両方寄らねば埒の明かぬ蔵
昔、都の町に、目貫、小柄の買ひ問屋あり。難波の里より縁組して、この妻、十一年馴染み、男子一人、七歳になる時、この父親、相果てしが、その節、女房も後家立つる心底を聞き定めて、財宝残らず親子に書き置きして、「息子十八に成るまでは、店は手代に預け、毎年の勘定は、父方母方の親類中立ち合ひ。」と懇ろに頼み置きぬ。
商売仕込みの他に金子五千両ありしを、父方の親類よりは、「この子、十八に成るまでは、預かり置くべし。」と言ふ。又、母方の親類より、「この方へ。」と申して、互に疑ひ、この論、下にて済み難く、両方御前に罷り出で、右の段々言上申せば、両方申す所、尤も至極に聞こし召し分けさせられ、さて仰せ出だされしは、「その金子の儀、親類、町中吟味致し、相違無きに於いては、念を入れ内蔵に納め置き、板戸の錠前に父方の一門として封印を付け、又、土戸の封印は母方の一門として付け置き、板戸の鍵は母方に預かり、土戸の鍵は父方に預かり、一子十八に罷り成る時、これを相渡すべし。用心の儀は手代に預け置くべし。」と、両方疑ひなき仰せ渡され、有り難し。この内蔵、両方立ち合はずしては戸前の開かざる事を、深く感じけるとなり。
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