骨皮(ほねかは)(二番目 三番目)
▲アト「当庵の住持でござる。某(それがし)、久しくこの寺に住職致し、殊の外辛労にござるによつて、この度隠居致し、新発智(しんぼち)にこの寺を譲らうと存ずる。
{と云ひて、呼び出す。出るも常の如し。}
愚僧も、久しくこの寺に住居(すまひ)して、いかう辛労なによつて、向後この寺を、そなたに譲らうと思ふが、何とあらう。
▲シテ「それはまた、遅からぬ事でござる。
▲アト「さう云ふは、定めて遅いといふ事であらう。疾(と)うにも譲らうと思うたれども、何かと遅なはつた。して、わごりよは見事、この寺をふまへさしますか。
▲シテ「をゝをゝ。風が吹きましたらば、屋根の棟へ上がつて、じつとふまへてをりませう。
▲アト「扨々、むさとした事を仰(お)せある。寺をふまふるといふは、その様な事ではない。まづ第一、朝起きをせねばならず、仏前の掃き掃除、仏に香花をとり、別して、旦那応答(だんなあしらひ)を大事にかけねばならぬ程に、さう心得さしませ。
▲シテ「畏つてござる。
▲アト「愚僧も、隠居するというて、余所外(よそほか)へ行くではない。この奥に引つ込うでゐるによつて、何なりとも、用があらば仰(お)せあれ。
▲シテ「心得ました。
▲アト「必ず必ず、旦那応答(あしらひ)を大事に召され。
▲シテ「心得ました。
{アト、脇座下にゐるなり。}
▲シテ「なうなう、嬉しや嬉しや。老僧が隠居せられて、向後、身共がこの寺の住持になつた。旦那応答(あしらひ)を大事にかけい、と仰せられた。随分、念の入れて、応答(あしら)はうと存ずる。
{と云ひて、大小の前下にゐる。}
▲小アト「この辺りの者でござる。山一つあなたへ参らうと存ずれば、どうやら雨が降りさうにござる。御寺へ参つて、傘を借つて参らうと存ずる。何かと云ふ内に、これぢや。
{と云うて、案内乞ふ。出る者常の如し。}
私でござる。
▲シテ「ゑい、こゝな人。扨、そなたに申して悦ばす事がござる。
▲小アト「それは何でござる。
▲シテ「老僧が隠居せられて、今日から私が、この寺の住持になつてござる。
▲小アト「扨々、それはめでたい事でござる。その様な事を、疾(と)うにも存じたらば、人を以てなりとも申さうに。かつて存じませなんだ。
▲シテ「御存じない筈でござる。今日(こんにち)、只今の事でござる。
▲小アト「扨、只今参つたは、別の事でもござらぬ。山一つあなたへ参らうと存ずれば、俄(には)かに雨が降りさうにござる。どうぞ、傘を貸して下されい。
▲シテ「易い事でござる。貸しませう。それに待たせられい。
▲小アト「心得ました。
▲シテ「さあさあ、これを差いてござれ。
▲小アト「これは、結構な傘でござる。もそつと麁相なを、貸して下されい。
▲シテ「老僧の秘蔵の傘なれども、貸しまするぞ。
▲小アト「近頃、忝うござる。それならば、も、かう参る。
{暇乞ふ。常の如くするなり。}
▲シテ「旦那応答(あしらひ)を大事にかけい、と仰(お)せあつた。申して悦ばせうと存ずる。申し、ござりまするか。
▲アト「何事でおりある。
▲シテ「只今、誰殿が見えまして、傘を貸してくれいと仰(お)せありましたによつて、貸しました。
▲アト「してそれは、どの傘をお貸しあつた。
▲シテ「この中(ぢゆう)張り替へたのを、貸しました。
▲アト「これはいかな事。出家が一本嗜(たしな)みにのけて置く傘を、貸すといふ事があるものでおりあるか。
▲シテ「でも、旦那応答(あしらひ)を大事にかけい、と仰せられたによつて、貸しました。
