百年目
第二世 曽呂利新左衛門 口演
丸山平次郎 速記
▲番頭「これ、定吉。
▲定吉「へえ。
▲番頭「精出して、手習ひをせんか。
▲定吉「手習ひを致して居ります。
▲番頭「手習ひを致して居ります。つて、お手本の通り習はず、役者の首ばつかり書きやあがつて。体も満足に出来る事か。そんな事が、お手本に書いてあるか。馬鹿。
▲定吉「えゝ。こりやあ、首尽くしでござります。
▲番頭「えらいぞにわか(俄)、しやあがつて。亀吉。
▲亀吉「へえ。
▲番頭「そこ(其方)も、精出して、こより(紙撚)をひね(捻)らんか。
▲亀吉「へえ。ひねつて居ります。
▲番頭「ひねつて居ります。つて、こよりで馬をこしらへて、いたま(板間)をとんとんなぐつて、その馬の動くのが、何程不思議だ。
▲亀吉「いえ。こりやあ、馬ぢやあござりません。
▲番頭「何だえ、そりやあ。
▲亀吉「こりやあ、あんた。鹿でござります。鹿と馬とは、こよりのひねり方が違ひます。どこの国に行つたかて、馬に角の生えて居るのがおますもんかえ。その鹿を見て、馬と云うてはるよつてに、あんた馬鹿や。
▲番頭「あほぬ(吐)かせ。こより、又何本ひねつたんぢや。
▲亀吉「へえ。百本ひねりますので。
▲番頭「もう百本、ひねつたのか。
▲亀吉「へえ。三本です。
▲番頭「もう三本ひねつたら、百本になるのか。
▲亀吉「いえ。九十七本ひねつたら、百本ですね。
▲番頭「最前から、何本ひねつたのぢや。
▲亀吉「丁度、三本ひねりました。
▲番頭「こよりひねるのに、いたづらばかりしてけつかるよつて。馬鹿めえ。精出してひねりませうぞ。これ、茂七どん。
▲茂七「へえ。
▲番頭「お前、ゆうべ十二時過ぎから、手紙をかいて居なさつたが、その手紙はどこへ出しなさる手紙ぢや。と私が尋ねたら、明朝、東京へ出しますつもりでごわす。左様か、そりやあ大きに。と云うて、私はお前さんに一礼述べたぜな。
▲茂七「むゝ。へえ。
▲番頭「そのしたゝめてあつた手紙が、今、ちよいと硯箱の引き出しをあけたら、やつぱりその引き出しに入れてあつたが、夜よなかに書いた手紙が、硯箱の引き出しに入れて置いたら、ひとり、とうけい(東京)に行きますか。
▲茂七「むゝ。へえ。
▲番頭「よい加減に、人を馬鹿にして置きなされ。喜助どん。お前さんもさうぢや。わし(私)や最前、せつちん(雪隠)へ入つて居たら、何ぢや、けつたい(怪体)な声で歌をうた(謳)うてやつたが、この頃お前さんは、稽古屋はいりをして居るさうぢや。
▲喜助「いゝえ、滅相な。
▲番頭「いや。隠しなさる事はない。稽古屋へも、楽しみに行きなさるのはよいけれども、けつたい(怪体)な声で、すかたんうたうてやつたが、実に聞き苦しいもんだ。ありやあ最前、何をうたうてやつたのぢや。かわいがらす、烏なら烏、がらす(硝子)ならがらすと、はつきりうたうてやつたらどうぢや。がらすつてえなことは、一向聞きにくいなあ。
▲喜助「あつはゝゝ。ありやあ、がらすでよいのです。
▲番頭「何でぢやい。
▲喜助「あんたの仰やるのは、びいどろ(硝子)のがらすか、鳥のからすの事を仰やるのでせう。私のうたうて居たのは、人に可愛がられる事をうたうて居りましたので、そやよつてに、可愛がらあすうのええええええ、何ぢやああゝらあ。
▲番頭「馬鹿。踊るなえ。かどに人がたか(集)つて居なさる。あたみつともない。
▲喜助「どなたもちよつと、こちらへお入り。
▲番頭「あほ云はんせ。藤七どん。
▲藤七「むゝ。へえ。
▲番頭「お前さんもこの頃、聞く所によれば、しばしばお茶屋遊びをしてださうだ。
▲藤七「滅相な。どう致しまして。決してそんな事は、ありやあ致しません。
