14 馬揃
(大頭左兵衛本)
頼朝の御前に盛長をめされ。いかに盛長承れ。此間の事どもは。夢うつつの吉事。文学のうらのさす所。果報の花のつぼみきて。匂ひかつがうの風情なり。めいむうら方とも。既漸時をうくる。いそひて廻文をまはしてみむとの御諚也。盛長承つて。状をかいて参らせければ。頼朝御判をすへさせ給ふ。盛長御判を給はつて。先誰々と申すとも。三浦の大助は。栄報目出度人なれば。いそき三浦の舘につき。君の御判とさしあけけれは。三浦の大助吉明は。年つもつて百六になられしが。君の御判と承り。をしかふり烏帽子にて。直垂のひほつがひ。孫ちやくしに和田の吉盛。大とうの彦太郎をひそかにめされ。いかに孫とも子とも承れ。先祖の君の御判をおかみ申せ。いのりにも名聞にも。又は後生のうつたへにも。何事か是にまさりなむ。されはしむほうけむの翁は。うむなんのるすゐをのかれむとて。大石によせてひちをおる。太公望はうき木にのり。いひむのなみに鉤をたるゝ。瓢覃しばしばむなし。草顔淵かちまたにしけし。藜藋ふかくとさす。雨原憲かとほそをうるほすかことくなり。されば屈原は。世のうき事を厭ひつゝ。くさの庵りに身をかくし。むかしを忍ひて老にけり。吉明も人ならは。山にもこもるへけれとも。今のうれしさを。此老が身につもる雪。わがみひとつにとりなしてよるへもしらぬ沖のなみ。浦嶋が。たまてはこ明てぞいとゝくやしき。か程目出度主君の御判をおかみ申事。一眼の亀のたまさかにふほくにあへることし。とうとう領状申へし。孫や子とも承つて三浦三百五十三騎と長帳に判をすへて君にたのまれ奉る。それより盛長は海のわたりを仕り。ちはの舘につき君の御判とさし上ければ。折節ちばの助他行の時分大助出あひ対面して。抑とうごくにおひて。ちばの助かづさの助と申て父母のごとし。一方闕てもあしかりなむ。かづさへ御こし候てかへりさまに旨趣を申へき。これは礼にて候とて。かうたる馬に鞍をゝき。鎧甲を引にけり。盛長は見るよりも引手物はむやくかな。請状の判はほしけれと。重而申あしかりなむと暇をこうてかへりけり。去間盛長さきをきつと見てあれば。折節ちばのすけ若党四五騎に先陣うたせ。さめいてうつてちかついたり。盛長きつと見て。馬の上にて対面は恐にて候へとも。君よりの御使なれば。まつひら御免あれといふまゝに。ちばが馬に駒うちそへて。荒増の事をそかたりける。常種聞て。さて親にて候大助は。何とか御返事を申され候やらん承たく候。大助の仰には。かづさのすけがまいらばちばの助もまいらんとの仰にて候。あらそれは恐人たる御返事を申され申され候物哉。たといかつさのすけがまいらずとも。御味方を申たくは一騎なりとも御味方にまいり。まつさきかけて打死して。名を後代に上べきみが。いていて領状申さむとて。駒よりしもにとむており。すみすりなかしふてに染。元来もちばのすけ。少分限にて候へば。手勢多も候はず。七百余騎にてまいらんと長判に判をすへて君にたのまれ奉る。それよりも盛長は。いほういなむてうぼくちやうなむあびろかはかみ宇佐山野辺。かなたこなたをふれにけり。たのまれ申国は十三ヶ国。大名は七拾余人。小名はかすをしらず。われもわれもと判をすへて君にたのまれ奉る。去間盛長は。国々の御請の判をとりもちて。百廿日と申になごやの御所に参り。君の御目にかけ申。かの盛長を見きく人ほめぬ人こそなかりけれ。去間頼朝。伊豆のお山に御陣をめされ。つゞく味方をまたせ給ふ。われもわれもと参られけるを。着到つけてみ給へば。頼朝の御勢は。以上三百五拾三騎としるさるゝ。頼朝御覧して。これは佐か祝言のはしめなれば。面々のめされたる馬ともを。一目見むとの御諚なり。まつ一番に近江源氏の大将に。佐々木の四郎忠綱の。よつしろに白鞍をかせ。六人の舎人にひかせ御前をとをされたり。所々に四目結のかたついて。やさしき名馬の紋かなとどつとほめてとをされたり。其次を見てあれば。といの小黒に白鞍をかせ白ざほさゝせ。六人のとねりにひかせ御前をとをされけり。面白の馬の風情や。此馬と申は。また。牧出の駒にて。いさみにいさむで。前の足をつむとあげ。うしろの足をひつしき。かしらをふつてめを見出し。おとりいてゝ嘶ふ。これもおとらぬ名馬かなとどつとほめてとをされたり。其次をみてあれは。さても御しうとに北條の四郎時政の。さゞなみあしけといふ馬に。白鞍をかせ白ざほさゝせ。六人の舎人にひかせ。御前をとをされたり。面白の。馬の風情や此馬と申は。骨はふとうて筋多し。左右の面顔しゝもなく。耳はみぢかくちいさくて。うはくびなかくあつうして下くひつつて短し。胸は出てはたはりあり。尾口ちいさく分入て。尾は三重のたきのおつるかことくなり。左右のもゝはからのひわ。てむじゆとはむじゆとはらりともいて。二面さかさまにたてゝ見るがことく也。おつさま三づにしゝあまり。よめのつきざまつまねのほねくろがねをのへたることく也。爪はあつうてつゝたかし。千里をうつともつかるまし。前より見れば秋の鹿遠山をとむたることく也。そはよりみれはにはとりか。大庭におこりいて。時をうたふかことく也。まはりて見れば龍が雲を引つれ。虎が風に毛をふるひ。ざうの牙をかみならし。獅子かはぎみをしたりしも。これにはいかでまさるべき。あつはれ馬のいきおひかなととつとほめてとをされたり。是を始と仕つて。さはらの十郎がいかづちあしげ。かのゝすけがかなつちあしげ田代の官者がびぢよ栗毛。祐経か奥州栗毛。沼田の平内かとひ雀。南條か小鷹かはらげ。古堀か帆かけふね三嶋の源三田か獅子の子に。左右藤太が岩くたき。土屋の三郎虎月毛。さて岡崎かみやまかげ大ぬさの四郎がくろかすけ。惣而名馬の色々は。あしかふち。くろかけ。鶴ふちかけふちあいさうふち。柑子栗毛姫栗毛。われもわれもとひかれてあり。以上三百廿五騎はいつれもおとらぬ名馬哉とどつとほめてとをされたり。去程に頼朝。治承四年八月。廿三日に。兵具揃馬揃めされて。いつも久しき。まなつるか。嶽にうちあがつて。御陣をめされしに御世をめされんそのために。手勢七騎を。引わかつて。といのやどゝか浦より。御船にめされ安房の。れうじまを心がけ。沖中にしら旗を。ほのほのとさし上給へは。三浦横山丹児玉。此よしを見申あは君の沖に御座有は。いざやさらばまいらんと。百騎二百騎。千騎二千騎。打つれ打つれ参るほどに。むさしの国とかや。こうのろくしよの。くむはいの。宮の前にて。着到付て見給へば。頼朝の御勢は。二十八万。一千余騎に。程なくならせ給ひて。一天四海に光をはなつ平家を。三年三月にせめなひけ天下をおさめ給ふ事八幡大𦬇の。御ちかひとそ聞えける。
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