『能狂言』中69 小名狂言 よねいち

▲シテ「一日いち日と送る程に、はや大晦日になつてござる。世にある人は、正月用意の年取り物のと申して、殊の外忙しうござるが、私は年を取らう物を持ちませねば、一段と暇で迷惑致す。それにつき、こゝに毎年、定まつて合力米を下さるゝお方がござるが、当年は何と致いてやら、今に沙汰がござらぬ。今日はあれへ参り、貰うて参らうと存ずる。まづそろりそろりと参らう。いや。誠に、かうりよくまいを貰うたならば、担うて参らうと存じて、棒を用意致いてござるが、何とぞこの棒が恥をかゝねば良うござるが。毎年の事でござるによつて、下されぬと申す事はござるまい。いや。参る程にこれぢや。これはまづ、こゝ元に置いて。まづ案内を乞はう。《常の如く》
▲貸手「和御料ならば、案内に及ばうか。つゝと通りは召されいで。
▲シテ「左様には存じてござれども、もしお客ばしござらうかと存じて、それ故案内を乞ひましてござる。扨、近いお正月でござる。
▲貸手「誠に良い歳暮でおりやる。
▲シテ「こなたには、はや仕舞はせられてござるか。
▲貸手「こゝな人は。今まで仕舞はぬ者があるものか。そなたも当年は仕舞ひが良いと見えて、歳暮の礼におりやつたの。
▲シテ「さればその事でござる。私も夫婦ともに油断なう稼ぎますれども、何と致いてやら、当年も又仕舞ひかねて、近頃迷惑致す事でござる。
▲貸手「何ぢや。又仕舞ひかぬる。
▲シテ「中々。面目もござらぬ。
▲貸手「扨々、それは気の毒な事ぢや。いや。それについて、毎年遣る合力米は、行ておりやるか。
▲シテ「はあ。未だ参りませぬが、これは春になつても苦しうござらぬ。
▲貸手「いやいや。毎年遣り付けた事ぢやによつて、今問うてやらう。
▲シテ「それは忝うござる。
▲貸手「やいやい。毎年誰が方へ遣る合力米は行たか。ぢやあ。
いや。なうなう。
▲シテ「何事でござるぞ。
▲貸手「近頃気の毒な事があるわ。
▲シテ「それは又、いかやうな事でござるぞ。
▲貸手「今問うたれば、もはや蔵々の注連飾りを仕舞うたによつて、出たのがないと云ふわ。
▲シテ「やあやあ。何と仰せらるゝぞ。蔵々のしめ飾りを仕舞うて、出たのがないと仰せらるゝか。
▲貸手「中々。
▲シテ「扨々、それは苦々しい事でござる。ありやうは、私もこなたを当てに致いて参りましたが。さりながら、こなたは公な事でござれば、少しばかりは出たのがないと申す事はござるまい。今一度問はせられて下されい。
▲貸手「心得た。
やいやい。少しなりとも出たのはないか。ぢやあ。それは余り少しぢやが。
いや。なうなう。出たのがあれども、余り少しぢやと云ふわ。
▲シテ「それはいか程ござるぞ。
▲貸手「半石の半せきならではないと云ふわ。
▲シテ「その又半石でも苦しうござらぬ。三が日さへ仕舞ひますれば、後はいかやうにも致す事でござる。
▲貸手「扨々、それは心安い身代ぢや。それならば、今出いてやらう。
▲シテ「それは忝うござる。
▲貸手「ゑいゑいゑい。
▲シテ「はあ。これは、御自身出させられてござるの。
▲貸手「皆の者が忙しいによつて、自身持つて来た。さあさあ。持つて行かしめ。
▲シテ「これは忝うござる。さらば持つて参りませう。これはいかな事。中々持たるゝ事ではござらぬ。
▲貸手「それでは中々持たれまい。
▲シテ「いや。申し。物には幸ひな事があるものでござる。只今途中で棒を一本ことづかりました。これでになうて参りませう。