▲番頭「いゝえ。隠しなさんな。わしあもう、こちら(右方)の耳からこちら(左方)の耳へ突きぬける程、聞いて居るのぢや。えゝつ。行くなとは云はんぜ。しかし、まだお前さん、お茶屋遊びをばするやうな身分ぢやあ、ありますまい。明治のみよ(御代)になりましたから、頭の区別は判らんが、昔ならまだお前さん達は、やうやうすみまへがみ(角前髪)になつたくらゐなものぢや。まだ、元服して一人前の体となるとこには、至つてやしますまい。こんにちでは、皆ざんきり(散髪)だから、その区別は判らんけれども、お茶屋遊びなんて、のほうづ(野方途)でせう。まあ、私も御当家へ指して、十二歳の時から奉公に来て、これだけ頭は禿げてますけれども、まだお茶屋の二階へ登つて見た事はない。お茶屋と云ふ茶屋は、どんな茶屋やら、げいこ(芸妓)つてえ子はどんな子か、たいこもち(幇間)は一貫目何程するやら。われたけ(破竹)の音もさみせん(三味線)の音も、私らの耳には、同じ音に聞こえます。ちと慎しみなされ。あほらしい。
▲藤七「へつ。
▲番頭「こりあ、こども(丁稚)。
▲丁稚「むゝ。へえ。
▲番頭「そこにある、てつなんど(鉃納戸)のたうおめし(唐御召)の羽織。それをこちらへ持つて来い。
▲丁稚「へえ。
▲番頭「着せえ。
▲丁稚「おゝ。着せて遣る。
▲番頭「なにつ。何と云うた。着せて遣る。何つてえものゝ云ひ様して居るのぢや。
▲丁稚「誰も、着せて遣る。と申しやあ致しません。
▲番頭「今、云うた。
▲丁稚「何云うてなさる。着せてお上げ申して遣る。と申しましたので。
▲番頭「同じ事ぢや。こりあ。手を振り上げてどうする。後ろに眼が無いから、われ(汝)あ、見えん。▲と思うて居るだらう。前の戸に映つて居る。
▲丁稚「あつ。拍子の悪い。あんまり拭き入れてあるよつて、災難ぢや。
▲番頭「握りこぶしで、われあ、なぐるつもりだらう。この番頭がなぐれるなら、なぐつて見い。
▲丁稚「何も、なぐるつもりで握りこぶし、こしらへたんぢやあござりません。
▲番頭「むゝう。では、どうするつもりで。
▲丁稚「けふび(昨今)、このくらゐなかしら(頭)芋は、たいてい何ぼ致しませう。
▲番頭「馬鹿ぬ(吐)かせ。旦那さまが、番頭は。とお尋ねなさつたら、きのお(昨日)の事件で、ちよつと出られました。と、さう云うて置け。
▲丁稚「云ふとく。われ、毛虫めが。
▲番頭「なにつ。誰が毛虫ぢや。
▲丁稚「よう聞こえる耳ぢやなあ。
▲番頭「聞こえゝで。つんぼ(聾)ぢや、ありやあせんわい。
▲丁稚「誰もあなたを毛虫ぢや。と申しちやあ居りません。
▲番頭「では、誰を毛虫ぢや。と云うたんぢや。
▲丁稚「今、かどを通つたお方が、せむし(駝背)かいな。と申して居りますので。
▲番頭「何をぬかすんぢや。あゝ。店の衆、頼みましたぞや。
 と、番頭は、白鼠のやうでございますが、至つて、大のどぶ鼠でございます。うち(店)ではこの番頭を、次兵衛と申しまするが、お茶屋へ遊びに参りますると、お茶屋では、番頭さん。とも、次兵衛さん。とも申しません。只、つぎ(次)さん、つぎさん。と云ふのが、通り名となつてございます。うちをば出て、四五間参りますると、路次からいちにん(一人)飛んで出ましたは、男芸者。いはゆる、たいこもち(幇間)です。ちよいと鼠の千筋の着物に、黒の羽織。八分(ぶ)の紋を背中に一つ附けまして、赤い献上の帯を締め、あたまは坊主でぴかぴかと光らせ、電気灯のやうなおつむ(頭)です。
▲男「つぎさん。まあ先刻から、だんなをいくたびか、お店のかどをばあちこち通りました。もう、こどもしゆ(芸妓)さんが、まだか、まだか。と云ふので、実に私は責められまして、困つて居りますので。
 番頭の次兵衛は、めはし(目瞬)を致しまして、
▲次兵「横たはれ、横たはれ。横町へ曲れ。と云ふに。
▲男「実に、あんた(貴家)のかどを、何べん通つたか知れません。
▲次兵「判つてるわいな。お前がうちのかどを一偏通つてやつた時に、わしあ、眼で知らして居るのぢや。
▲男「あんた、眼で知らして居やはつても、そとから判りやあしません。おほかた、七八度も通りました。
▲次兵「お前が通常の風ならよいけれども、誰が見たかてたいこもち(幇間)とほか見えん体ぢや。それに、手ぶらでも通る事か、八百屋の荷をかた(担)げて通つたり、しまひにやあ小便たご(桶)をかたげて通り、土台、気がさして、うちを出る事が出来やあせん。よんどころなう、罪咎もない店の者を、片つ端から叱り倒して出て来たんぢや。で、船はどこに繋いである。
▲男「この向かうの、石屋の浜へ。
▲次兵「あゝ。石六の浜か。又、えらいとこへつけたなあ。