▲アト「されば、貸しませぬと云ふ事はならぬによつて、その様な事がもしあつたらば、この中(ぢゆう)、老僧が差いて出られましたれば、折節、辻風が吹きまして、骨は骨、紙は紙と、吹き破つてござるによつて、真ん中をみじと結(い)はへて、天井へ打ち上げて置きました。お役に立たいで残り多うござる、などゝ云うて、貸さぬものでおりやる。
▲シテ「畏つてござる。
▲アト「かまへて、さう心得さしませ。
▲シテ「はあ。これはいかな事。褒められうと思うたれば、思ひの外な事であつた。重ねては、ぬかる事ではないぞ。
▲馬カリ「これは、この辺りの者でござる。用事あつて、遠方へ参る。殊の外辛労にござるによつて、御寺へ参つて、馬を借つて乗つて参らうと存ずる。
{と云ひて、案内。シテ出るも、常の如し。}
用事あつて、山一つあなたへ参らうと存ずれば、いかう辛労にござる。どうぞ、馬を貸して下されい。
▲シテ「易い事ではござれども、この中(ぢゆう)、老僧が差いて出られましたれば、折節、辻風が吹きまして、骨は骨、皮は皮と、吹き破つてござるによつて、真ん中をみじと結(い)はへて、天井へ打ち上げて置きました。御役に立たいで残り多うござる。
▲馬カリ「いや、私の申すは、馬でござる。
▲シテ「されば、馬の事でござる。
▲馬カリ「あの、馬をや。
▲シテ「中々。
▲馬カリ「これはいかな事。それならば、是非に及びませぬ。も、かう参りまする。
▲シテ「ござるか。
{暇乞ふ。常の如し、馬カリ、入るなり。}
▲シテ「定めてこれは、気に入るでござらう。申して悦ばせう。ござりまするか。
▲アト「何を召された。
▲シテ「只今、誰殿が見えまして、馬を貸してくれいと仰せられたによつて、御前の云はせられた通りを申して、貸しませなんだ。
▲アト「愚僧は何も、馬の事は云はなんだが。してそれは、何と仰(お)せあつた。
▲シテ「この中(ぢゆう)、老僧が差いて出られましたれば、折節、辻風が吹きまして、骨は骨、皮は皮と、吹き破つてござるによつて、真ん中をみじと結(い)はへて、天井へ打ち上げて置きました。御役に立たいで残り多うござると申して、貸しませなんだ。
▲アト「それは、馬の事か。
▲シテ「中々。
▲アト「これはいかな事。むさとした事を仰(お)せある。どこにか、馬を差いて歩(あり)くといふ事があるものか。馬なら馬で、云い様がある。この中(ぢゆう)、青草につけてござれば、駄狂ひを致して、腰が抜けましたによつて、馬屋の隅へつないで置きました。御役に立ちませいで残り多うござる、などと云うて、貸さぬものでおりある。
▲シテ「心得ました。
▲アト「かまへて、さう心得さしませ。
▲シテ「はあ。又、違うた。今度は、ぬからる事ではないぞ。
▲斎「この辺りの者でござる。明日は、こゝろざす日でござる。御寺へ参つて、御住持を頼うで参らうと存ずる。
{と云ひて、案内乞ふなり。出るも常の如し。但し、「又、表に案内があるわ。今日(けふ)は良う人の来る日ぢや。」と云ふも良し。}
▲シテ「ゑい、こゝな。こなたに申して喜ばす事がござる。
▲斎「それは何でござる。
▲シテ「老僧が隠居せられて、今日から私が、この寺の住持になつてござる。
▲斎「扨々、それは、おめでたい事でござる。存ぜいで、御悦びも申しませなんだ。
▲シテ「いや、御存じないが御尤でござる。今日(こんにち)、俄かの事でござる。
▲小アト「扨、只今参るは、別の儀でもござらぬ。明日は、こゝろざす日でござるによつて、御斎(おとき)を上げませう程に、老僧様にも、御前にも、御苦労ながら、御参りなされて下されい。
▲シテ「私は参りませうが、老僧は、え参られますまい。
▲斎「御隙入(おひまい)りでござりまするか。
▲シテ「いや、別に隙入(ひまい)りもござらぬが、この中(ぢゆう)、青草につけてござれば、駄狂ひを致して、腰が抜けましたによつて、馬屋の隅へつないで置きました。あの体(てい)ならば、え参られますまい。
