〇政所蹟
蹤蹟詳(つまびら)かならず。小名、横大路に在りしなるべし。始めは、公文所と称す。元暦元年八月、始めて造営せらる。十月、安芸介{**1}広元を別当とす。建久{**2}三年八月、頼朝、政所始めとして出座あり。其後、嘉禄元年、幕府を宇都宮辻に移さるに、政所を壊ち、改め造られしならん(凡て、此所にて政事の下文を行ひしなり。元弘三年、北條滅亡の後、廃絶す)。
三浦泰村畠山重忠宅蹟
三浦邸は、鶴岡社の東、筋替橋の辺にあり。『東鑑』、西御門宅とは、此所なり。畠山邸は、橋の坤方にあり(宝治元年五月、北条時頼、軽服にて三浦の邸に止宿ありしが、俄に帰館す。是、泰村が一族、陰謀あるを察せしなり。六月、時頼、平左衛門入道盛阿をして、之を諭さしむ。泰村、悦びて許諾す。安達泰盛、祖父・高野入道(景盛)が勧めに因りて、甘縄の館を出て、鶴岡域内薬師堂の門前より、鬨を作りて泰村の宅を襲ふ。泰村、驚きて、家子郎従等をして防ぎ戦はしむ。時頼も、今は宥むるに由なく、時定を大将として之に向はしめ、南隣の人家に火を放ちて攻撃しければ、泰村は支ふる事能はず、法華堂に至り、遂に自害す)。
〇大蔵幕府蹟
里俗、頼朝屋敷と唱ふ。大蔵町の北にて、方六町許りの地なり。地形を以て其境界を計るに、南は大蔵町の街道、西は鶴岡、北は法華堂に辺し、艮の方に荏柄天神社あり。四面に門を設け、其方位を以て之を称す。門外の地名を、東御門・西御門・南御門など唱ふる、是なり(北御門の地名は、所見なけれど、『東鑑』に、「建保元年五月二日、尼御台所並御台所等、営中を去り、北御門を出、鶴岡別当坊に渡御す。」とあれば、北方にも門ありし事、知るべし)。抑(そもそも)、此地は、伊予守頼義の居蹟たりし事、『保暦間記』に載す。又、陸奥守義家が舘を大倉谷に造営せしと、准后親房の記に見ゆ。其後、頼朝始めて舘を造営し(治承四年十月)、実朝・政子に至るまで、政を聴く。嘉禄元年十月、政子薨じて、幕府を宇津宮辻(宇都宮幕府は十二年間なり。)に徙(うつ)す(通じて四十六年間なり){**3}。
和田義盛、幕府を囲むや、朝比名三郎義秀{**4}、総門を破り、南廷に乱入す。此時、放火に依りて、府内の舎屋、悉く焼亡す。実朝、火を法華堂に避けらる。其年八月、造営なる。造営の間は、将軍家、大江広元の第にあり。
幕府内
大御所
頼朝の遺跡にて、政子居住ありし事、『東鑑』に見へたり。
小御所
養和元年五月、造営あり。建仁の頃は、一幡、此に住す。
建仁三年九月、比企能員誅せられ、其一族、此所に籠りて謀反す。政子、軍兵を遣り、之を討たしむ。彼輩、防戦の後、館に火を放ちて自尽す。一幡も、其殃に罹れり。大輔房源性{**5}、一幡の遺骨を収め、高野山に納む。
其他、北向御所・兵御所・常御所(実朝、此所に政事を見ると云ふ。)等の名あり。
〇若宮大路幕府蹟{*1}
土俗、親王屋敷と唱ふ。分内、方一町許り、平田を闢(ひら)けり。東は小町大路を隔て、宝戒寺に対す。嘉禎二年八月、将軍頼経、宇津宮辻の幕府を此地に移し、守邦親王に至るまで、六世相継ぎて、此に居住あり。
幕府を宇都宮辻に移さるべきの議ある時に、『東鑑脱漏』曰、「十月三日、相州・武州、御所へ参り給ふ。当御所、宇津宮辻に地を移さるべきの由、其沙汰有り。又、若宮大路東頬(つら)に立たせらるべきかの由、同じく群議に及ぶ。云々。廿日、珍誉法眼申して云く、[中略]若宮大路は、四神相応の勝地なり。西に{**6}大道南行し、東に河有り、北に鶴岡有り、南に海水を湛へ、池沼に准(なず)らふべし。云々。依りて此地用らるべきの旨、治定し畢んぬ」。此文に拠れば、大蔵幕府を若宮大路に移したりし如くなれども、嘉禎二年六月廿六日條に、宇津宮辻に幕府ありし事見えたり。
建長四年四月、頼嗣帰洛、宗尊親王東下に依りて{**7}、幕府を改造せらる。元弘三年五月、北條氏滅亡の時、幕府も兵燹に罹り、守邦親王は、遁れて出家せられしが、八月逝去あり。其後、足利尊氏、此に舘を構へし事、『梅松論』に見えたり。詳かならず。
府内二棟御所、小御所・中御所の名目あり。
二行割書注
1:『鎌倉志』に、「今其所を知らず。宝戒寺の辺ならん。」と云ふは、誤りなり。(〇若宮大路幕府蹟)
校訂者注
1・2:ともに、『新編相模国風土記稿』「鎌倉郡巻之十六 政所蹟」に従い訂正。
3:政子死去は嘉暦元年(1225年)七月、大蔵幕府破却決定が同年十月である(『東鑑脱漏』同年同月四日「旧御所破却さるべし云々。」)。
4:底本は「朝夷名三郎義秀」。
5:『新編相模国風土記稿』「鎌倉郡巻之十三 管領邸蹟 小御所」に従い訂正。
6:『東鑑脱漏』嘉暦元年十月廿日の條に従い訂正。
7:『東鑑』によれば、建長四年(1252年)三月廿一日、前将軍・藤原頼経一家が宇都宮辻幕府を出、同年四月一日、新将軍・宗尊親王一行が鎌倉到着、同年十一月十一日、新将軍が完成した新御所へ移っている。
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