▲男「へえ。どう云ふものでござります。
▲次兵「あの上には、御親類がある。もしか、御親類方の眼にでも着いて見い。大変な騒動ぢや。だからお前、ひと足先へ行つて、東堀の住友さんの浜の、よい足場のあるところへ船をつけて、待つてゝおくれ。わしあ一軒ちよつと道寄りをして、すぐと行くから。
▲男「なるだけそれぢやあ、お早う一つ、お越しを願ひます。
▲次兵「さあ。早う行け、行け。
▲男「左様なら。どうぞ、お早う。
 と、たいこもち(幇間)繁八は、船にやつて来ました。すると、船の中より、
▲芸妓「繁八さん、つぎさんは、どうなつたのや。
▲繁八「えゝ。もうすぐと、おいでゞす。
▲芸妓「おや。一緒やないのか。
▲繁八「へえ。ちよつと一軒寄る所があるよつて、先へい(行)て、さう云つてくれ。この浜の上には御親類がある。少し御親類へ差しつかへる。東堀の住友さまの浜へ船を廻してくれ。と、仰やつてゞした。
▲芸妓「おや、さう。船頭さん。どうぞ気の毒なけれど、あゆみ(通板)をとつて、早う船をば東堀のはうへ、廻しておくんなさい。
▲船頭「畏りました。
▲繁八「さあ、船頭さん。早う早う、早う船を出して。と云ふのに。愚図愚図して居る。どうも困るなあ。早う船を出しんかいな。
▲船頭「あんた。乗りなさりやあしません。
▲繁八「いよー。乗るのを忘れて居る。
▲芸妓「あわてもんやしなあ。
 あゆみを引き上げて、船はちゆちゆちゆと、東堀住友さまの浜へさして漕ぎ出し、暫くして、ちやんと廻しました所へ、番頭の次兵衛、
▲次兵「えらい遅うなつた。堪忍してや。
▲芸妓「つぎさん。遅かつたやおまへんか。待たるゝより、待つ身になるな。と。ほんまにもう、退屈でした。
▲次兵「さうやらう。早う来るつもりやつたけれど、この男がおれとこのかどをまあ、何遍かあつちへ行つたりこつちへ来たり、手ぶらでも通る事か、八百屋の荷をかたげたり、小便たごをかたげたり、土台気がさして出るにも出られず。それゆゑこないに遅くなつたのや。
▲芸妓「左様か。繁八さん、ほんまにしつかりしいでえな。お前はんも古い芸者さんだに、目先の見えぬぼんくらやしなあ。
▲繁八「ほいほい。叱られ通し。
▲次兵「しかし、船を出す事にしようぢやないか。繁八。その障子、皆閉めてくれ。そこの戸も閉めて仕舞はんと。この北の方に、お得意先が一軒ある。それに又知れるやうな事があつては、大きに不都合ぢやよつてに。皆、閉め切つてくれ。
▲繁八「宜しうござります。船頭さん。さあ、どうぞ早う、船を出しておくんなさい。
▲船頭「畏りました。左様なら、もう何も御用事はござりませんか。へえ。ぢやあ、船を出す事に致しませう。
▲繁八「早う出した、出した。
▲船頭「やつ。心得ました。うーんとしよおー。
 船は、東堀をば段々、かみ(上流)へのぼつて参ります。
▲次兵「繁八。ほんまに、ちつと勉強せんといかんぜ。気が利かんから、ひま(時間)がい(要)つた上に、はた(他)にぼろくそに云はれにーあ、ならんやうな事になるのぢや。
▲繁八「へえ。誠にどうも。
▲次兵「さあ。叱る事は叱つて、これはお賃ぢや。
▲繁八「大きに有り難う、毎度。どなたも宜しうお礼を。
▲次兵「まあ、一つい(献)かう。
▲繁八「へえ。頂戴致します。
 さかづき(杯)を、あちらへやり、こちらへ廻し、ぐるぐるめぐらして居ります。船は、追々とかみ(上流)へのぼして来ました。
▲船頭「おい。うはに(荷船)い。ひか(扣)えて来い、ひかえて来い。ひかえて来い。と云ふに。さう船を、これ。どうするのぢや。
 と、船をよけて、後ろを見ると、
▲船頭「あゝ、く(臭)さ。えらい処へ、こえぶね(糞船)をつなぎ居つた。おゝ、松やい。みや(桜宮)へ行くかえ。
▲松「あゝ。
▲船頭「どうぢやい、桜は。
▲松「あゝ。もう一両日の内に、満開ぢやなあ。俺あきのふ、みや(桜宮)へ行つたが、今年あ大変によく人が出るぜ。ゆんべ(昨夜)貴様とこへ、俺あ行つたら居なかつたが、どこへい(行)た。又松島の一件のをなご(娼妓)に、かたいれ(蕩惚)して居(ゐ)るだらう。