▲斎「や、申し。私の申すは、老僧様の事でござる。
▲シテ「成程、老僧の事でござる。
▲斎「あの、老僧様がや。
▲シテ「中々。
▲斎「これはいかな事。左様ならば、御前ばかり、御参りなされて下されい。
▲シテ「成程、私ばかり参りませう。
▲斎「扨、只今の事を、私の前では苦しうござらぬが、必ず、他言は御無用でござる。
▲シテ「いかないかな。他言致す事ではござらぬ。
{暇乞ふ。常の如し。斎、入るなり。}
▲シテ「いかなりと、今度は気に入るであらう。申して喜ばせう。ござりまするか。
▲アト「何事でおりある。
▲シテ「只今、誰殿が見えまして、明日は志す日でござるによつて、御前にも私にも、参つてくれいと申されましてござる。
▲アト「成程、明日(みやうにち)は幸ひ、用事もないによつて、随分参らうわいの。
▲シテ「いや、御前はなるまいと申してござる。
▲アト「それはどうした事ぢや。
▲シテ「この中(ぢゆう)、青草につけてござれば、駄狂ひを致して、腰が抜けましたによつて、馬屋の隅へつないで置きました。あの体ならば、え参られますまいと申してござる。
▲アト「それは、愚僧が事か。
▲シテ「中々。
▲アト「あの、この坊主がや。
▲シテ「おんでもない事。
▲アト「扨も扨も、憎いやつの。どこにか、出家が駄狂ひをするといふ事があるものか。
▲シテ「余り、ない事でもあるまいに。仰山(ぎやうさん)に云ふ人ぢや。
▲アト「やいやい。ない事でもあるまいとは、人聞きが悪い。愚僧がいつ、その様な事があるぞ。
▲シテ「云うたらば、恥でござらう。
▲アト「恥になる事はもたぬ。あらば、云へ。
▲シテ「さらば申さう。総じて、破戒の出家は牛に生まるゝと云ふ。こなたぢやというて、馬に生まれまいものでもないぞや。
▲アト「いや。こゝな奴に、ものを云はせて置けば、方量もない事をぬかしをる。おのれが様な奴は、かうして置いたが良い。
{と云ひ、引き廻して打ちこかす。直(すぐ)に起きる。アト、打擲して追ひ込み、入るなり。}
底本:『和泉流狂言大成 第一巻』(山脇和泉著 1916年刊 国会図書館D.C.)
骨皮(ホネカワ)(二番目 三番目)
▲アト「当庵の住持で御座る、某久しく此寺に住職致し、殊の外辛労に御座るに依て、此度隠居致し、新発智に此寺を譲らうと存ずる{ト云て呼出す出るも如常}{*1}愚僧も久く此寺に住居していかう辛労なに依つて、向後此寺を、そなたに譲らうと思ふが何と有らう▲シテ「夫はまたおそからぬ事で御座る▲アト「さういふは定めて、おそいといふ事であらう、とうにも譲らうと思ふたれ共、何彼とおそなはつた、してわごりよは見事此寺を、ふまへさしますか▲シテ「をゝをゝ、風が吹ましたらば、屋根の棟へ上つて、じつとふまへてをりませう▲アト「扨々むさとした事をおせある、寺をふまふる{*2}といふは、其様な事ではない、先第一朝起をせねばならず、仏前のはき掃除、仏に香花をとり、別して旦那応答を、大事にかけねばならぬ程に、さう心得さしませ▲シテ「畏つて御座る▲アト「愚僧も隠居するというて、余所外へ行ではない、此奥に引込うでゐるに依つて、何成共用があらばおせあれ▲シテ「心得ました▲アト「かならずかならず、旦那応答を大事に召れ▲シテ「心得ました{アト脇座下にゐるなり}▲シテ「なうなう嬉しや嬉しや、老僧が隠居せられて、向後身共が此寺の住持になつた、旦那応答を、大事にかけいと仰られた、随分念のいれて、応答うと存ずる{ト云て大小の前下にゐる}▲小アト「此辺りの者で御座る、山一とつあなたへ参らうと存ずれば、どうやら