仕懸け物は水になす桂川

 昔、都の町静かにして、珍しき取り沙汰絶えて、何がなと聞き耳立つる折節、五月雨の濁り水に、桂川の瀬々を、不思議なる物の流れ来れり。新しき長櫃に錠をおろして、その上に白幣をさして置きぬ。
 里人の何がし、これを見付けて、各々呼びに来りて、これは何とも合点しかねて、「とかくこのままには置かれじ。まづ神職の物と見ゆれば、吉田、萩原の御家へ尋ね見む。」と言ふ。「近道に御前へ。」と内談極めて、持参致し、事がましく仔細を籠めて申し上ぐる。
 時に仰せ出だされしは、「まづ錠前を開け」させて、御覧なされけるに、年久しき髑髏五つ、女の黒髪入り乱れし。いづれも驚き、「これはいかなる事ぞ。」といよいよ不思議の顔つき{*1}せし時、何の御詮議も無く、「この長櫃は、そもそも一人して見付けし事か、又は大勢して見し事か。」と御尋ねあそばされし時、「これに罷りあり候何がし、一人して見付け候」段、申し上ぐる。
 「おのれ、無用の物を見つけ、その一里の者どもに難儀を懸けたる過怠に、これよりすぐに四條川原に行きて、今度桂川を流れし長持の噂を、浄瑠璃、狂言に取り組み仕る事、堅く曲事の由、芝居中へきつと触れ渡すべし。」と仰せ付けられ、仔細なく相済みけるとなり。
 これは、役者ども、狂言の種に拵へ、桂川に流しけるが、かの里人頼まれしを、早く御気をつけさせられ、外へさはらぬ御仕置。長持は、野寺へ上げ、いかなる昔の知れぬ髑髏、思ひも寄らぬ御弔ひ請けけるとなり{*2}。

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校訂者注
 1:底本は、「顔色(かほいろ)」。『本朝桜陰比事』(1993)に従い改めた。
 2:底本は、「請(う)けゝる、」。『西鶴全集 第二』(1926)に従い改めた。