▲貸手「それは幸ひな事ぢや。
▲シテ「申し。この棒でござる。
▲貸手「これは一段と良からう。
▲シテ「かやうに致いて担うて参りませう。これはいかな事。これでは中々担はれませぬ。何とぞ今一つ、これ程の物がござつたならば、つり合ひが良うござらうが。これでは片荷づゝで、いかないかな、持たるゝ事ではござらぬ。
▲貸手「いかさま、それでは片荷づゝで持たれまい。何としたならば良からうぞ。
▲シテ「されば、何と致いて良うござらうぞ。いゑ。幸ひこれに、良い縄がござる。これで背負うて参りませう。
▲貸手「誠にこれは一段と良からう。身共が手伝うてやらう。
▲シテ「それは忝うござる。慮外ながら手伝うて下されい。
▲貸手「まづ、これへ手を通さしめ。
▲シテ「畏つてござる。何と良うござるか。
▲貸手「一段と良い。急いで立たしめ。
▲シテ「心得ました。《棒を突いて》やつとな。
▲貸手「何とでおりやる。
▲シテ「これで{*1}一段と持ち良うなりました。
▲貸手「さうであらう。
▲シテ「扨、私はもう、かう参りまする。
▲貸手「早おりやるか。
▲シテ「さらばさらば。
▲貸手「ようおりやつた。
▲シテ「はあ。
なうなう。嬉しや。まんまと合力米を貰うてござる。まづ急いで参らう。が、いつもおごう様から乳母が方へ、古着を下さるゝが、これも忘れさせられたと見えた。さりながら、これこそ春になつても苦しうない事ぢや。只急いで参らう。が、この様な事は、えて例になりたがるものぢや。例になつては迷惑な。立ち戻つて、思ひ出さるゝ様に申して見ようと存ずる。
いや。申し。ござりまするか。ござるか。
▲貸手「誰ぢや。
▲シテ「私でござる。
▲貸手「和御料はまだ行かぬか。
▲シテ「かう参りまするが、はつたと忘れた事がござるによつて、又立ち戻りましてござる。
▲貸手「それは又、いかやうな事でおりやる。
▲シテ「おごう様へ乳母が方から御言伝がござりました。
▲貸手「何と云うておこいた。
▲シテ「うばが申しまするは、近いお正月でこそござれ。あなたには、さぞ結構なお小袖が数々出来ませうが、乳母らは着よう物も持ちませねば、寒うてこそ居りますれ、と申し越しましてござる。
▲貸手「やれやれ。それはようこそ言伝を云うておこいたれ。いや。それについて、いつもおごうが方から乳母が方へ着古しを遣るが、それは行ておりやるか。
▲シテ「はあ。これも未だ参りませぬが、これこそ春になつても苦しうござらぬ。
▲貸手「いやいや。遣り付けた物を遣らねば気掛かりな。問うてやらう。それに待たしめ。
▲シテ「畏つてござる。
まづ、ざつと済んだ。
▲貸手「なうなう。おごうが云ふは、乳母に、ようこそ言伝を云うておこしたれ。これは又、着古いたれどもおます程に、これを着て、春はめでたう礼におりやれと、良い様に云うてくれいと云ふわ。
▲シテ「扨も扨も、これは結構なお小袖を下されて、乳母が見ましたならば、さぞ悦ぶでござらう。
▲貸手「それは満足する。
▲シテ「扨、これは何と致いて持つて参りませうぞ。
▲貸手「されば、何として行たならば良からうぞ。
▲シテ「かやうに致いては何とでござる。
▲貸手「それでは進上物を見る様な。
▲シテ「はあ。それならば、これでは何とでござる。
▲貸手「それでは又、売り物を見る様な。
▲シテ「何ぢや。売り物を見る様な。
▲貸手「中々。
▲シテ「とかく、後ろの俵に釣り合はぬ品でござるによつて、何とも持ちにくうござる。