雨が降りさうに御座る、お寺へ参つて、傘をかつて参らうと存ずる、何彼といふ内に是じや{ト云ふて案内乞出る者{*3}如常}{*4}私で御座る▲シテ「ゑい爰な人、扨そなたに申して悦ばす事が御座る▲小アト「夫は何で御座る▲シテ「老僧が隠居せられて、今日から私が、此寺の住持になつて御座る▲小アト「扨々夫は目出たい事で御座る、其様な事を、とうにも存じたらば、人をもつて成共申さうに、かつて存じませなんだ▲シテ「御存じない筈で御座る、今日唯今の事で御座る▲小アト「扨唯今参つたは別の事でも御座らぬ、山一つあなたへ参らうと存ずれば、俄に雨が降りさうに御座る、どうぞ傘を貸て下されい▲シテ「安い事で御座る貸ませう、夫にまたせられい▲小アト「心得ました▲シテ「さあさあ是をさいて御座れ▲小アト「是は結構なかさで御座る、最卒度麁相なを貸て下されい▲シテ「老僧の秘蔵のかさなれ共、貸まするぞ▲小アト「近頃忝う御座る夫ならばもかう参る{暇乞如常するなり}▲シテ「旦那応答を、大事にかけいとおせあつた、申して悦ばせうと存ずる、申御座りまするか▲アト「何事でおりある▲シテ「唯今誰殿が見えまして、傘を貸てくれいとおせありましたに依て貸ました▲アト「して夫はどの傘をお貸あつた▲シテ「此中張替たのを貸ました▲アト「是はいかな事、出家が一本たしなみに、のけて置く傘を貸といふ事が有者でおりあるか▲シテ「でも旦那応答を、大事にかけいと仰られたに依て、貸ました▲アト「されば貸ませぬと云ふ事はならぬに依て、其様な事がもしあつたらば、此中老僧がさいて出られましたれば、折節辻風が吹まして、骨は骨、紙は紙と、吹破つて御座るに依て、まん中をみじといはへて、天井へ打上て置ました、お役にたゝいで、残り多う御座る抔というて、かさぬものでおりやる▲シテ「畏つて御座る▲アト「かまへてさう心得さしませ▲シテ「はあ、是はいかな事、ほめられうと思たれば、思の外な事であつた、重てはぬかる事ではないぞ▲馬カリ「是は此辺りの者で御座る、用事有つて遠方へ参る、殊の外辛労に御座るに依つて、お寺へ参つて、馬をかつて乗つて参らうと存ずる{ト云て案内シテ{*5}出るも如常}{*6}用事あつて山一つ彼方へ参らうと存ずればいかう辛労に御座る、どうぞ馬を貸て下されい、▲シテ「安い事では御座れ共、此中老僧がさいて出られましたれば、折節辻風が吹まして、骨は骨、皮は皮と吹破つて御座るに依て、まむ中をみじといはへて、天井へ打上て置ました、お役にたゝいで{*7}残り多う御座る▲馬カリ「いや私の申は馬で御座る▲シテ「されば馬の事で御座る▲馬カリ「あの馬をや▲シテ「中々▲馬カリ「是はいかな事、夫ならば是非に及びませぬ、もかう参りまする▲シテ「御座るか{暇乞如常馬カリ入なり}▲シテ「定て是は気にいるで御座らう、申して悦ばせう、御座りまするか▲アト「何を召された▲シテ「唯今誰殿が見えまして、馬を貸てくれいと仰られたに依て、お前のいはせられた通りを申して、貸ませなんだ▲アト「愚僧は何も、馬の事は言はなんだが、して夫は何とおせあつた▲シテ「此中老僧が、さいて出られましたれば、折節辻風が吹まして、骨は骨、皮は皮と吹破つて御座るに依て、まん中をみじといはへて、天井へ打上て置ました、お役にたゝいで{*8}残り多う御座ると申て貸ませなんだ▲アト「夫は馬の事か▲シテ「中々▲アト「是はいかな事、むさとした事をおせあるどこにか馬をさいてありくといふ事が有者か、馬なら馬で云い様がある、此中青草につけて御座れば駄狂を致て、腰がぬけましたに依て、馬屋の隅へつないで置きました、お役に立ませいで、残り多う御座る抔と云うて、かさぬ者でをりある▲シテ「▲心得ました▲アト「