木六駄(きろくだ)(二番目 三番目)

▲アト「奥丹波に住居(すまひ)致す者でござる。何かと申す内に、年の暮れになつてござる。いつも嘉例で、都の伯父者人の方へ、歳暮の祝儀を遣はす。太郎冠者を呼び出し、持たせて遣はさうと存ずる。
{と云ひて、呼び出す。出るも、常の如し。}
汝呼び出す、別の事でない。何かと云ふ内に、年の暮れになつたではないか。
▲シテ「御意なさるゝ通り、殊の外、おしつめました。
▲アト「それについて、いつも嘉例で、都の伯父者人の方(かた)へ、歳暮の祝儀を遣はす。則ち、木六駄・炭六駄、牛に付けさせて置いた。汝は太儀ながら、あれを追うて行(い)てくれい。
▲シテ「畏つてはござれども、木六駄に炭六駄は、十二疋の牛ではござらぬか。
▲アト「その通りぢや。
▲シテ「これはいかな事。お前もよう思し召しても御覧(ごらう)じませ。十二疋の牛を、私ひとりして、何と追うて参らるゝものでござる。これは、もそつと人を遣はされませ。
▲アト「尤なれども、身共が内に、汝より外に誰も遣はす者もない。太儀ながら、そちひとり行(い)てくれい。
▲シテ「是非に及びませぬ。参りませうまで。
▲アト「暫くそれに待て。
▲シテ「心得ました。
{主、樽を持ちて出る。}
▲アト「やいやい。これは手酒(てしゆ)でござる。お寝酒になされい。と云うて、持つて行け。
▲シテ「あの、これも持つて行け。でござるか。
▲アト「中々。
▲シテ「あゝ、お前も、人を遣はせらるゝも、たいていがござる。十二疋の牛を追うて行く上に、この様な物までが、何と持つて行かるゝものでござる。
▲アト「扨々、汝はものを仰山に云ふものぢや。牛は足があつて歩(あり)く。汝に負(お)はれうとは云ふまいし、一方(いつぱう)には樽を持ち、又一方には鞭を持つて、追うて行(い)たが良い。
▲シテ「ものを心安さうに仰せらるゝ。あの牛と申すものが、中々素直に歩(あり)くものではござらぬ。その上、この中(ぢゆう)の大雪で、道は悪し。いや、も、これは、とかくなりませぬ。
▲アト「その様に云はずとも、行け。行(い)たらば、良い事があらうぞよ。
▲シテ「行(い)たりとも、あまり良い事もござるまい。
▲アト「当年は、別して寒気も強いによつて、布子の綿も多う入れうず。足袋も切つて穿(は)かせい。と云ひ付けて置いたれども、これも、いらぬものか。
▲シテ「申し申し、それは、定(ぢやう)でござるか。
▲アト「何の、嘘を云ふものぢや。
▲シテ「参りませう。
▲アト「行くか。
▲シテ「おふおふ、私が参ると申して、骨を盗まう{*1}ではござらねども、お前に、人もえお使ひなされぬ様に世間から申せば気の毒ぢや。と存じての事でござる。まだこの上に、何なりとも遣はされませ。持つて参りませう。
▲アト「いや、も、外に遣はすものもない。春は早う早う参つてお目にかゝりませう。と云うて、この状を持つて行け。
▲シテ「それならば、身拵へをして、追つ付け上りませう。只今仰せられました、私が身の暖かになる事を、必ず必ず、忘れさつせあれて下さるゝな。
▲アト「いかないかな、忘るゝ事ではない。急いで行け。
▲シテ「畏つてござる。
{常の如く、詰める。受ける。}
なうなう、嬉しや、嬉しや。当年は、別して寒気も強いによつて、布子の綿も多う入れうず。足袋も切つて穿(は)かせい。と云ひ付けて置いた。と仰(お)せある。この様な悦ばしい事はない。まづ、急いで身拵へをして上らう。と存ずる。
{と云ひて、中入りする。}
▲茶屋「この辺りに住居致す百姓でござる。某(それがし)が兄弟どもは、皆百姓でござれども、生まれ付いて不達者にござるによつて、鋤鍬(すきくは)の辛労がならぬ。それ故、老(おい)の坂の峠へ茶店を出して、往来の人に茶を商うて渡世致す。さりながら、この中(ぢゆう)は晴れ間もない大雪で、上下(じやうげ)の行き通ひも少なうござる。されども、毎日出る事なれば、一日店を引く事もならぬ。又、今日(けふ)も参らうと存ずる。誠に、毎年(まいねん)とは申しながら、別して当年は雪年でござる。又、この四、五日は降り続くによつて、上下の通ひも、ひしと止まつた。何とぞ、少しなりとも今日は商ひを致したいものぢやが。何かと云ふ内に、峠ぢや。まづ、店を出さう。と存ずる。扨も、降るわ、降るわ。又、まつ黒になつて降るわ。これでは今日(けふ)は、中々人通りはあるまい。常は、往来(ゆきゝ)の衆が皆、この峠で休むによつて、茶を汲みかぬる程、忙しけれども、この頃は、雪が深いによつて、かつて上下(じやうげ)もない。まづ、茶を沸かさう。