▲貸手「誠に、俵に釣り合はぬ物ぢやによつて、持ちにくからう。いや。良い事を思ひ出いた。その小袖をこれへおこさしめ。
▲シテ「心得ました。
▲貸手「まづ下におりやれ。
▲シテ「畏つてござる。
▲貸手「さあさあ。これへ手を通さしめ。
▲シテ「誠に、これでは後ろの俵も見えいで良うござる。
▲貸手「俵が見えいで良うおりやる。
▲シテ「何と良うござるか。
▲貸手「一段と良い。立たしめ。
▲シテ「畏つてござる。やつとな。はあ。これで持ち良うなりました。とてもの事に、篤と見て下されい。
▲貸手「心得た。前から見ても、後ろから見ても、その儘人を負うた様な。
▲シテ「何ぢや。人を負うた様な。
▲貸手「中々。
▲シテ「もはや時分柄でござるによつて、人が咎めませうが、咎めたならば、何と申しませうぞ。
▲貸手「それは、良い云ひ様がおりやる。
▲シテ「何と申しまする。
▲貸手「俵藤太殿のお娘子、米市ご料人のお里通ひぢやと仰しやれ。
▲シテ「これは、下心が面白うござる。その儀ならば、かう参りませう。
▲貸手「もはやおりやるか。
▲シテ「春は夫婦連れで、早々お礼に参りませう。
▲貸手「めでたう待つぞ。
▲シテ「さらばさらば。
▲貸手「ようおりやつた。
▲シテ「はあ。
なうなう。嬉しや嬉しや。まんまとお小袖をも貰うてござる。まづ急いで罷り帰らう。定めて女共が、今か今かと待ち兼ねて居るでござらう。戻つてこれを見せたならば、殊ない悦びであらう。はゝあ。もはやいづれも若い衆の、歳暮の礼に出らるゝと見えて、大勢あれへ見ゆる。扨も扨も、賑やかな事かな。
《シテ、廻り掛かると、立衆出で、橋掛かりにて名乗り、舞台へ入る。立頭ばかり入りて、立衆は一の松に居る》
▲立頭「申し。いづれもござりまするか。
▲立衆「これに居りまする。
▲立頭「さらば、歳暮の礼に参りませう。
▲立一「それが。
▲立衆「良うござらう。
▲立頭「さあさあ。ござれござれ。
▲立衆「参る参る。
▲立頭「今日は天気も良うて、何と良い年の暮れではござらぬか。
▲立一「誠に良い歳暮でござる。
▲立頭「いや。あれへ何者やら、人を負うて参る。
▲立一「誠に、人を負うて参りまする。
▲立頭「問うて見ませう。
▲立一「それが。
▲立衆「良うござらう。
▲立頭「いや。なうなう。しゝ申し。
▲シテ「やあやあ。こちの事でござるか。何事でござるぞ。
▲立頭「いかにもそなたの事ぢや。近頃聊爾な申し事なれども、その負ひまして居るお方のお名が承りたい。
▲シテ「はあ。この負ひまして居るお方の。
▲立頭「中々。
▲シテ「《笑うて》さればこそ尋ぬる。
いや。なうなう。
▲立頭「やあやあ。
▲シテ「この負ひまして居るお方は、おゝ。さるお方よ。《又、笑ふ》
▲立頭「これはいかな事。その様に人に物を思はする様な事を仰しやる。何とぞ云うて聞かさしめ。
▲シテ「真実聞きたいか。
▲立頭「中々。
▲シテ「それならば云うて聞かさうが、必ず沙汰なしでおりやるぞや。
▲立頭「心得た。
▲シテ「この負ひましたお方は、俵藤太殿のお娘子、米市ご料人のお里通ひぢや。
▲立頭「何ぢや。米市御料人のお里通ひぢや。
▲シテ「中々。
▲立頭「それならば、ちとお待ちやれ。
▲シテ「いや。用はあるまいがの。
▲立頭「いや。ちとお待ちやれ。
▲シテ「心得た。
さればこそ、不審に思ふさうな。
▲立頭「いや。申し申し。
▲立一「何事でござる。