かまへてさう心得さしませ▲シテ「はあ、又違うた今度はぬからる事ではないぞ▲斎「此辺りの者で御座る、明日はこゝろざす日で御座る、お寺へ参つてお住持を頼うで参らうと存ずる{ト云て案内乞也出るも如常但し又表に案内が有るわ{*9}けふはよう人の来る日ぢやと云もよし}▲シテ「ゑい爰なこなたに申て喜ばす事が御座る▲斎「夫は何で御座る▲シテ「老僧が隠居せられて、今日から私が此寺の住持に成つて御座る▲斎「扨々夫は御目出たい事で御座る、存ぜいで{*10}お悦も申ませなんだ▲シテ「いや御存じないが御尤で御座る、今日俄の事で御座る▲小アト「扨唯今参るは別の儀でも御座らぬ、明日はこゝろざす日で御座るに依つて、お斎を上ませう程に、老僧様にも、御前にも、御苦労ながら、お参被成て下されい▲シテ「私は参ませうが、老僧は得参られますまい▲斎「お隙入で{*11}御座りまするか▲シテ「いや別に隙入も御座らぬが、此中青草につけて御座れば、駄狂を致して、腰がぬけましたに依て、馬屋のすみへつないで置ました、あの体ならば、得参られますまい▲斎「や申私の申は、老僧様の事で御座る▲シテ「成程老僧の事で御座る▲斎「あの老僧様がや▲シテ「中々▲斎「是はいかな事、左様ならば、御前ばかりお参り被成て下されい▲シテ「成程私ばかり参りませう▲斎「扨て唯今の事を、私の前では苦敷う御座らぬが、かならず他言は御無用で御座る▲シテ「いかないかな{*12}、他言致事では御座らぬ{暇乞如常斎入なり}▲シテ「いかなりとこんどは気にいるであらう、申て喜ばせう、御座りまするか▲アト「何事でおりある▲シテ「唯今誰殿が見えまして、明日は志ざす日で御座るに依つて、お前にも私にも、参てくれいと申されまして御座る▲アト「成程明日は、幸ひ用事もないに依つて、随分参らうわいの▲シテ「いやお前はなるまいと申して御座る▲アト「夫はどうした事ぢや▲シテ「此中青草につけて御座れば、駄狂ひを致して、腰がぬけましたに依つて、馬屋の隅へつないで置きました、あの体ならば、得参られますまいと申して御座る▲アト「夫は愚僧が事か、▲シテ「中々▲アト「あの此坊主がや▲シテ「おんでもない事、▲アト「扨も扨も憎いやつの、どこにか出家が、駄狂ひをするといふ事が有者か▲シテ「余りない事でもあるまいに、ぎやうさんにいふ人ぢや▲アト「やいやいない事でも有るまいとは、人きゝがわるい、愚僧がいつ其様な事があるぞ▲シテ「いふたらばはぢで{*13}御座らう、▲アト「恥に成る事はもたぬあらばいへ▲シテ「さらば申さう総じて破戒の出家は牛に生るゝといふ、こなたぢやというて馬に生れまい者でもないぞや▲アト「いや爰な奴に、物を云はせてをけば方量もない事をぬかしをる、をのれが様な奴は、かうしてをいたがよい{ト云引廻して打こかす直におきるアトちやうちやくして追込入る也}
校訂者注
1:底本は、「▲アト「愚僧も久く」。
2:底本は、「寺をふまゆる」。
3:「出る者如常」は、底本のまま。1・2巻では全て「出るも如常」だが、3巻「腥物」「成上り」には「出口も如常」、「不聞座頭」には、「小アト楽屋口より出る事、如常」などとある。
4:底本は、「▲小アト「私で御座る」。
5:底本は、「ト云て案内して出るも如常」。
6:底本は、「▲馬カリ「用事あつて」。
7・8:底本は、「お役にたゝいて」。
9:底本は、「又表に案内が有るあ」。
10:底本は、「存ぜいて」。
11:底本は、「お隙入て」。
12:底本は、「いか (二字以上の繰り返し記号)」。
13:底本は、「はぢて御座らう」。
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