▲後シテ「させいほうせい、させいほうせい。丁々、丁々。あゝ、こりあこりあ。この細い道を並ばずとも、一疋づゝ行けいやい。ほうせい、ほうせい。あゝ、並うだり、並うだり。十二疋の牛の並うだを見れば、あれからつゝと、あれまでぢや。あれあれ、ものを云へば後へ下がりをる。うせをらぬかいやい。ほうせい、ほうせい。丁々、丁々。あゝ、こりあこりあ。そこは、崖ぢや。荷が反(かへ)る。こちへ寄りをれ。扨々、世話を焼かせをる事かな。ほうせい、ほうせい。あゝ、降るわ、降るわ。こりあ又、まつ黒になつて降るわ。この大雪に、身すがらさへぢやに、十二疋の牛をひとりして追うて行かねばならぬ。それに、おのれらが果たさぬによつて、道ばかゞ行かぬわいやい。ほうせい、ほうせい。やあ、あの黄(あめ)牛が、早(はや)、沓を踏み切つた。たつた今、後(あと)の松の木の傍で掛け替へた沓を、早、踏み切つた程にの。おのれが様な臑(すね)の達者な牛は、つひに見た事がない。是非に及ばぬ。掛け替へずばなるまい。おうおうおう。
{と云ひて、沓を掛け替へに行く。牛、蹴る心にて、驚きて逃げるなり。口伝。}
何ぢや。おのれ、おれを蹴るか。扨々、憎いやつの。おのれがおれを蹴つたと云うて、何と思ふものぢや。その根性ぢやによつて、牛に生まれをるわいやい。扨々、憎いやつかな。そりあそりあ、それで、冷たうて良からうぞ。うせをれ。ほうせい、ほうせい。丁々、丁々。よを、斑(まだら)牛が、どれへやら行(い)た。あゝ、さればこそ、あゝ、こりあこりあ。其処(そこ)は崖ぢや。荷が反(かへ)る。こちへ寄りをれいやい。扨々、危ない。ほうせい、ほうせい。せめて、老の坂の峠まで行(い)たらば、ひと休みせう。と思へども、おのれらが果たさぬによつて、道ばかゞ行かぬわいやい。ほうせい、ほうせい。
{このしかじかの内、色々仕様、外にあり。工夫あるべし。口伝なり。}
いや、何かと云ふ内に、峠へ来た。やれやれ、嬉しや、嬉しや。さらば、ひと休みせう。おうおう、あれあれ。止まれ。と云へば、行きたがる。こゝで休むのぢやわいやい。おゝ、扨々、憎いやつかな。茶屋、お出あつたか。
▲茶「おゝ、これは又、お上(のぼ)りか。
▲シテ「見ておくれあれ。この大雪に、身すがらさへぢやに、十二疋の牛を、ひとりして追うて行かねばならぬ。
▲茶「それは、太儀な事ぢや。まづ、蓑笠も取つて、ちと休ましめ。
▲シテ「ちとも、そつとも、休まねばならぬ。
▲茶「どれどれ、手伝うて遣らう。
▲シテ「手伝うてたもれ。
▲茶「これは、夥(おびたゞ)しう雪を負うたなう。
▲シテ「何と今年は、大雪ではないか。
▲茶「今年の様な大雪は、近年に覚えぬ。
▲シテ「さりながら、この様な大雪の後(あと)は豊年ぢや。と云ふ程に、それを楽しみにおしあれ。
▲茶「何(いづ)れ、それを楽しみにしてゐる事でおりある。
▲シテ「扨々、寒い事かな。
▲茶「どれどれ、茶を沸かしてやらうぞ。
▲シテ「あゝ、これこれ。茶どころではない。その、酒を呑ませておくれあれ。
▲茶「いや、酒は切らした。
▲シテ「何ぢや、酒を切らした。
▲茶「中々。
▲シテ「こゝで一つ呑まう。と思うて、泳ぎ着く様にして来た。どうぞ、才覚はあるまいか。
▲茶「この中(ぢゆう)の大雪で、里への通ひがないによつて、どうも才覚はならぬ。
▲シテ「あゝ、それは、力を落とした。
▲茶「やい、太郎冠者。
▲シテ「やあ。
▲茶「その前なは、何ぢや。
▲シテ「これか。
▲茶「中々。
▲シテ「これは、酒ぢや。
▲茶「それをお呑みあれい、なう。
▲シテ「いかないかな。これは、頼うだ人から都の伯父御へ歳暮の祝儀に贈らるゝ酒ぢやによつて、指もさす事はならぬ。
▲茶「扨々、堅い事を云ふ人ぢや。その沢山な内を、一つなど呑む分は、苦しうあるまいぞ。
▲シテ「何(いづ)れ、沢山な内ぢやによつて、一つなど呑む分は苦しうもなけれども、後(あと)がだぶつく。
▲茶「それは、良い仕様がある。
▲シテ「何とするぞ。
▲茶「はて、だぶつかぬ様に、呑うだ程、後(あと)へ水を入れてお行きあれ。
