驚くは三十七度
物は仕入れによつて何事も。
近年関東の方に、友呼び雁といふものを拵へ、広野に放ち飼ひして置きしに、空行く鳥を呼びおろし、様々懐けて、後は殺生人の宿に連れて来て、骨をも折らず捕らへさす事あり。諸鳥までも、かく奥筋はすすどし。
ここに、常陸の国鹿島の片里に目玉の林内といふ者、世を渡るわざも多きに、冬の夜の嵐をも厭はず、辺りの若者を語らひ、明け暮れ鳥の命をとる事、限りもなし。連れ添ふ女房は優しくも、「この事止まれ。」と異見する事度々なれども、やめず。
これを悲しく、一人寝られぬままに世の無常を観ずる{*}時、寝させ置きたる二人の子ども、うつつに声を上げてびくびく身の動く事、三十七度なり。次第に恐ろしくなつて、男を待ちかねるに、夜更けて門を叩き、「やれ、今宵は仕合はせ。」と言ふ。
女、涙を流し、「幾程、浮世にあるべきぞ。報いの程を知り給へ。今夜の鳥の数、三十七羽あるべし。中鳥八羽、大鳥三羽。」と申す。籠を開けて見るに、絞め鳥、数違はねば、林内、横手を打つ。宵より子どもが驚く有様を語れば、身震ひして、これよりよろづの道具を塚に築き、色々供養なし、今に鳥塚とて残れり。
校訂者注
1:底本は、「ぐはんずる」。『新釈日本文学叢書 第十巻』(日本文学叢書刊行会 1929)に従い改めた。
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