▲船頭「馬鹿云へえ。そんなふところ(懐中)ぢやあ無いわい。おゝ。ひかえ、ひかえ。旦那。今云つてますが、友達がきのふ、みや(桜宮)へ行つたさうですが、もう一両日が盛りぢやさうです。
 船は、段々と大川へさして出ましたから、もうこゝまで来たら差しつかへは無い。と云ふので、障子をば、皆がらがらとあけ放し、
▲次兵「さあ。もつと大きなのを、持つて来い。
 と云ふので、はんちよく(半猪口)で、ぐうぐうと酒を飲み、かれこれ致して居りまする内に、三橋(けう)も越しまして、こなたには造幣局、桜の宮の、やうやうかし(河岸)にさして、船をばちやんといは(結)へ付けました。番頭次兵衛は、どろどろに酔うて居りまするから、暫くつゝみ(土堤)をば、酔ひ醒ましにお歩きなすつたらどうぢや。と云ふので、もとより番頭は派手な事が好きですから、友染の襦袢、かのこ(鹿子)の襦袢取り交ぜ、四五枚も重ね着をして、舞子さんのきらめく金の扇をば、ひたへ(額)にかざし、かのこのひしごきで頬かむり、雑沓する堤をば、げいこ(芸妓)はうかん(幇間)に取り囲まれて、だいどう(大道)を我が儘一杯。
▲次兵「はあ。よいとよいと。何たあら愚痴いなあえ。ちゝちんちつゝ。牡丹は持たあねえど、越後おの獅子いは。つゝんつんつゝつ、つゝてん、てん、とてちんて、つんつちてつ、つちつてつるんて、ちれとつてん。
▲芸妓「待つておくんなはれえなあ。
 げいこ(芸妓)舞子は、あとさきについて踊つて居りますると、向かうのかた(方)から老体のお方。杖を頼りに、一人(にん)のおたいこ(幇間)医者を連れて、やつておいでになりました。
▲老人「何と、玄伯老。桜の盛りは、ひとしほ結構ぢやなあ。
▲玄伯「御意にござります。瓢箪も、どちら向いても桜かな。桜の盛りは、結構なものでござりまする。もし、旦那さま。向かうから踊つておいでになるお方。あなたさま、よく御存じでござりませう。
▲老人「これはしたり。玄伯老、私らの知己のお方に、あんな派手な遊びをしなさるお方は、一人もござりません。
▲玄伯「いえいえ。知るも知らぬも、至つてあなた、よく御存じのお方でござります。
▲老人「はいー。私の知己のお方。玄伯老殿、どこのお方じやな。うちの御町内のお方かな。
▲玄伯「御町内どころじやあ、ござりません。あなたのおうち(店)の番頭の次兵衛さまでござります。
▲老人「あつはゝゝ。玄伯老、何を云はつしやるやら。うちの番頭の次兵衛が、何のあなた、あんな遊びを致しまするものか。あれは実に、いしべきんきち(石部金吉)、かなかぶと(鉄兜)。堅過ぎてからに、私が困るくらゐです。今日もお前さん、私が台所から聞いて居りますると、店の者を叱るのに、この年になるけれども、げいこ(芸妓)と云ふ子がどないな子やら、たいこもち(幇間)が一貫目なんぼするやら、三味線が。何の、お前さん、あんな派手な遊びを致しまするものか。そりやあ、お前さんの見違ひじや。世の中には、似た人がたんと(沢山)あります。
▲玄伯「へえ、左様かな。どうも、見違ひのやうには思ひません。いえ旦那、あなたまあ、とつく(篤)りと御覧遊ばせ。次兵衛さんに違ひございません。
▲老人「さうかのお。どれどれ。かう云ふ時は、めがねで見んと判りません。おゝ。めがねで見たら、真つ黒けになつて、向かうが見えんやうになりました。
▲玄伯「おや旦那さま。あなたそりやあ、めがねのさや(鞘)がとれてござりません。
▲老人「おゝ。ほんにさうぢや。さやがとつて無かつた。どれどれ。あゝゝゝ。ほんに、番頭ぢや。やつ、次兵衛ぢや。まあ、常にものがた(物堅)う云うて居るのと、大きな違ひ。知らぬどころが、塩焼にもお作りにもいりつけ(煮附)にもして、食べて居をるのぢや。常からものがたう云うて居る番頭、こゝに来て出会うたら、大いに赤面するであらう。と云うて、あとに戻れば余程大儀であるし。玄伯老、どうぞ見て見ぬ振りをして、道をかはしてやつて下され。
▲玄伯「畏りました。
 こなたは番頭の次兵衛。益々声を揚げて、
▲次兵「あゝ。よいとよいと。おのが姿を花と見て、庭に咲いたり咲かあせたり。
