら)めて居(い)る。
伝『オイ。裏と表に居(い)る用心棒はどうした。』
かめ『今ね、御酒を持って行って片附けてしまうから。』
伝『早くしろ。キット江戸屋がココへ来るだろうと思うから。』
おかめは例の毒を入れた酒を持って出て来た。
かめ『皆さん。御寒い処を御苦労様でございます。』
〇『イヤ、どうも。今に江戸金が来るかと思って待って居たが、いまだに参らんで。空腹にはなるし、寒さは身に浸(し)みるし。実に遣り切れんテ。』
かめ『御酒を持って参りました。』
〇『それは忝い。しからば早速頂戴しよう。』
是から五六人が、おかめの持って来た酒をガブガブ飲んだ。どうして堪るものではない。毒の利き目は恐ろしいもので、一人がバッタリと仆(たお)れる。
△『中村、いかがした。コレ、どうした。』
と言う内に、又一人が倒れる。バタバタ五六人、将棋倒しに倒れました。おかめはすぐに引き返して、
かめ『伝九郎さん。モー大丈夫だヨ。』
伝『そうか。それじゃア出かけよう。』
かめ『出かけるは宜(い)いが、小遣いを持って行(ゆ)こうじゃアないか。』
伝『それもそうだ。』
二人で用箪笥の抽き出しから、有り金を奪って懐中(ふところ)へ入れ、
伝『じゃア高木の若旦那。いろいろ御世話になりましたが、是で御暇(いとま)を致します。どうか御身体(からだ)を御大切になすって。さようなら、御機嫌宜(よ)う。』
ひどい奴があればあるもので、お里を引っ背負(しょ)って、伝九郎はおかめの手を取り、裏口から逃げだした。
二三町上(かみ)へ来ると、地蔵堂の後ろから、
〇『蝮の親方でございますか。』
伝『オヽ、其処に居たか。』
〇『さっきから御待ち申して居りました。』
伝『大きに寒い所で冷(すず)まして、気の毒であった。』
〇『親方。女(たま)はどうしました。』
伝『コヽへ伴(つ)れて来た。』
〇『此方(こっち)へ受け取りましょう。オイ、寅。ちょっと手を貸してくれ。』
と言ったは駕夫(かごや)で、かねて言い合わしてあると見えて、此所(ここ)に待ち受けて居たのでございます。
おさとを無理に駕(かご)へ入れて、パラリと垂(たれ)を下ろし、其の上を縄引(ほそびき)で巻いて肩を入れたが、
〇『では親分。行(ゆ)く先は。』
伝『大阪へ持って行ってくれ。』
〇『畏まりました。』
伝『どうだ、急いで行ったら新沢(にいざわ)あたりで夜(よ)が明けるだろうナ。』
〇『ソンナ物でございましょう。』
寅『オイ、熊。どうだろう、今の内報酬(そめちん)を極めて貰おうじゃアねえか{*7}。』
熊『そうヨナア。もし、親分。まだ骨折りを極めませんが、いくら俺(わっし)たちに下さるンで。』
伝『ソンナ事は新沢(にいざわ)へ着いてから、ゆっくり相談しようじアねえか。』
熊『何ね。そりゃア親分の事だから、しみッたれな報酬(そめちん)を出さねエは、俺(わっし)たちも知って居ますが。念の為、御聞き申すのでございます。』
伝『じゃア面倒だ。前払いにくれてやるから。サア、之だけ取ったら言い分はあるめエ。』
熊『有難うございます。』
手に取って、「チャリッ。」と金の音をさして見て居たが、
熊『オイ、寅。親分が前払いに下すった。どうだえ。是で宜(よ)かろうか。』
寅『どう……三両じゃアねエか。』
熊『そうヨ。』
寅『返(けえ)してしまえ。』
熊『何を。』
寅『返(けえ)してしまえと言うンだ。』
熊『「返(けえ)してしまえ。」と。オイ、寅。三両だぜ。』
寅『三両だから、返(けえ)してしまえと言うンだ。』
