伯母ケ酒(をばがさけ)(二番目)

▲シテ「この辺りの者でござる。某(それがし)、伯母に、酒屋を持つてござる。節々(せつせつ)行き、見舞ひを致せども、目の前に沢山な酒を、つひに一度も振舞はれぬ。今日(こんにち)は参り、何とぞ、一つ呑うで帰らうと存ずる。誠に、吝(しわ)い人でござる。甥と申しても、某一人でござるに、心強い人でござる。さりながら、今日(こんにち)は、一つ食べずば帰るまいと存ずる。いや、何かと申す内に、これぢや。まづ、案内を乞はう。物も。案内もう。
▲アト「表に案内がある。案内とは誰(た)そ。
▲シテ「私でござる。
▲アト「えい。誰、良うおりあつた。
▲シテ「この間は、久しう御見舞ひも申しませぬが、御機嫌さうで、おめでたうござりまする。
▲アト「妾(わらは)も随分、息災なが、そなたもまめさうで、一段でおりある。
▲シテ「扨、当年も、こなたの酒が、良う出来ましたとの。
▲アト「されば、今年も、妾が所の酒が良う出来て、悦ぶ事でおりある。
▲シテ「いづれ、名誉な事でござる。つひに、こなたの御酒(ごしゆ)の悪う出来たと申す事を、聞いた事がござらぬ。惣じて、御商売物の良う出来まするは、御家御繁昌の御瑞相ぢやと申しまする。
▲アト「何(いづ)れもその様に仰せられて、妾も悦ぶ事でおりある。
▲シテ「御前(おまへ)の御繁昌について、私をいかう人が羨みまする。
▲アト「何と云うて羨むぞ。
▲シテ「そちがやうな果報者はあるまい。伯母に、良い酒屋を持つ。殊に、一つ呑む者の事なれば、行き見舞ひの度ごとに、良い酒を思ふ儘に呑むであらう。と申して、殊の外、羨みまする。御存じの通り、私はこなたへ参つて、つひに、御酒(ごしゆ)を一つ下された事はござらねども、一つは御外聞ぢやと存じまして、そりや、皆達の仰(お)せあるが、くどい。伯母と甥との事なれば、節々行き、見舞ひの度ごとに、良い酒を呑む。又、折節、身共が所にある酒も、皆、伯母の所からくれらるゝ酒ぢや。と申せば、扨も扨も、あやかり者ぢや。と申しまする。又、中にも意地の悪い者がござつて、扨々、そちは物を取り繕らうて云ふ者ぢや。あの吝い伯母が、何のやうに、酒を振舞はうぞ。呑うだが誠ならば、さあ、誓言を立てい。と申しまする。私も、この誓言には、ほうど困りました。御酒(ごしゆ)が食べたうはござらぬが、誓言のためでござる。一つ、下さりませう。
▲アト「振舞ひたうはあれども、今日(けふ)はまだ、売り初めをせぬによつて、振舞ふ事はならぬ。
▲シテ「はあ。売り初めが、まだでござるか。
▲アト「中々。
▲シテ「それならば、是非に及びませぬ。いや、あの方の祭が、近々になりました。いつもの通り、御子様方をお連れなされて、早くから御出なされて下されい。
▲アト「成程、皆、同道して行くであらう。
▲シテ「祭と申すものは、高いも低(ひき)いも、めでたいものでござる。
▲アト「何(いづ)れ、賑々(にぎにぎ)しいものでおりある。
▲シテ「扨、それに付きまして、在所にも、祭酒(まつりざけ)が大分いりまする。ちと、肝を煎つて、売つて上げませうか。
▲アト「それは過分な。どうぞ、肝を煎つて、売つておくりあれ。
▲シテ「この中(ぢゆう)も、在所の者と寄り合ひましたによつて、お知りある通り、伯母は酒屋ぢや。祭酒がいるならば、取つておくりあれ。と申してござれば、おゝおゝ、どこで取るも、同じ事ぢや。酒さへ善くば、随分取つてやらう。さりながら、何程贔屓なと云うても、酒が悪うては、取られぬ。今度行(い)たらば、良いか悪いか聞き酒に、一つ呑うで来い。と申しました。今日は、聞き酒に一つ、下さりませう。