 どうも、この酒酔ひの癖として、道で出会ひますと、かたかた(片方)がよけて右へ寄らうとすると、右の方にはつと(途切)をします。左に寄らうとすると、左の方にはつと(途切)をします。おほて(大手)を広げて、
▲次兵「やあ。やらん、やらん。
 と申しますから、今は老人、止むを得ずして、顔を突き合はすやうな事になります。
▲老人「いやあ、番頭どん。
 云はれて番頭、驚きまして、
▲次兵「ふわーい。やつ、これは旦那さまでござりますか。まことにそのゝちは、打ち絶えて御無沙汰を致します。御家内さま、皆お揃い遊ばして、御機嫌宜しうござりまするか。一応、お尋ね申さねば済まぬのでござりまするが、何分貧乏暇なしで、ついつい御無沙汰になりましてござります。お帰り遊ばしましたら、どなたさまにも宜しう御伝言を願ひます。
▲老人「へえへえ。はいはい。これはこれは、御叮嚀なる御挨拶、恐れ入ります。番頭どんや、どうぞまあゆつくり遊んで、夕景には早う帰つて下さるやう、頼みましたぞや。玄伯老。あゝ、汗えかゝし居つた。さあ行きませう。
▲芸妓「おや、つぎさん。何だすね、あんた。めくら(盲人)の乞食見た様に、ぢべた(地面)へ頭着けて。ひたへ(額)、砂だらけだすがなあ。さあ、踊りまはう。あー、をゝんつんつんつ。
▲次兵「えー。をゝんつどころが、どろかい(大変)じや。
▲芸妓「今のお方。ありやあ、どこのお方だすね。あのちやびん(兀頭)のお方は。
▲次兵「ありやあ、うちの旦那様じや。
▲芸妓「あのお方が。おー、をか(可笑)し。
▲次兵「何の、をかしい事があるものか。さあ、船へ行かう。
▲番頭、酒のためにどろんけんに酔つて、真つ赤になつて居た奴が、思ひ掛けない処で旦那に逢ひましたから、色青醒めて、土色になつて仕舞ひました。船へ乗りまして、あを(青)しい顔をして、
▲次兵「あーあ。こりや、しまうたわい。
 と思ふ心配から逆上して、又真つ赤いけ(色)になりました。七面鳥程顔の色を変へまして、早う船を下げてくれえと云ふので、船をしも(下流)に下げましたが、いつもの都合のよい処の浜へ船を着けますると、げいこ(芸妓)舞子、皆々が、
▲「お近いうちにー。
 と云ふ声を後ろにして、番頭は、船から飛び上がりました。何しろ、足が地に付いて居りません。
▲次兵「ゑらい事をした。まあ、世の中に似た人もたんと(沢山)あるから、こつちの神経で旦那や。と思つた様な事ならよいが。夢じやああるまいか。
 と、おのが手で頬べたをつめつて見て、
▲次兵「あー。ひねると、やつぱり痛い。夢でもない様子じや。うちへ帰れば、様子が判るであらう。
 と、しほしほ立ち帰つて参り、
▲次兵「はい。今、帰りました。
▲丁稚「へえ。お帰り。お帰り。
▲次兵「旦那様は。
▲丁稚「へえ。こんにち(今日)、玄伯老つれて、桜の宮へ花観においでになりました。
▲次兵「なにつ。旦那が花観に。
▲丁稚「へえ。
▲次兵「こりやあ、いかんわい。全く、夢でもなければ、似たお方でも無かつた。愈々こりやあ、足袋屋の看版じやわい。
▲丁稚「へえ。足袋屋の看版、どう致しますのです。
▲次兵「いや。千日にか(苅)つたかや(茅)ぢや。
▲丁稚「へえ。千日まで、蚊帳買ひに行きますので。
▲次兵「あほぬ(吐)かせ。あー、痛々々。
▲丁稚「どうぞ、なすつたのですか。
▲次兵「おなかゞしくしく痛い様で。あつ痛、あー。旦那がお帰りになつて、番頭は。とお尋ねになつたら、おなかいた(痛)で、二階に休んでおいでや。と云うて置け。
▲丁稚「へえ。
 番頭は、二階へ上がりました。そこは番頭だけに、ちやーんとしつ(室)を設けて居りますから、ひとま(一室)には、洗ひ杉の火鉢に、火を沢山こさへてござりまして、さゆ(白湯)もちんちんと沸いて居りますから、煎茶の道具を取り寄せて、一せん(煎)入れて飲みましたが、中々胸へは通り兼ぬる様な事。しかし番頭職だけに、小袖箪笥にかばんの一つもかたへ(片方)に置き、とこ(床)には懸物の一つも懸けて、ちーんと番頭の部屋らしく致してござりますが、次兵衛、座蒲団の上へちーんと座つては見たが、魂が落ち着いてござりませぬ。