▲シテ「何(いづ)れ、これは尤ぢや。つゝと濃い酒ぢやによつて、一つなど呑うで、後(あと)へ水を入れたりとも、知るゝ事もあるまいか。
▲茶「何の知るゝものぞ。
▲シテ「何を云ふも、命があつての事ぢや。一つ、呑まう。その盃を貸しておくれあれ。
▲茶「心得た。さあ、盃を取つて来た。
▲シテ「ついでたもれ。
▲茶「まづ、燗をせう。
▲シテ「あゝ、これこれ。その燗をする間が、待たるゝものか。
▲茶「冷たからうぞや。
▲シテ「呑む内に、温まるわいなう。
▲茶「これも、尤ぢや。
{と云ひて、つぐ。シテ、呑む。常の如し。}
何とあつたぞ。
▲シテ「いや、も、只、冷(ひい)やりとばかりして、何も覚えぬ。
▲茶「それならば、もう一つ呑うで、味を覚えさしませ。
▲シテ「もう一つ呑うでも、大事あるまいか。
▲茶「何の、苦しうもあるまいぞ。
▲シテ「一つ呑むも二つ呑むも、同じ事ぢや。もう一つ呑まう。
▲茶「それが良からう。
▲シテ「又、ついでおくれあれ。
▲茶「心得た。
{と云ひて、又つぐ。}
▲シテ「今、覚えた。
▲茶「何とあつた。
▲シテ「酒は、結構なものぢや。口へ入るゝ時は、まづ、只氷を含む様にあつたが、早(はや)、身内(みうち)が温かになつた。
▲茶「扨々、結構なものぢや。
▲シテ「あゝ、そなたの顔も、寒さうな顔ぢや。
▲茶「いや、も、殊の外寒い事でおりある。
▲シテ「何と一つ、振舞はうか。
▲茶「一つ呑うでも、大事あるまいか。
▲シテ「どうも、見せては置かれぬ。一つお呑みあれ。
▲茶「それは、忝い。
{シテ、つぐ。茶屋、呑む。}
▲シテ「何とある。
▲茶「扨々、これは結構な酒ぢや。
▲シテ「その筈ぢや。それは、頼うだ者の自慢の手酒ぢや。
▲茶「さうであらう。格別良い酒ぢや。
▲シテ「気に入つたらば、もう一つお呑みあれ。
▲茶「もう一つ呑うでも大事ないか。
▲シテ「堅い事を云ふ人ぢや。さあさあ、お呑みあれ。
{と云ひて、つぐ。呑む。前の如し。}
▲茶「呑めば呑む程、良い酒ぢや。さあさあ、そなたへさゝう。
▲シテ「どれどれ、頂かう。
▲茶「ちと、諷(うた)はうか。
▲シテ「一段と良からう。
{茶屋、小謡を諷ふ。酒もつぐ。但し、「所は山路」の小謡諷ふも良し。}
ざつと、酒盛りになつた。
▲茶「その通りぢや。
▲シテ「又、そなたへさゝう。
▲茶「又、頂かうか。
▲シテ「ちやうど、お呑みあれ。
▲茶「軽うついでおくれあれ。
▲シテ「はて、ちやうどお呑みあれ、お呑みあれ。
{と云ひて、又つぐなり。}
▲茶「これは、ちやうどおつぎあつた。中々、これは急には呑めぬ。
▲シテ「それならば、身共が、肴にひとさし舞はうか。
▲茶「これは、一段と良からう。
▲シテ「その団扇をお貸しあれ。
▲茶「心得た。
▲シテ「地を諷(うた)うておくれあれ。
▲茶「心得た。
{シテ、小舞舞ふ。「柳の下」良きなり。}
良いや、良いや。
{シテ、この舞の内より、酒に酔ひて、ひよろひよろして舞ふ仕様あり。茶屋、褒める。シテ、「ざゝんざ」を諷ふ内に、茶屋、酒を呑む。}
又、そなたへさゝう。
▲シテ「頂かう、頂かう。
{茶屋、つぎて、樽を振りてみる。}
▲茶「やい、太郎冠者。これは、いかう残り少なになつた。
▲シテ「まだ、その様にはない筈ぢやが。
▲茶「いやいや、いかう残り少なになつた。
▲シテ「どれどれ。
{と云ひて、樽を取りて見るなり。}
誠に、これはいかう残り少なうなつた。
▲茶「その通りぢや。
▲シテ「何と、こゝへ水は入れられまいか。
▲茶「そこへ水を入れたらば、酒の匂ひのする水であらう。
▲シテ「匂ひばかりでは、何の役に立たぬものぢや。
▲茶「それそれ。
▲シテ「物とせう。
▲茶「何とするぞ。
▲シテ「いつそ、皆呑んで仕舞はう。
▲茶「それが良からう。
▲シテ「どぶどぶどぶ、びしよびしよびしよ。《笑》ざつと埒があいた。
▲茶「その通りぢや。
▲シテ「樽も、そなたに遣らうぞ。
{と云ひて、呑むなり。}
盃も取らしめ。
▲茶「心得た。
▲シテ「扨、今日(けふ)はそなたの蔭で、良い慰みをした。
▲茶「それは、あちらこちらぢや。そなたの蔭で、寒さを忘れた。
▲シテ「扨、物ぢや。
▲茶「物とは。
▲シテ「そなたは、薪はいらぬか。
▲茶「毎日焚く事ぢやによつて、夥(おびたゞ)しういる。