熊『三両じゃア少ねエのか。』
寅『当然(あたりめえ)ヨ。多ければ黙って貰って置くが、少ねエから返(けえ)してしまえと言うのだ。それとも汝(てめえ)は「それで沢山だ。」と思ったなら、一人で此の駕(かご)を担いで往(い)け。』
熊『冗談言うナ。函根山の関口弥太郎じゃアあるめえし、一人で駕(かご)が担げるかえ。』
寅『担げなければ返(けえ)してしまえ。』
熊『そうか……親分へ。折角でございますが、此の三両は御返し申します。』
伝『ウン。三両じゃア不承知か。』
熊『返(けえ)す位なんですから、不承知なんでございましょう。』
伝『いくら寄こせと言うのだ。』
熊『ヤイ、寅。いくら貰えば宜(い)いのだ。』
寅『もし。蝮の親分へ。物には大概相場がございますヨ。駕(かご)の中の品物が、普通(あたりまえ)の代物じゃアねえ。是から大阪か兵庫へ持って行って、年一杯ほうり込めば、二百や三百と纏まった金が摑めるンだ{*8}。お前さんはウンと儲かって宜(よ)かろうが、俺等(こちとら)は拐帯(かどわか)しの提灯持ちで、「御用。」と食らえば首にかかわるんだ{*9}。ソンナ危ない仕事を、どうも三両じゃア出来ません。』
伝『それでは、いくら遣ったら大阪まで持って往(ゆ)く。』
寅『五十両おくんなさい。』
伝『五十両くれろ。馬鹿ア言うな。此の玉を無事に大阪まで持って行って、二百と三百と纏まった金を取った上は、二十両や三十両はくれてやらねえ事もねエが、海の物だか山の物だか、まだ判らねえ代物へ、五十両は払えねえ。』
寅『払えなければ、御免を蒙るばかりさ。代物は其方(そっち)の物、駕(かご)は此方(こっち)の物だ。オイ、熊。女を下ろしてしまえ。』
と、両人(ふたり)が駕(かご)の垂(たれ)を揚げようとするを、
伝『マア待て。』
寅『留めるからには五十両。前金に下さるかね。』
伝『どうも五十両は。』
熊『高いと思うならばおよしなせエ。無理に大阪まで行(ゆ)こうとは申しません。お前さんが五十両出さなければ、是から帰って「恐れながら。」と訴えて出るばかりさ。それじゃア却って御為(おため)になりますまいが。』
伝『厭に脅し文句を並べやアがる。』
熊『何が脅し文句だ。「拐帯(かどわか)しの手伝えは五十両でなければ厭だ。」と言うンだ。』
伝『奴郎(やろう)、生意気な事を言やアがるナ。』
熊『ヤイ、寅。面倒だ。蝮を殺して女(たま)ア此方(こっち)へふんだくれ。』
伝『よし。合点だ。』
二人の駕舁(かごかき)が息杖を取って打って来る。伝九郎は腰の脇差を引き抜いて渡り合った。おかめは亭主に怪我をさせまいと、横手を流れる檜熊(ひのくま)川の河原に下りて、石を取って投げる{*9}。
熊『ヤイ、寅。危(あぶね)い。蝮は俺が引き受けるから、女房(かかあ)を片付けろ。』
寅『オット承知。』
と、石をよけながら飛び込んで来た駕夫(かごや)の寅蔵。息杖でおかめの肩を打った。「アッ。」とそれへ打ち倒れる。「ドンナもんだ。」と、のしかかって又打った。「ウーン。」とおかめは気絶する。此の騒ぎの所へ、向うから走(か)けて来た一人。何か思い当った事があると見え、お里の乗った駕(かご)の傍へ忍んで参りまして、垂(たれ)を上げて中からお里を引き出し、其の儘ドンドン遁(に)げ出した。
そんな事が出来たとは、此方(こっち)は夢中。
伝『サア、奴郎(やろう)。覚悟しろ。』
熊『サア、来い。』
寅『ヤイ、熊。大変だ大変だ。駕(かご)の中に居た女(たま)が見えねエぜ。』
熊『何。女(たま)が見えねエ。ハテネ。』
前に居た伝九郎も驚いた。
寅『何だ。女(たま)が居なくなった。』{*10}
と言うと、三人喧嘩が仲入りになってしまった。
伝『マア待て。どこへ行ったろう。』
熊『どこへ行ったか判りません。』
伝『肝心な女(たま)が居なくなっては、喧嘩をする張り合いがねえ。』
熊『居た居た。イヤ、是は姐(あね)さんだ。ヤイ、寅。汝(てめえ)がコンナ事をしたんだろう。早く姐(あね)さんの手当てをしろ。』
寅『もし。姐さん。しっかりなさい。』
暢気な奴があったもので、自分で気絶させて又介抱をして居ります。
おかめはようやく気が付いたが、
かめ『ひどい事をするじゃアないか。』
寅『どうも済みません。姉(ねえ)さん、勘弁しておくんなさい。あんまりお前さんがおてんばなものだから。それはそうと、肝心な女(たま)が居なくなりました。』
かめ『どこへ行ったろう。』
伝『イヤ。コンナ事になったのも、つまり此奴(こいつ)等が判らねえからだ。』
熊『だってお前さんが吝(しみ)ったれだから。』
伝『汝(てめえ)達が判らねエのだ。』
熊『何が判らねエ。汝(てめえ)が判らねえから、こんな事になったのだ。サア、女(たま)を逃がした上は自暴(やけ)だ。覚悟しろ。』
伝『生意気な。』
と、又喧嘩を始めた。
偖、お里を助けた者は、そもそも何者であるか。高木七之助は是からどうなるか。大阪へ治療(じりょう)に参った沢市はどうなったか。以下、次席に詳しく申し上げまする。
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校訂者注
1:底本は「七『漸(やうや)くお里(さと)は」。誤植と見て訂正。
2:底本は「偽(かご)より惹出(ひきだ)して」。誤植と見て訂正。
3:底本は「無現(むり)には迫(せま)るまい」。誤植と見て訂正。
4:底本は「預(あづか)るのが宜(いゝ)が」。読みやすくする意図で修正。
校訂者注
1:底本は「七『漸(やうや)くお里(さと)は」。誤植と見て訂正。
2:底本は「偽(かご)より惹出(ひきだ)して」。誤植と見て訂正。
3:底本は「無現(むり)には迫(せま)るまい」。誤植と見て訂正。
4:底本は「預(あづか)るのが宜(いゝ)が」。読みやすくする意図で修正。
5:底本のまま。
6:底本は「魔睡剤(ひゞれぐすり)」。読みやすくする意図で修正。
7:底本は「極(きめ)て貰(もら)ふ」。一字欠字と見て補った。
8:底本は「二百 三百と」。欠字を補った。
9:底本は「俺等(こしとら}は」。読みやすくする意図で修正。
10:底本は「檜前川(ひのくまがわ)」。誤植と見て訂正。
11:底本は「居(ゐ)なくなつたと。』言(い)ふと、」。誤植と見て訂正。
12:底本は「熊『若(も)し姐(あね)さん」。誤植と見て訂正。
6:底本は「魔睡剤(ひゞれぐすり)」。読みやすくする意図で修正。
7:底本は「極(きめ)て貰(もら)ふ」。一字欠字と見て補った。
8:底本は「二百 三百と」。欠字を補った。
9:底本は「俺等(こしとら}は」。読みやすくする意図で修正。
10:底本は「檜前川(ひのくまがわ)」。誤植と見て訂正。
11:底本は「居(ゐ)なくなつたと。』言(い)ふと、」。誤植と見て訂正。
12:底本は「熊『若(も)し姐(あね)さん」。誤植と見て訂正。
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