▲次兵「あー。ゑらい事をしたわい。因果と又、今日あんなとこで旦那に逢はうとは、思ひも寄らん事であつたなあ。悪い事は出来んものぢや。これまで番頭は、堅い者ぢや堅い者ぢやと思うて居なすつたらうが、かう云ふ事になると云ふのも。あーあ。天が許さん。とても、帰参は叶ふとは思はれん。さうだ。せめてこれまでこさへた物だけ、みんな着ていんでやらう。
 箪笥、かばんの着物を、そこへ皆取り出だしまして、襦袢を三枚着ました上に、胴着を三枚、綿入れをば五枚、その上へ指して袷をば七枚、又その上にひとへものをば九枚、その上から浴衣からかたびら(帷子)、薄羽織などを引つ掛かけて、帯をばぐるぐる巻きまして、あるだけの烟草入れを何本となく腰に挿し、ちよいと見ると、まるで小錦を一遍、水へつけた様な塩梅式で、
▲次兵「いやいや。こんな事をして帰つたら、番頭は、ふだんに支度をして居たものぢや。と云はれる様な事になると、かへつて可愛さ余つてにくさが百倍。と云ふので、叶ふ帰参も叶はぬ様な事になるかも知れんなあ。こつちの欲眼かは知らんけれど、やつぱり着の身着の儘でいぬ方がよからう。
 と、脱いだ着物をば又畳んで、元の如く、箪笥かばんへ納めました。かれこれするうちに、日もずんぶりと暮れて参りました。処へ、旦那は玄伯老をつれて、お帰りになりました。
▲玄伯「へえ。旦那様、お帰りでござります。
▲こども(丁稚)はおもて(表戸)をあけまして、
▲「へえ。お帰り、お帰り、お帰り。
▲老人「あー。玄伯老や。こんにち(今日)は、よう附き合うて下さつた。
▲玄伯「有難う存じます。思ひ掛けない花のおしやうばん(接伴)をさして戴きまして。
▲老人「どうぞ入つて、茶漬でも食べて、さうして帰つて下され。
▲玄伯「いや。有難う存じます。又、うちでも案じて居りませうで、直とこれからおいとま申します。
▲老人「それは一向、愛想が無かつたのう。それぢや留めませんが、玄伯老。明日は是非、遊びに来て下され。茶釜を掛けますから。
▲玄伯「有難う存じます。それではみやうにち(明日)、又お伺ひ申しまする。
▲老人「きつと、待つて居ますぞや。
▲玄伯「へえ。左様なら。
▲老人「あー。時に、店のしゆ(衆)。番頭どんは見えなさらぬが、どこぞへおいでたか。あー。ひる出た儘、まだ戻られぬのか。むー。どうしたのぢや。
▲丁稚「へえ。おなかゞしくしく痛い。と云うて、番頭さん、二階でお休みでござります。
▲老人「むゝ。さうかのう。おなかゞ痛いのか。お薬でもお上げ申したか。
▲丁稚「へい。お薬、上げましてござります。
▲老人「ひどう悪ければ、医者様でもよびにお上げ申せ。店にて無けねばならぬ、大切ない番頭殿ぢや。
▲次兵「あーあ。気づゝ(労)ない事ぢや。今にもころころの音がしたら、丁稚を以て受け人(にん)の由兵衛(よしべゑ)さんを、呼びにやるに違ひない。と、由兵衛さんが出て来るわ。時に由兵衛さん。今晩、お前さんを呼びに上げたのは、他でもござりませぬが、うちの番頭次兵衛の事について、実は今日、桜の宮で、かよう、かよう、かようの始末。どうも、あー云ふ不都合な事をしてくれますると、はた(傍)の者の意見が出来ませぬ故、ひとまづお前さんのはう(方)へ、つれて帰つて下され。そのうちに、私の方にも考へがあるから、沙汰あしまする程に。あーあ。いかん。とても、いかん。俺がしくじつたら、店の奴めがかんかん踊りしくさるだらう。又今日に限つて、店の奴をば、何であないにゑらう叱つた知らん。
 をりから、表のこぐり(小門)が、がらがらことん。
▲次兵「そりや。今、呼びにい(行)たぞ。
 又、がらがらことん。
▲次兵「来たのかいなあ。
 又、がらがらことん。
▲次兵「違ふかいなあ。
 又、がらがらことん。
▲次兵「おいでたかいなあ。
 入口のころころの音がするたびごとに、番頭は胸どきどき、耳鳴りがぢやんぢやん、脇の下から冷たい汗がたらたらたら。うちゞう(家内中)は、みんなお休みになりましたが、寝られぬのは番頭の次兵衛です。座蒲団の上にちんと座つた儘、豆鉄砲くらつた土鳩見た様に、目ばかりぱちつかして座り、往生をばき(極)めて居ります。うちに、はや夜が明け放れ、隣家でも表をばがらがらり、送り戸をあける音が致します。しやあしやあしやあと、かどを掃く音、水打つ音がしてござります。旦那はお目覚めになりましたから、御てうづ(手水)をば御使ひ遊ばして、にんてん(日天)様へお礼をして、あさはん(朝飯)もちやーつと召し上がり、いつもの如く、お座蒲団の上にちんと座つて、お火鉢を前に引き寄せて、煙草をば召し上がりながら、