▲シテ「さゝ、物ぢや。あれに幸ひ、木が六駄ある。あの中、一駄はそなたにおますわ。
▲茶「それは、忝い。
▲シテ「残る五駄は、欲しい。と云ふ者があらば、売つておくれあれ。おれが、春の小遣ひにするわ。
▲茶「成程、良い様にして置かうぞ。
▲シテ「牛も、何処になりともつないで置いておくれあれ。戻りに寄つて、牽いて行かう。
▲茶「心得た。
▲シテ「どれどれ、行かうぞ。
▲茶「さあさあ、蓑笠を遣らう。
▲シテ「こりあ、何とする。
▲茶「はて、雪が降るわいなう。
▲シテ「この、雪が顔へ、ちらりちらりとかゝるが面白い。
▲茶「それもさうか。
▲シテ「もう、行きませうぞ。
▲茶「お行きあるか。
▲シテ「中々。
▲二人「さらば、さらば。
▲シテ「あゝ、これは、良い機嫌になつた。さらば、行かう。やあ、わごりよ達は、まだそこに待つてゐるか。これは、お待ち遠にござりませう。《笑》さあさあ、お行きあれ、お行きあれ。おゝ、これは夥(おびたゞ)しう、雪を負うたなあ。重荷に小づけぢや。
{と云ひて、笑ふ。}
ほうせい、ほうせい。ちと諷(うた)はう。
{と云ひて、小謡諷ひ諷ひ、牛を追ふ。「運び重ね雪山」を諷ふなり。}
何ぢや、あの黄(あめ)牛めが、角を生(は)やいておれを睨うだというて、何と思ふものぢや。
{と云ひて追ふ。竹を刀の心にて、そりを打つ。}
何ぢや。もう。
{と云ひて、笑ふ。}
これは、御尤でござります。さあさあ、お行きあれ、お行きあれ。その代りに、伯父御様へ行(い)たらば、御好物の粥を申し付けうぞ。ほうせい、ほうせい。いや、何かと云ふ内に、伯父御様へ来た。これは、思ひの外、早う来た。さらば、牛をつながう。
{と云ひて、綱を取る心にて、シテ柱へ取り付け括る。扨、頭巾もぬぎて、雪を払ふ仕方あり。}
これは、夥(おびたゞ)しう雪を負うた。その上、どうやらふらふらするが。酒に酔うたか知らぬ。物もう、物もう、物もう。
▲小アト「表に案内がある。案内とは誰(た)そ。
▲シテ「おれぢや。
▲小アト「ゑい、太郎冠者。
▲シテ「《笑》太郎冠者でござります。
▲小アト「何として来た。
▲シテ「お使ひに参じました。
▲小アト「それは、何と云うておこされた。
▲シテ「そりあ、知りませぬ。
▲小アト「いや、こゝな者が。使ひに来て、知らぬと云ふ事があるものか。
▲シテ「これに、御状がござります。
▲小アト「状が来たか。
▲シテ「これを御覧なされましたらば、大方、様子が知れませう。
▲小アト「どれどれ。
▲シテ「書いたものは、調法でござる。
{小アト、状をひらき、橋かゝりを見て、}
▲小アト「やい、太郎冠者。炭六駄は見ゆるが、木六駄は見えぬぞよ。
▲シテ「木は、参りませぬが。
▲小アト「いやいや、この状に書いてある。
▲シテ「でも、木は参りませぬ。
▲小アト「そちも物を書く程に、これへ寄つて、この状を見よ。
▲シテ「どれどれ。そりあ、筆者の誤り。
▲小アト「筆者の誤りとは。
▲シテ「おれはこの中(ぢゆう)、名を変へました。
▲小アト「何と変へた。
▲シテ「喜六太と変へました。
▲小アト「何ぢや、喜六太。
▲シテ「喜六太に、炭六駄上(のぼ)し申し候ふ。ぢやわいの。
▲小アト「はて、変つた名を付けたなあ。
▲シテ「良い名を付けました。
▲小アト「猶々、手酒(てしゆ)一樽(いつそん)。この手酒は、どこにある。
▲シテ「手酒は、参りませぬ。
▲小アト「でも、状に書いてある。
▲シテ「でも、参りませぬ。
▲小アト「扨々、おのれは憎いやつの。最前から、何を問うても、あれも知らぬ、これも知らぬ。とぬかしをる。その上、見れば、いかう酒に酔うてゐをる。知つたが定(ぢやう)か、知らぬが定か。まつ直(すぐ)に云へ。
{と云ひて、きめる。シテ、下に居る。}
▲シテ「あゝ、まづ、お待ちなされませ。
▲小アト「何と待てとは。
▲シテ「物でござる。
▲小アト「物とは。
▲シテ「あまり寒うござつたによつて、老の坂の峠の茶屋で、ごぶごぶと致しました。
▲小アト「どうで、その様な事であらう。と思うた。
▲シテ「ご許されませ、ご許されませ。
▲小アト「あの横着者、やるまいぞ、やるまいぞ。
{と云ひて、追ひ込み入るなり。}

校訂者注
 1:「骨を盗む」は、「骨惜しみをする」意。

底本:『和泉流狂言大成 第四巻』(山脇和泉著 1919年刊 国会図書館D.C.