▲立頭「承つてござれば、俵藤太殿のお娘子、米市御料人のお里通ひぢやと申しまする。
▲立一「何と仰せらるゝ。米市御料人のお里通ひぢやと申しまするか。
▲立頭「中々。左様でござる。それについて、米市御料人は承り及うだ美人でござるによつて、何と、お盃を戴かうではござらぬか。
▲立一「誠に、これは一段と。
▲立衆「良うござらう。
▲立頭「それならば、問うて見ませう。
▲立一「早う問うて見させられい。
▲立頭「心得ました。
いや。なうなう。おりやるか。
▲シテ「何事でおりやる。
▲立頭「近頃粗忽な申し事ぢやが、お見やる通り、あれに大勢若い衆が居らるゝが、米市御料人は承り及うだ美人ぢやによつて、何とぞお盃が戴きたいと云はるゝ程に、和御料の心得を以て、戴かせてくれさしめ。
▲シテ「用と仰しやるは、その事でおりやるか。
▲立頭「中々。
▲シテ「いや。なう。そなたも、むさとした事を仰しやる。よう思うてもお見やれ。あの米市御料人のお盃が、何とこの様な辻山道でなるものでおりやるぞ。
▲立頭「近頃尤ぢや。さりながら、御料人にかやうに御出会ひ申すといふは、幸ひな事ぢや。何とぞゝなた取り持つて、お盃を戴かせてくれさしめ。
▲シテ「いやいや。何程に仰しやつても、ならぬ事ぢや。
▲立頭「すれば、どうあつてもならぬか。
▲シテ「中々。ならぬ事ぢや。
▲立頭「それならば、良うおりやる。
▲シテ「とは云ふものゝ、これは身共が心得ぢや。又、御料人の思し召しも何とあらうも知れぬ。この由、伺うてやらう。
▲立頭「これは一段と良からう。何とぞなる様に伺うてくれさしめ。
▲シテ「さりながら、御料人はつゝと物恥づかしがりをなさるゝによつて、伺ふ間はつゝとあちへ行てくれさしめ。
▲立頭「何が扨、心得た。なる様に頼むぞ。
▲シテ「心得た、心得た。
《この言葉の内、立衆も少しづゝ言葉あり》
▲立一「申し申し。何と、なりまするか。
▲立頭「その通り申してござれば、伺うてやらうと申しまする。見させられい。早おろしまして、何やら伺ふ体でござる。
▲立一「誠にその通りでござる。
▲立頭「何とぞなれば、良うござるが。
▲シテ「申し申し。まづこれへ下りさせられい。さぞ御窮屈にござりませう。はあ。扨、申し上げまする。あれに大勢若い者が居りまするが、こなたの事を承り及うで、何とぞお盃が戴きたいと申しまするが、お盃をなされませうか。や。何と仰せらるゝ。はあはあはあ。これは近頃御尤でござる。その通り申しませう。
なうなう。おりやれ、おりやれ。
▲立頭「何と。
▲立皆「なるかなるか。
▲シテ「大勢はならぬ。ひとりおりやれ、おりやれ。
▲立頭「一人参れと申しまする。私が行て参りませう。
何と、なるかなるか。
▲シテ「伺うたれば。
▲立頭「伺うたれば。
▲シテ「ならぬと。
▲立頭「何ぢや。ならぬ。
▲シテ「中々。
▲立頭「いや。なう。最前はなる様に云うて、大勢の足を止めて、今更ならぬと云ふ事があるものか。
▲シテ「さればその事ぢや。身共も、お盃をさせたう思うて、色々と申し上げたれば、御料人の仰せらるゝは、扨々、そちはむさとした者ぢや。たとへ、いづれもの何と仰せられうと儘よ。汝を連るゝは何のためぢや。この様な時のためではないか。それに、そのつれなむさとした事を云はゞ、宿へ戻つてとゝ様かゝ様へ云ひ告げて、只置く事ではないと仰せられて、おむづかる程に、これはふつゝりと思ひ止まらしめ。
▲立一「やいやいやい。そこな奴。