▲旦那「こども(丁稚)-。
▲丁稚「へえ。
▲旦那「番頭どんは、もうお目覚めになりましたか。
▲丁稚「へえ。起きておいでゞござります。
▲旦那「さうかな。私が云うて居る。お暇は取らぬよつて、ちよと来て下され。と云うて、呼んでおいで。
▲丁稚「へえ。
 こども(丁稚)は、二階へとんとんとん。
▲丁稚「番頭さん。
▲次兵「何ぢやい。
▲丁稚「旦那様が、ちよつとあんたに御用事があると。
▲次兵「旦那がゝ。
▲丁稚「へえ。
▲次兵「むゝう。そこへ行く。と云ふとけ。
▲丁稚「へい。へえ、旦那様。左様申しましたら、そこへ行くと云ふとけ。と。
▲旦那「今、そこかたへ行くと云ふとけえ。たとひ番頭殿がさう云はれたにもしろ、只今これへお越しでござります。と、なぜ叮嚀に物を云ひをらん。尻がぬくもると、段々とのはうづ(野方途)になるわい。
 と云ふ奴が、二階へさしてぼーんと響きますから、番頭に取りては、胸に八寸釘を打たれる様な心地です。ぼん。と灰吹きへ吸殻あける音さへも、番頭の胸にぎくつとこたへまするくらゐな事で、二階から降りて来た番頭、首尾わるげに、旦那のもとに出て参りましたが、頭で米ついて、おいど(尻)の穴を鼻立てにして、
▲次兵「へい。只今は、お使ひに預りまして。
▲旦那「おー。番頭殿か。いや、御苦労。さあ、どうぞ。ずつと、こちらへ。いゝえ。さう云ふ処に御座つては、お話しがしにくい。ずつとこちらあへ、おいで。いえいえ。遠慮はいらん事ぢや。ずつとこちらへ。御座蒲団を敷いて。しかし、番頭殿や。早朝からお前さんを呼びに上げたのは、他でもない。少々、お前に尋ねたい事があるのぢや。
▲次兵「へえ。左様でござりますか。どの様な事でござりませうや。
▲旦那「いや。差したる事でもないが、藪から棒見た様な事をお尋ね申すぢや。一軒家のあるじをば、旦那、旦那。と云ふのは、どう云ふ事を以て申すものか、お前、聞いておいでかへ。
▲次兵「へえ。一向に存じませんで。
▲旦那「知つておいでじやないかやつ。わたくしも知らんのぢやが、或る人にちよいと聞きましたら、そのお人とても、噺家につり取る様な、ほん、しやらく(洒落)なお方に聞いたのぢやで、どうでまあよい加減な事ぢやらう。と、私は思ふから、お前がよそでゞも聞いておいでぢやないか知らん。と思うて、お尋ね申したのぢや。そのしやらく(洒落)なお方の話しでは、天目伝(てんもくでん)と云ふ書物に出て居るさうだ。五天竺と云うて、五つ天竺がある内で、なん(南)天竺と云ふ処に、しやくせんだん(赤栴檀)と云ふ、大きな栴檀の木があるさうだ。
▲次兵「成程。
▲旦那「そのしやくせんだんのねもと(根本)に、なんゑんさう(南円草)とかなんねんさう(南年草)とか、まあ云ふ草が生えるさうだ。そのなんゑんさうと云ふ草が、余程栴檀の益になる草ぢやげな。そこで栴檀のねもとに、つい、こゑ(肥料)をすると、栴檀もなんゑんさうも、一時(じ)に枯れる。そこで、こゑはせずとも、なんゑんさうが栴檀のこゑになる。して、そのなんゑんさうはどうであらうかと云ふに、しやくせんだんの露が下に落ちて、それがなんゑんさうのこゑになる。として見れば、しやくせんだんあつてのなんゑんさう、なんゑんさうあつてのしやくせんだん。それで、しやくせんだんの檀の字と、なんゑんさうの南の字と、これを合はせて、一家のあるじを、だんなん(檀南)と、云ふのぢやさうな。
▲次兵「成程。
▲旦那「判りましたか。かう云ふと、私はしやくせんだんぢやで、私のためにはお前さんはなんゑんさうぢや。又、表へ出て店の支配をしなさると、店ではお前さんがしやくせんだん。はた(外)の若い者や丁稚は、取りも直さずなんゑんさうぢや。で、かう見る処が、お前にちよつとこゑが過ぎて居る。お前のこゑがきついからして、はたのなんゑんさうがしほれて居るやうに、まあ、私が見受けるぢや。それで、どうか、はたのなんゑんさうにも、ちつとこゑをば行き届かして遣つて貰ひたい。それがお前さんに頼みたいばかりに、お呼び申したのぢや。あゝ。これで他に何も用事はない。どうぞ、表へ行つておくれ。