▲アト「振舞ひたうはあれども、最前も云う通り、売り初めがまだぢやによつて、振舞ふ事はならぬ。
▲シテ「いや。これは、売り初めには構ひませぬ。私が下されて、善いとさへ申せば、大分売る事でござる。すれば、これが売り初めになるではござらぬか。
▲アト「いや。呑うでみるには及ばぬ。随分良い酒ぢやと云うて、売つておくれあれ。
▲シテ「呑みもせぬ酒を、何と、善いと云はるゝものでござる。
▲アト「でも、売り初めをせぬ内は、振舞ふ事はならぬ。
▲シテ「扨は、酒を売らせられぬ。と云うても、振舞ふ事はなりませぬか。
▲アト「思ひもよらぬ事でおりある。
▲シテ「良うござる。も、かう参りませう。
▲アト「早(はや)、お行きあるか。
▲シテ「あゝ。
▲アト「良うおりあつた。
▲シテ「あゝ。扨も扨も、吝い人かな。これ程に云うても、呑まさうかともせられぬ。身共も、今朝宿元を出る時分、一つたべずば帰るまい、と存じたれば、気が取りのぼして、どうも堪忍がならぬ。何としたものであらうぞ。いや、致し様がござる。申し申し。伯母御、ござりまするか。
▲アト「これはいかな事。あれは、誰が声ぢやが。えい。そなたは、まだお行きあらぬか。
▲シテ「いや。御前へ参つて早々、申さいで叶はぬ事を、はたと忘れましたによつて、これを申しに帰りました。
▲アト「それは、何事でおりあるぞ。
▲シテ「まづ、この辺りへ、鬼は出ませぬか。
▲アト「なうなう、恐ろしや、恐ろしや。鬼が出て良いものでおりあるか。
▲シテ「私の辺りは、七つ下りますれば、いかめの鬼{*1}が出まして、片ばしから、人を取つて食べまする。必ず、御用心をなされませ。
▲アト「扨々、良うこそ知らせておくりあつた。店も早う仕舞うて、用心をするであらう。
▲シテ「私は、これを申しに帰りました。も、かう参りまする。
▲アト「お行きあるか。
▲シテ「中々。
▲アト「良うおりあつた。
▲シテ「はあ。《笑》扨も扨も、あれ程邪見な人なれども、さすが、女ぢや。鬼と云うたれば、いかう恐ろしがらるゝ。かう申すも、思案あつての事ぢや。こゝに、風流(ふりう)の面(おもて)がござる。これを着て、身共が鬼になつて、伯母を騙して、酒を呑まうと存ずる。
{と云つて、大鼓座にて面を着る。}
ものも。酒、買ひませう。
▲アト「表に酒買ひがある。ざらざらざら。
▲シテ「取つて噛まう、取つて噛まう。
▲アト「なう、恐ろしや。許して下され、許して下され。
▲シテ「やい。扨々、己は、不得心な奴ぢや。己が甥に、誰といふ者があらうが。
▲アト「成程、ござりまする。
▲シテ「あれは、つゝと心の優しい者で、そちが事を大切に思うて、節々行き、見舞ひをするに、目の前に沢山な酒を、つひに一つも振舞はぬげな。その上、彼は、一つ呑む者の事なれば、夏ならば冷(ひや)、冬ならば、はつたりと燗をし済まして、彼が来る度ごとに、呑ませうか。呑ませないならば、取つて噛まう、取つて噛まう。
▲アト「成程、呑ませう。命を助けて下され。
▲シテ「何ぢや。呑ませう。
▲アト「はあ。
▲シテ「すれば、己が心も直つたさうな。命の儀は、助くるぞ。
▲アト「それは、ありがたう存じまする。
▲シテ「遥々(はるばる)来れば、いかう徒然(とぜん)な。酒なりとも、呑まうが、どの酒が良い。