▲シテ「やあ。
▲立一「やあとは。おのれ憎い奴の。初めはなる様に云うたによつて、大勢これに待つて居つたに、今更ならぬと云ふ事があるものか。
▲シテ「やあら。和御料は、見れば年かさな人ぢやが{*2}、無体な事を仰しやる。某が何程に思うても、御料人の今の通り仰せらるゝものを、身共とて何とするものぢや。
▲立頭「いづれも大勢今まで待つて居て、只は戻られぬ。この上は、踏ん込んでお盃を戴くが、何とする。
▲シテ「何ぢや。踏ん込んでお盃を戴く。
▲立頭「中々。
▲シテ「いや。云はせて置けば、嵩高な事を仰しやる。そのつれな事を云はゞ、この上はたとへ、御料人のお盃をなされうと仰せられうと儘よ。某が支へて戴かすまいが、何とする。
▲立頭「おのれ。そのつれな事を云うたならば、ために悪からうぞよ。
▲シテ「ために悪からうと云うて、何とする。
▲立頭「目に物を見せう。
▲シテ「それは誰が。
▲立頭「いづれも。
▲立皆「大勢が。
▲シテ「いづれもは大勢、身共はいち人ぢやと思うて、侮つて仰しやるか。某も、俵藤太殿のみ内では、一騎当千と呼ばれた者ぢや。いづれも大勢なりとも、恐らく怖づる身共ではおりないぞ。
▲立頭「ていとさう云ふか。
▲シテ「おんでもない事。
▲立頭「悔やまうぞよ。
▲シテ「何の悔やまう。
▲立頭「たつた今、目に物を見せう。
いづれも、これへ寄らせられい。
▲立衆「心得ました。
▲シテ「いや。申し申し。私がこれに居りまするによつて、少しもお気遣ひな事はござらぬ。
▲立皆「ゑいとう、ゑいとう、ゑいとう。
▲シテ「いや。さればこそ、押し寄せて参る。追ひ散らいてやりませう。
▲皆々「ゑいやあ、ゑいやあ、ゑいやあ、ゑいやあ。
▲シテ「ゑいゑい。おう。《笑うて》
いや。申し申し。扨々、弱い奴でござる。私の威勢に恐れて、皆、ばらばらばらと逃げ散りましてござる。今度参つたならば、この棒をかう持つて、胸板をほうど突き、たぢたぢたぢとする処を、おつ取り直いてもろすねを、打つて打つて打ち萎やいてやりませう。そつとも怖ぢさせらるゝ事はござらぬ。
▲立頭「扨々、思ひの外強い奴でござる。
▲立一{*3}「左様でござる。
▲立頭「扨、私の存ずるは、この度は又、押し寄せて参つて、良い時分にそつと外いて、御料人を奪ひ取つて参りませう。
▲立一「これは一段と。
▲立衆「良うござらう。
▲立頭「さらば、押し寄せませう。
▲立皆「ゑいとう、ゑいとう、ゑいとう。
▲シテ「又、押し寄せて参る。追ひ散らいてやりませう。
▲皆々「ゑいやあ、ゑいやあ、ゑいやあ。
▲シテ「ゑいゑい。おう。
▲立頭「あゝ。申し申し。誑されました。これは俵でござる、俵でござる。
▲立一「これはいかな事。皆、たらされた。さらば、急いで参りませう。
▲立頭「こちへござれ、ござれ。
▲シテ「やいやいやい。お盃を戴かぬかいやい。
▲立頭「俵とは。
▲皆々「嫌ぢや、嫌ぢや。
▲シテ「さうもおりやるまい。これは、某が大切な年取り物ぢやいやい。
《と云うて、俵を抱へて、伸び上がりて留めるなり》

校訂者注
 1:底本は、「これでは」。
 2:底本は、「人ぢや。」。『狂言全集』(1903)に従い補った。
 3:底本は、「▲立衆「」。

底本『能狂言 中』(笹野堅校 1943刊 国立国会図書館D.C.

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