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木六駄(キロクダ)(二番目 三番目)

▲アト「奥丹波に住居致す者で御座る、何彼と申す内に年の暮に成つて御座る、毎も嘉例で都の伯父者人{*1}の方へ歳暮の祝儀を遣はす、太郎冠者を呼び出し持たせて遣はさうと存ずる{ト云て呼出す{*2}出るも常の如し}{*3}汝呼び出す別の事でない、何彼といふ内に年の暮に成つたではないか▲シテ「御意被成るゝ通り、殊の外押つめました▲アト「夫に就て、いつも嘉例で都の伯父者人{*4}の方へ歳暮の祝義を遣はす、則ち木六駄炭六駄牛に付けさせて置ゐた、汝は太儀ながらあれを追うていてくれい▲シテ「畏つては御座れども、木六駄に炭六駄は拾二疋の牛では御座らぬか▲アト「其通りぢや▲シテ「是はいかな事{*5}、お前もよう思し召しても御らうじませ、拾二疋の牛を私独りして何と追うて参らるゝもので御座る、是は最卒つと人を遣はされませ▲アト「尤なれども、身共が内に汝より外に誰も遣はす者もない、太儀ながらそち独りいてくれい▲シテ「是非に及びませぬ参りませうまで▲アト「しばらく夫にまて▲シテ「心得ました{主樽を持て出る}▲アト「やいやい、是は手酒で御座る、お寝酒に被成いといふて持つてゆけ▲シテ「あの之も持つてゆけで御座るか▲アト「中々▲シテ「あゝお前も人を遣はせらるゝもたいていが御座る、拾二疋の牛を追うてゆく上に、此様な物迄が何と持つてゆかるゝもので御座る▲アト「偖々汝はものを仰山にいふものぢや、牛は足があつて歩りく、汝におはれうとはいふまいし、一つ方には樽を持ち、又一つ方には鞭を持つて追うていたがよい▲シテ「ものを心易さうに仰せらるゝ、あの牛と申すものが、中々すなをにありくものでは御座らぬ、其上此中の大雪で道はわるし、いやも是は兎角なりませぬ▲アト「其様にいはずともゆけ、いたらばよい事が有らうぞよ▲シテ「いたりともあまりよい事も御座るまい▲アト「当年は別して寒気もつよいに依つて、布子の綿も多う入れうず足袋も切つてはかせいと云ひ付けて置ゐたれども、是もいらぬ物か▲シテ「申し申し夫は定{*6}で御座るか▲アト「何のうそをいふものぢや▲シテ「参りませう▲アト「ゆくか▲シテ「おふおふ、私が参ると申して骨を盗まうでは御座らねども、お前に人も得お使ひ被成ぬ様に世間から申せば、気の毒ぢやと存じての事で御座る、まだ此上に何なり共遣はされませ持つて参りませう▲アト「いやも外に遣はすものもない、春は早う早う参つてお目にかゝりませうといふて此状を持つてゆけ▲シテ「夫ならば身拵をして追付のぼりませう、唯今仰せられました、私が身のあたゝかに成る事を、必ず必ずわすれさつせあれて下さるゝな▲アト「いかないかな忘るゝ事ではない、急いでゆけ▲シテ「畏つて御座る{如常つめるうける}{*7}のうのう嬉しや嬉しや、当年は別して寒気もつよいに依つて、布子の綿も多う入れうず、足袋も切つてはかせいと云ひ付けて置いたと仰せある、此様な悦ばしい{*8}事はない、先づ急いで身拵をしてのぼらうと存ずる{ト云て中入する}▲茶屋「このあたりに住居いたす百姓で御座る、某が兄弟共は皆百姓で御座れども、生れ付て不達者に御座るに依つて、鋤鍬の辛労がならぬ、夫ゆへ老の坂の峠へ茶店を出して、往来の人に茶を商うて渡世いたす去ながら、此中は晴れ間もない大雪で、上下のゆき通ひもすくなう御座る、され共毎日出る事なれば、一日店を引く事もならぬ、又今日も参らうと存ずる、誠に、毎年とは申しながら、別して当年は雪年で御座る、又此四五日は降りつゞくに依つて、上下の通ひもひしととまつた、何卒すこし成とも今日は商ひを致したいものぢやが、何彼といふ内に峠ぢや、先づ店を出さうと存ずる、偖も降るは降るは、又まつ黒に成つて降るは、是ではけふは中々人通りは有るまい、常は往来の衆が皆此峠で休むに依つて、茶を汲かぬるほどいそがしけれ共、此頃は雪が深いに依つて、かつて上下もない、先づ茶をわかさう▲後シテ「させいほうせいさせいほうせい、丁々丁々、あゝこりあこりあ、此ほそい道をならばずとも、一疋づゝゆけいやい、法せい法せい、あゝならうだりならうだり十二疋の牛のならうだを見れば、あれからつゝとあれ迄ぢや、あれあれものを云へば後へさがりおる、うせおらぬかいやい、法せい法せい、丁々丁々、あゝこりあこりあ、そこはがけぢや荷がかへる、こちへよりおれ、偖々世話をやかせをる事かな、法せい法せい、あゝ降るは降るは、こりあ又まつ黒に成つて降るは、此大雪に身すがらさへぢやに、十二疋の牛を独りして追うてゆかねばならぬ、夫におのれらがはたさぬに依つて道ばかがゆかぬわいやい、法せい法せい、やあ、あのあめ牛が早沓をふみ切つた、たつた今後の松の木のそばでかけかへた沓を、早ふみ切つた程にの、おのれがやうなすねの達者な牛はついに見た事がない、是非に及ばぬかけかえずばなるまい、おうおうおう{ト云て沓を掛かへに行く牛ける心にて驚きて逃るなり口伝}なんぢや、おのれおれを蹴るか、偖て偖て憎いやつの、おのれがおれをけつたといふて、何と思ふものぢや、其根性ぢやに依つて牛に生れをるわいやい、偖々憎いやつかな、そりあそりあ、夫でつめたうてよからうぞ、うせおれ、法せい法せい、丁々丁々、よを、まだら牛がどれへやらいた、あゝさればこそ、あゝこりあこりあ、其処はがけぢや荷がかへる、こち{*9}へよりをれいやい、偖々あぶない、法せい法せい、せめて老の坂の峠までいたらば、一ト休みせうと思へ共、おのれらがはたさぬに依つて、道ばかがゆかぬわいやい、法せい法せい{此しかしかの内色々仕様外にあり工夫可有口伝也}いや何彼といふ内に峠へ来た、やれやれ嬉しや嬉しや、さらば一休みせう、おうおうあれあれ、とまれといへばゆきたがる、爰で休むのぢやわいやい、おゝ、偖々憎いやつかな、茶屋お出あつたか▲茶「おゝ是は又おのぼりか▲シテ「見ておくれあれ、此大雪に身すがらさへぢやに、十二疋の牛を独りして追うてゆかねばならぬ▲茶「夫は太儀な事ぢや、先づみの笠も取つてちと休ましめ▲シテ「ちともそつとも休まねばならぬ▲茶「どれどれ手伝うてやらう▲シテ「手伝うてたもれ▲茶「是はおびたゞ敷う雪を負うたのふ▲シテ「何とことしは大雪ではないか▲茶「ことしのやうな大雪は近年に覚へぬ▲シテ「乍去、此様な大雪の後は豊年ぢやといふ程に、夫を楽みにおしあれ▲茶「何れ夫を楽みにしてゐる事でおりある▲シテ「偖々寒い事かな▲茶「どれどれ茶をわかしてやらうぞ▲シテ「あゝ是れ是れ、茶所ではない、其酒を呑ませておくれあれ▲茶「いや酒はきらした▲シテ「何ぢや酒をきらした▲茶「中々▲シテ「爰で一つ呑まうと思ふて、およぎつく様にして来た、どうぞ才覚はあるまいか▲茶「此中の大雪で、里への通ひがないに依つて、どうも才覚はならぬ▲シテ「あゝ夫は力を落した▲茶「やい太郎冠者▲シテ「やあ▲茶「其前なは何ぢや▲シテ「之か▲茶「中々▲シテ「之は酒ぢや▲茶「夫をおのみあれいのふ▲シテ「いかないかな、是は頼うだ人から都の伯父御へ歳暮の祝儀に贈らるゝ{*10}酒ぢやに依つて、指もさす事はならぬ▲茶「偖々堅い事をいふ人ぢや其沢山な内を一つ抔{*11}呑む分は苦敷うあるまいぞ▲シテ「何れ沢山な内ぢやに依つて、一つ抔{*12}呑む分は苦敷うもなけれ共、跡がだぶつく▲茶「夫はよい仕様がある▲シテ「何とするぞ▲茶「果だぶつかぬ様に、呑うだ程跡へ水を入れておゆきあれ▲シテ「何れ是は尤ぢや、つゝと濃い酒ぢやに依つて、一つなど呑うで跡へ水を入れたりとも、知るゝ事も有るまいか▲茶「なんのしるゝものぞ▲シテ「何をいふも命があつての事ぢや、一つ呑まう其盃をかしておくれあれ▲茶「心得た、さあ盃を取つて来た▲シテ「ついでたもれ▲茶「先づかんをせう▲シテ「あゝ是々、其かんをする間が待たるゝものか▲茶「つめたからうぞや▲シテ「飲む内にあたゝまるわいのふ▲茶「是も尤ぢや{ト云てつぐシテ呑如常}{*13}何とあつたぞ▲シテ「いやも唯ひいやりとばかりして何も覚へぬ▲茶「夫ならば最一つ呑うで味を覚へさしませ▲シテ「最一つ呑うでも大事あるまいか▲茶「なんの苦敷うもあるまいぞ▲シテ「一つ呑むも二つ呑むもおなじ事ぢや、最一つ呑まう▲茶「夫がよからう▲シテ「又ついでおくれあれ▲茶「心得た{ト云て又つぐ}▲シテ「今おぼへた▲茶「何とあつた▲シテ「酒は結構なものぢや、口へ入るゝ時はまつ唯氷をふくむやうに有つたが、早身内があたゝかになつた▲茶「偖々結構なものぢや▲シテ「あゝそなたの顔もさむさうな顔ぢや▲茶「いやも殊の外さむい事でおりある▲シテ「何と一つ振まはうか▲茶「一つ呑うでも大事有るまいか▲シテ「どうも見せてはおかれぬ、一つお呑みあれ▲茶「夫は忝い{シテつぐ茶屋呑む}▲シテ「何とある▲茶「偖々是は結構な酒ぢや▲シテ「其筈ぢや、夫は頼うだ者の自慢の手酒ぢや▲茶「さうで有らう格別よい酒ぢや▲シテ「気に入つたらば最一つお呑みあれ▲茶「最一つ呑うでも大事ないか▲シテ「かたい事を云ふ人ぢや、さあさあお呑みあれ{ト云てつぐ呑む前の如}▲茶「のめば呑むほどよい酒ぢや、さあさあそなたへさそう▲シテ「どれどれいたゞかう▲茶「ちと諷はうか▲シテ「一段とよからう{茶屋小謡を諷ふ酒もつぐ但し所は山路の小謡諷ふもよし}{*14}ざつと酒盛り{*15}になつた▲茶「其通りぢや▲シテ「又そなたへさそう▲茶「又いたゞかうか▲シテ「恰度お呑みあれ▲茶「かるうついでおくれあれ▲シテ「果恰度お呑みあれお呑みあれ{ト云て亦つぐなり}▲茶「是は恰度おつぎあつた、中々是は急にはのめぬ▲シテ「夫ならば身共が肴に一さし舞はうか▲茶「是は一段とよからう▲シテ「其団扇をおかしあれ▲茶「心得た▲シテ「地を諷うておくれあれ▲茶「心得た{シテ小舞まふ柳の下よき也}{*16}よいやよいや{シテ此舞の内より酒に酔てひよろひよろして舞仕様あり茶屋ほめるシテざゝんざを諷ふ内に茶屋酒を呑む}{*17}又そなたへさそう▲シテ「いたゞかういたゞかう{茶屋つぎて樽をふりてみる}▲茶「やい太郎冠者、是はいかう残り少なに成つた▲シテ「まだ其様にはないはづぢやが▲茶「いやいやいかう残り少なになつた▲シテ「どれどれ{ト云て樽を取て見る也}{*18}誠に是はいかう残りずくなうなつた▲茶「其通りぢや▲シテ「何と爰へ水は入られまいか▲茶「そこへ水を入れたらば、酒の匂ひのする水で有らう▲シテ「匂ひばかりでは何の役にたゝぬものぢや▲茶「夫々▲シテ「物とせう▲茶「何とするぞ▲シテ「いつそ皆呑んでしまはう▲茶「夫がよからう▲シテ「どぶどぶどぶ、びしよびしよびしよ《笑》{*19}ざつと埒が明いた▲茶「其通りぢや▲シテ「樽もそなたにやらうぞ{ト云て呑む也}{*20}盃もとらしめ▲茶「心得た▲シテ「偖けふはそなたの蔭で、よいなぐさみをした▲茶「夫はあちらこちらぢや、そなたのかげで寒さを忘れた▲シテ「偖物ぢや▲茶「物とは▲シテ「そなたは薪はいらぬか▲茶「毎日たく事ぢやに依つて、おびたゞしういる▲シテ「さゝ物ぢや、あれに幸ひ木が六駄ある、あの中一駄はそなたにおますは▲茶「夫は忝い▲シテ「残る五駄はほしいと云ふ者があらば売つておくれあれ、おれが春の小遣ひにするわ▲茶「成程よい様にして置うぞ▲シテ「牛も何処になりともつないで置ゐておくれあれ、戻りによつて牽いてゆかう▲茶「心得た▲シテ「どれどれゆかうぞ▲茶「さあさあ蓑笠をやらう▲シテ「こりあ何とする▲茶「果雪が降るわいのふ▲シテ「此雪が顔へちらりちらりとかゝるが面白い▲茶「夫もさうか▲シテ「もうゆきませうぞ▲茶「おゆきあるか▲シテ「中々▲二人「さらばさらば▲シテ「あゝ是はよい機嫌に成つた、さらばゆかう、やあ、わごりよ達はまだそこにまつてゐるか、是はお待どうに御座りませう《笑》{*21}さあさあおゆきあれおゆきあれ、おゝ是はおびたゞしう雪をおうたなあ、重荷にこづけぢや{ト云て笑ふ}法せい法せい、ちと諷はう{ト云て小謡うたひうたひ牛を追はこび重ね雪山を諷ふなり}{*22}なんぢやあのあめ牛めが、角をはやいておれをにらうだといふて何と思ふものぢや{ト云て追竹を刀の心にてそりを打つ}なんぢや、もふ{ト云て笑ふ}是は御尤で御座ります、さあさあおゆきあれおゆきあれ、其かわりに伯父御様へいたらば、御好物のかゆを申し付うぞ、法せい法せい、いや何彼といふ内に伯父御様へ来た、是は思ひの外早う来た、去らば牛をつながう{ト云て綱を取心にてシテ柱へ取付くゝる偖て頭巾もぬぎて雪を払ふ仕方あり}是はおびたゞしう{*23}雪を負ふた、其上どうやらふらふらするが、酒に酔うたかしらぬ、物もう物もう物もう▲小アト「表に案内がある、案内とは誰そ▲シテ「おれぢや▲小アト「ゑい太郎冠者▲シテ「《笑》{*24}太郎冠者で御座ります▲小アト「何として来た▲シテ「お使に参じました▲小アト「夫は何といふておこされた▲シテ「そりあ知りませぬ▲小アト「いや爰な者が、使に来て知らぬといふ事があるものか▲シテ「是に御状が御座ります▲小アト「状が来たか▲シテ「是を御らん被成ましたらば、大方様子が知れませう▲小アト「どれどれ▲シテ「書いたものは調法で御座る{小アト状をひらき橋かゝりを見て}▲小アト「やい太郎冠者、炭六駄は見ゆるが木六駄は見へぬぞよ▲シテ「木は参りませぬが▲小アト「いやいや此状に書いてある▲シテ「でも木は参りませぬ▲小アト「そちも物をかく程に、是へよつて此状を見よ▲シテ「どれどれ、そりあ筆者のあやまり▲小アト「筆者のあやまりとは▲シテ「おれは此中名をかへました▲小アト「何とかへた▲シテ「喜六太{*25}とかゑました▲小アト「何ぢや喜六太▲シテ「喜六太に炭六駄のぼし申し候ぢやわいの▲小アト「果かわつた名を付けたなあ▲シテ「よい名を付けました▲小アト「猶々手酒一樽、此手酒はどこにある▲シテ「手酒は参りませぬ▲小アト「でも状に書いてある▲シテ「でも参りませぬ▲小アト「偖々おのれは憎いやつの、最前から何を問うてもあれも知らぬ、是もしらぬとぬかしをる、其上見ればいかう酒に酔うてゐをる、知つたが定{*26}か知らぬが定{*27}か、まつ直にいへ{ト云てきめるシテ下に居る}▲シテ「あゝ先づおまち被成ませ▲小アト「何とまてとは▲シテ「物で御座る▲小アト「物とは▲シテ「あまりさむう御座つたに依つて、老の坂の峠の茶屋で、ごぶごぶと致しました▲小アト「どうで其様な事で有らうと思ふた▲シテ「御ゆるされませ御ゆるされませ▲小アト「あの横着者やるまいぞやるまいぞ{ト云て追込入るなり}

校訂者注
 1・4:底本は、「伯父や人」。
 2:底本は、「呼出 」。「す」はカスレ。
 3:底本、ここに「▲アト「」がある(略す)。
 5:底本は、「是はばかな事」。
 6・26・27:底本は、「誠(じやう)」。
 7・14・18・20・22:底本、全て「▲シテ「」がある(全て略)。
 8:底本は、「悦ばし事」。
 9:底本は、「此方(そこ)」。
 10:底本は、「祝儀に送らるゝ」。
 11・12:底本は、「杯(など)」。
 13・16・17:底本、全て「▲茶「」がある(全て略)。
 15:底本は、「酒宴(さかもり)り」。
 19・21:底本は「笑ふ」。但し、ト書きと同じ大きさの活字で縦一行書き。
 23:底本は、「おひたゞしう」。
 24:底本は、「▲シテ笑ふ「」。
 25:底本は、「木六太(きろくだ)」。