▲アト「あの、渋紙で覆ひのしたのが、良うござる。
▲シテ「それからも、わかる事ぢや。
▲アト「御許されませ、御許されませ。
▲シテ「渋紙で覆ひ。これであらう。まづ、蓋を取らう。むりむりむり。扨も、良い匂ひがする。されば、一つ呑まう。
{と云つて、酒を汲みて呑む。面につかへて呑みにくし。又、合点して、面を取らんとして、}
やい、そこなやつ。総じて、鬼の酒を呑むを、見ぬものぢや。かまへて見るな。
▲アト「いかないかな、見る事ではござらぬ。
▲シテ「見たらば、取つて噛むぞ。
▲アト「見は致しませぬ。
{シテ、面を上げて酒を飲む。仕様あり。}
扨も扨も、良い酒ぢや。続けてたべう。
{と云つて、前に同じ心にて、面を上げて二つ呑みて、面を直し、呑む。そろそろ酔ひて、「お見やるな、お見やるな。お見やると、取つて噛むぞよ。一口に、がりがりぢや」などゝ、段々酔ひて、扨、面を脇へ直して呑む。右の手に持ち、左の手にて酒を汲みて、呑む。「窮屈な」と云つて、又、「手がだるい」と云つて、右の足の膝に面を掛けて呑む。暫時して酔ひて、後ろに寝る。この間、仕様、口伝なり。}
▲アト「あゝ。見は致しませぬ、見は致しませぬ。なうなう、恐ろしや、恐ろしや。誰が申した通り、妾が所へ鬼が来た。誰ぞ来て、あの鬼を居なくしてくれい、やいやい。さりながら、いかう酒に酔うたと見えて、物静かな。そと、物陰から様子を見よう。なうなう、腹立ちや、腹立ちや。誠の鬼かと思うたれば、甥の誰めが、鬼の面(めん)を着て、妾を騙して酒を呑みをつた。扨も扨も、憎い事かな。やい、そこな者。やい、そこな者。
▲シテ「お見やつたら、がりがりぢやぞ。
▲アト「まだそのつれを云ふか。あの横着者、やるまいぞ、やるまいぞ。
{と云つて、面を取り逸(はづ)し、追ひ込み入る。}

校訂者注
 1:「いかめの鬼」は、不詳。或いは「厳(いか)き目(大きい目)目」の意か。

底本:『和泉流狂言大成 第三巻』(山脇和泉著 1918年刊 国会図書館D.C.

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伯母ケ酒(ヲバガサケ)(二番目)

▲シテ「此辺りの者で御座る、某伯母{*1}に酒屋を持つて御座る、節節行き見舞ひを致せ共、目の前に沢山な酒をついに一度も振るまわれぬ、今日は参り何卒一つ呑うで帰らうと存ずる、誠にしはい人で御座る、甥と申しても某一人で御座るに、心強い人で御座る、乍去今日は一つ食べずば帰るまいと存ずる、いや何彼と申す内に是ぢや、先案内を乞はう物も案内もう▲アト「表に案内がある、案内とはたそ▲シテ「私で御座る▲アト「えい誰ようおりあつた▲シテ「此間は久敷うお見舞ひも申しませぬが、御機嫌さうで御目出度う御座りまする▲アト「わらはも随分息災{*2}なが、そなたもまめさうで一段でおりある▲シテ「扨当年もこなたの酒がよう出来ましたとの▲アト「されば今年もわらはが所の酒がよう出来て{*3}悦事でおりある▲シテ「いづれ名誉な事で御座る、ついにこなたの御酒のわるう出来たと申す事を聞た事が御座らぬ、惣じて御商売物のよう出来まするは、お家御繁昌の御瑞相ぢやと申しまする▲アト「何も其様に仰せられて妾も悦ぶ事でおりある▲シテ「お前の御繁昌について私をいかう人がうらやみまする▲アト「何と云うてうらやむぞ▲シテ「そちがやうな果報者は有るまい、伯母によい酒屋をもつ、殊に一つ呑む者の事なれば、行き見舞の度毎によい酒を思ふ儘に呑で有らうと申して、殊の外うらやみまする、御存じの通り、私はこなたへ参つて、ついに御酒を一つ下された事は御座らね共、一つは御外聞{*4}ぢやと存じまして、そりや皆達のおせあるがくどい、伯母{*5}と甥との事なれば、節節行見舞ひの度毎に、よい酒を呑む、又折節身共が所にある酒も皆伯母{*6}の所からくれらるゝ酒ぢやと申せば、扨も扨もあやかり者ぢやと申しまする、又中にも意地の悪い者が御座つて、扨々そちは物を取繕らうて云ふ者ぢや、あのしはい伯母{*7}が、何のやうに酒を振まはうぞ、呑うだが誠ならばさあ誓言を立ていと申しまする、私も此誓言にはほうど困りました、御酒が食べたうは御座らぬが誓言の為で御座る、一つ下さりませう▲アト「振まいたうはあれ共、けふはまだ売初をせぬに依つて、振舞ふ事はならぬ▲シテ「はあ売初がまだで御座るか▲アト「中々▲シテ「それならば是非に及びませぬ、いやあの方{*8}のまつりが近々に成りました、いつもの通りお子様方をおつれ成されて{*9}、早くからお出成されて{*10}下されい▲アト「成程皆同道して行くであらう▲シテ「まつりと申す物は、高いもひきいも目出たい物で御座る▲アト「何れ賑々しい物でおりある▲シテ「扨夫に付きまして、在所にもまつり酒が大分入りまする、ちと肝を煎つて売つて上げませうか▲アト「夫は過分な、どうぞ肝を煎つて売つておくりあれ▲シテ「此中も在所の者と寄合ましたに依つて、お知りある通り伯母{*11}は酒屋ぢや、まつり酒が入ならば、取つておくりあれと申して御座れば、おゝおゝどこで取るも同じ事ぢや、酒さへ善くば随分取つてやらう、去ながら、何程ひいきなと云うても、酒が悪うては取られぬ、今度いたらばよいか悪いか、聞酒に一つ呑うで来いと申しました、今日は聞酒に一つ下さりませう▲アト「振舞ひとうはあれ共、最前も云う通り、売初がまだぢやに依つて、振舞ふ事はならぬ▲シテ「いや是は売初にはかまひませぬ、私が下されて、善とさへ申せば大分売る事で御座る、すれば是が売初になるでは御座らぬか▲アト「いや呑うでみるには及ばぬ、随分よい酒ぢやと云うて売つておくれあれ▲シテ「呑みもせぬ酒を何と善といはるゝ物で御座る▲アト「でも売初をせぬ内は振舞ふ事はならぬ▲シテ「扨は酒を売らせられぬと云うても振舞ふ事は成りませぬか▲アト「思ひもよらぬ事でおりある▲シテ「よう御座る、もかう参りませう▲アト「早おゆきあるか▲シテ「あゝ▲アト「ようおりあつた▲シテ「あゝ、扨も扨もしはい人かな、是程に云うても呑まさうかともせられぬ、身共も今朝宿元を出る時分、一つたべずば帰るまいと存じたれば、気が取のぼしてどうも堪忍がならぬ、何とした者であらうぞ、いや致し様が御座る、申し申し伯母{*12}ご御座りまするか▲アト「是はいかな事、あれは誰が声ぢやが、えいそなたはまだおゆきあらぬか▲シテ「いやお前へ参つて、早々申さいで叶はぬ事を、はたとわすれましたに依つて、是を申しに帰りました▲アト「それは何事でおりあるぞ▲シテ「先此辺りへ鬼は出ませぬか▲アト「のうのう恐ろしや恐ろしや、鬼が出てよい者でおりあるか▲シテ「私の辺りは七つ下りますれば、いかめの鬼が出まして片ばしから人を取つて食べまする、必御用心をなされませ▲アト「扨々ようこそ知らせておくりあつた、店も早う仕舞うて用心をするで有らう▲シテ「私は是を申しに帰りました、もかう参りまする▲アト「おゆきあるか▲シテ「中々▲アト「ようおりあつた▲シテ「はあ《笑》{*13}扨も扨もあれ程邪見な人なれ共流石女ぢや、鬼と云ふたればいかう恐ろしがらるゝ、かう申すも思案あつての事ぢや、爰にふりうのをもてが御座る、此を着て身共が鬼になつて伯母{*14}をだまして酒を呑まうと存ずる{ト云つて大鼓座にて面をきる}{*15}ものも酒買ひませう▲アト「表に酒買がある、ざらざらざら▲シテ「取つてかまふ取つてかまふ▲アト「のう恐ろしや、ゆるして下されゆるして下され▲シテ「やい扨々己は不得心な奴ぢや、己が甥に誰と云ふ者が有らうが▲アト「成程御座りまする▲シテ「あれはつゝと心のやさしい者で、そちが事を大切に思うて、節節行見舞ひをするに、目の前に沢山な酒を、ついに一つも振舞はぬげな、其上彼は一つ呑む者の事なれば、夏ならばひや、冬ならばはつたりとかんをしすまして、彼が来る度毎に呑ませうか、呑ませないならば、取つてかまふ取つてかまふ▲アト「成程呑ませう、命を助て下され▲シテ「何ぢや呑ませう▲アト「はあ▲シテ「すれば己が心も直つたさうな、命の儀は助くるぞ▲アト「夫は有難う存じまする▲シテ「はるばる来ればいかうとぜんな、酒成り共呑まうが、どの酒がよい▲アト「あの渋紙でおゝいのしたのがよう御座る▲シテ「それからもわかる、事じや▲アト「御ゆるされませ御ゆるされませ▲シテ「渋紙でおゝい是であらう、先ふたを取らう、むりむりむり、扨もよい匂がする、されば一つ呑まう{ト云つて酒を汲て呑む面につかへて呑にくし、又合点して面を取らんとして}{*16}やいそこなやつ、総じて、鬼の酒を呑むを見ぬ物ぢやかまへて見るな▲アト「いかないかな見る事では御座らぬ▲シテ「見たらば取つてかむぞ▲アト「見は致しませぬ{シテ面を上げて酒を飲む仕様有}{*17}扨も扨もよい酒ぢや、つゞけてたべう{ト云つて前に同心にて面を上げて、二つ呑みて面をなほし呑む、そろそろ酔ひて、お見やるなお見やるなおみやると取つて咬むぞよ、一口にがりがりぢやなどゝ段段酔ひて、扨面を脇へ直して呑む、右の手に持ち左の手にて酒を汲みて呑む、窮屈なといつて、又手がだるいと云つて右の足のひざに面を掛けて呑む{*18}時して酔ひて後に寝、此間仕様口伝なり}▲アト「あゝ見は致しませぬ見は致しませぬ、のうのう恐ろしや恐ろしや、誰が申した通り、妾が所へ鬼が来た、誰ぞ来てあの鬼をいなくしてくれいやいやい、去ながらいかう酒に酔うたと見えて、物静な、そと物陰{*19}から様子を見う、のうのう腹立や腹立や、誠の鬼かと思ふたれば、甥の誰めが鬼の面を着て、妾をだまして酒を呑みおつた、扨も扨も憎い事かな、やいそこな者やいそこな者▲シテ「お見やつたら、がりがりぢやぞ▲アト「まだ其つれを云ふか、あの横着者やるまいぞやるまいぞ{ト云つて面を取り逸し追込入る}

校訂者注
 1・5~7・11・12・14:底本は、「叔母(おば)」。
 2:底本は、「息才(そくさい)」。
 3:底本は、「出来てて」。
 4:底本は、「御外分(ごぐわいぶん)」。
 8:底本は、「彼方(あのはう)」。
 9・10:底本は、「成(なさ)れて」。
 13:底本は、「はあ{笑ふ}」。
 15~17:底本、全て「▲シテ「」がある(全て略)。
 18:底本、「む」と「時」の間の一字、判読困難。かりに「暫」として読んでおく。
 19:底本は、「物影(ものかげ)」。