▲次兵「へえ。有り難う存じます。
 番頭は、きのふの桜の宮の一件を、こゝで云はれると思うた奴が、打つて変つたしやくせんだん、一軒家のあるじを旦那と云ふ引き事で、実に旦那の胸中、驚き桃の木山椒の木、えつき(榎松)の木、狸にぶりき。韓信、いちびと(市人)の股をくゞつて、きんたま(睾丸)のあぶらでおつむ(頭)ぴちやぴちや。
▲次兵「あゝ。有り難う存じます。よう心得ます。
 と云うて、番頭、そこを立たうとすると、
▲旦那「あゝ、ちよつと。番頭どん、ちよつとお待ち。
▲次兵「へえ。何か、まだ御用事がござりまするか。
▲旦那「はい。もうひとこと、お尋ね申したい事がある。
▲次兵「はい。どの様な事でござります。
▲旦那「しかし、きのふは、えらい御愉快。
▲次兵「へゝゝ。どゝ、どう致しまして。
▲旦那「美しいげいこ(芸妓)さん大勢に取り囲まれて、つゝんつんつんつと。はゝゝ。踊つてゞしたが、いつの間にあんな事を覚えてやつたか。踊りの手が、えらありやなあ。たかしまや(右団次)さんでも、かなはんくらゐ。うちのいと(嬢)やぼん(坊)にひとつ、踊つて見せて遣つてくれぬか。
▲次兵「どゝ、どうつかまつりまして。
▲旦那「あはゝゝ。なあ。若い時は二度無い。と、私らもあんな事をば、一遍して見たかつたが、しをく(後)れて仕舞つて大きに残念。あつはゝゝ。いや、恥づかしい事は無い。しかし、お前がよしべゑ(由兵衛)さんの世話で、うちへ奉公においでたのは、ありやあ、じふに(十二歳)の冬ぢやつたかいな。棄て育ちにしてあつたこ(児)じやによつて、日に焼けて真つ黒けえゝつ。よう寝小便したぜなあ。あつはゝゝ。堪忍しておくれや。年をとると、ぐ(愚)に返つて何を云ふやら。しかし、余りお前がしゝ(小便)垂れしたよつて、薬ぢやあ、とてもいかん。やいと(灸)がよからう。と、家内が云つたによつて、やいとをおろ(下)して遣つたが、色が黒いよつて、少しもやいとのあと(痕)が知れんよつてに、ごふん(白墨)でかた(印)をばおろした事があつた。あつはゝゝ。なあ。それはついこないだの様に思うて居るが、早いものぢや。それが、げいこ(芸妓)さんまいこ(舞妓)さんを連れて、遊ぶやうになつたかと思やあ、こつちは、よう化けんくらゐな事ぢや。あつはゝゝ。いやいや。赤面する事はない。えゝつ。お前の甲斐性でしなさるのぢや。お前さんをうちの番頭に直してから、うちの商売も日々手広うなり、かう繁昌になつたと云ふのも、皆お前さんのお骨折りぢや。なあ。帳面に穴が明いたと云ふのぢやあ無し。お前さんの甲斐性でするのぢや。決して私は、小言は云はんなあ。ぢんかう(沈香)もた(炷)かず、屁もこかず。ではいかんなあ。こんにち(今日)の人間ぢや。ぢんかうもたいたり屁もぶいぶいこいたり、活発にやらにやあ、あきやあせん。他の若い者も、お前さんを見習ふ様になりさへすれば、私のうちの繁昌じや。決して小言は云ひません。がしかし、まあ番頭どん。私が昨日玄伯老を連れて、桜の宮でお前さんとぱつたり出会うた時に、これは旦那さまでござりまするか。そのゝちは打ち絶えて御不沙汰を致します。一応お尋ね申さにやあ済まんのでござりますが、貧乏暇なし。何かと取り紛れて御不沙汰ばかり致します。御家内さま、皆御機嫌宜しうござりまするか。お帰り遊ばしたら、宜しく御伝言を。と云うてやつたが、思ひ掛けない処で会うたよつてに、それでお前はあわてゝ、あゝ云ふ挨拶をしたのか。
▲次兵「もとより承知で申し上げました。
▲旦那「はいー。久しい事会はんやうな挨拶を、なぜに承知で云はしやつた。
▲次兵「しも(失敗)た。百年目ぢや。と思ひました。

(完)

底本『速記の花』(1892年刊 国立国会図書館デジタルコレクション)

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