しつか
(大頭左兵衛本)
梶原平蔵景時鎌倉をたつて都につく。判官殿のおもひ人。しづかごせむの御ゆくゑを尋給へどゆき方なし。辻々にふだをたて其つうげをまつる。九重の内にも。あはれしづかゝのがれよかし。たとひくむこうあるべくと。たれやの者か参り六原にてかくと申べきと。上下泪をもよほしてあはれととはぬ人ぞなき。かゝりける所に。はゝのぜむじめしつかひしあこやと申女。ある札をようて見るに。判官殿のおもひ人いそのぜむじがむすめ。しづかごぜむの御ゆくゑを。六原に参り申たらんする輩に。上らふならは官をなし。下ならばいとのしやう。くむこうはこうによつてけじやうのそみたるへし。景時判とかきとめたり。あこやさうなく此ふだを懐中し。六原さしていそく。すでに梶原は。しづかごせむをたづねかね。関東下向とて馬引よせのらむとす。あこややがてはしりより。人目をはばかり此札を景時がたもとに落入。梶原やがて心得。此女房をさき馬に取のせ六原を出る。女たつなを引むけ大和おほちにさしかゝり。一二の橋うち渡り。法性寺をば行過。伏見とふかくさとのさかいなる。浄土寺へのり入てこゝぞといふて。馬をとむ。梶原馬にのりなから大音あげて申。いそのぜむしのむすめ。しづか御前の此寺に。ましますよしを承り。関東の梶原か御むかひに参て候。はやはや御出候へと大音あけて申。しづかもはゝも諸友に。夢にも人のしらじと。ふかくたのみをかけつるに。たれやのものかまいり六原にてかくと申つらん。うらめしさよとかきくどき。すたれのまより見出せは。年比めしつかひしあこやと申女。さき馬にのりて来りたり。さてははや此女が。注進によりにけり。とむよくまうねむは。情をもふり捨てはちをもさらにかへり見ず。あこやがしるへをするうへは。なにとおもふとかなふまし。いかゞはせむとかきくどきなくより外の事はなし。母のぜむじたち出簾まきあけ梶原に見えければ。まづあまさじととらむとす。ぜむじなみたをとゝめなふしつか御前はきのふまで。此寺にさふらひしが。みやこの人めをつゝみかね大和の方を心がけ。さよふけがたに出つるが。おとこをつれぬ夜道にてうぢのかたにやまよふらん。おいてをかけさせ給へと一たむ偽たりければ。梶原きひてまづ寺中をさがし申けになくは。おひてをかけ申べし。ひがしはあぐるつがるのはて。西はろかいのとゝかんほと。あめが下の其内にさがさぬ所あるまじ。たれかあるまいり寺中をさかし申せやあ兵者ともとけぢすれば。しつか此よしきくよりも。なふそれまてもさふらはす。みづからはこれにさふらふそや。しばらく暇たひ給へ。此程なじみ申びくにたちにおいとま申。やかてまかり出へし。乗物用意し給へ梶原殿。梶原聞て腹をたて。さらばとくにも此みちを。かくとはおほせもなくして。そのあひたは門前に待こそ申候らはめやあ。こなたへしされつはものと。門よりとに引出す。あしろのこしのふりたるにりきしやばかりを。相そへて門より内へ入にけり。あらいたはしやしつかこせむ。此程なじみ申びくにたちにお暇申。なくなくいてむとしたりしを。母のせむしこれを見て。しはらくなふしつかごぜむ。いとゞだに女は。五しやう三しうにゑらはれ。つみのふかいと承る。よしつねのくさのたねやとして露のきえもやらす。たらちねのすの中まて。さがせといふ事あらは。めいとにおもむく人そかし。かたきの手にわたらぬまにかみそり衣ぬきかへ。かいたもつてめいどの道をしへられさせ給へ。けにけにこれもいはれたりと。あたりにたつときおひじりをしやうし。かみおろしてとありしかば。公方のおとがめいかゝせむと。人を出して梶原に出家の暇をこひければ。梶原きいて。これも関東よりの御使。わたくしにてはかなひ候まじ。先御ぐしをつけなから下向あれ。よきやうに申なし。御出家の御暇を参らせむと申。げにげに是もいはれたりとて。かみをはいまたつけながら。かみそりはかりひたいにあて。かいきやうのもむをとなへて。五かいをさづけ給ひけり。抑五かいと申は。せつたういむまうごおむしゆ。このみなもとをたつぬるに。りやうへむたしやうの。かゝのながれをくむて。がむじむの法をつたへたり。天平せうほう六年にならの都にかいだむをたて。しやうむくわうてい初てじゆかいし給ふ。又てむだいのかいだんは。こうにむ五年にきむざすのたてさせ給ふ。上下万民をしなへて。誠の道に入人の誰かはかいをうけざらん。抑第一に。せつしやうかいと申は物のいのちをころさぬなり。そのいわれをあむずるに。むかしげむじやう三ざうの。しやうげうをわたさむためにりうさをわたりそうれいのみねをこえさせ給ふ時。六ぞくわうきたつてしやうげうをうばひとる。見る人これをとふらひしに。三ざうののたまはくおろかなり。たとひしやうげうをばとらるゝとも。いのちといふおもき宝をとられねば。何をかさしてなげかむとうれへたるいろもましまさす。此世一世のみならす。生々世々のいのちはおもきたからなるへし。このいはれをしらずして。或はとむにたえす。したしきをうしなひ。うときをほろぼすはぐちのいたせる所也。今は人をころすとも。因果はみにつもるへし一世にものをころして。一生までころさるゝ。くわぎうのつのゝ上にして何をかあらそはむ。石火のひかり。水のあは。たゞまぼろしの世の中に一たむのとむに。ふけつてせつしやうをするそはかなき。抑第二にちうたうかいと申はたのたからをおかさぬ也。今もひむくにあるものは。さきの代に人の物をぬすみしとおもふへし。とうばうさくがみたびまてせむのもゝをぬすみ。せむきうにこめられしも。さこそはくやしかりつらん。遠山鳥の花の色。かすみにこめて見えねども。にほひをぬすむ。春のかせ。おなし其名はたちなから。とかにはおちしとそおもふ。おさへてあやめらるゝこそ。三かうの。ふかき。よになくほとゝぎす。音をぬすみ。めいとのとりとなりにけり。あらあさましや。かりにもちうたうを。おかす事なかれ。抑第三にじやゐむかいと申は。わがいもならぬ女に言葉をもかけず。わがせなゝらぬおつとのことばをもかゝらす。しつとのつみはたしやうまてきちくしやうに生るゝなり。むらかみのあいしの女院は。せいりやうてむのくわうくうに。ねたまれさせ給ひ。深淵のちやとなつて。むそちのながきあきの夜もくらき。やみちにまよへり。しやうやうじんといつし人はやうきひにねたまれ。しゆじやくゐむのおにとなる。おそれてもあまりありじやゐむかいをたもつへし。抑第四にまうこかいと申はそらことをいましめり。偽おほき言葉には其とがおほきもの也。されば北野の天神の。かむせうじやうにておはせし時。しへいのおとゝに。さむせられ。心つくしへなかされて。ゑのき寺にてうせ給ふ。そのとがにおとゞはならくにしづみ。給へば。かむせうじやうは。まさしくも今の。北野の神となる。まうせうくむがいたつらに。鳥のそらねに関をあけて。かたきにうたれ給ひけり。猶いましめの。ふかき事はまうごまかいにとゞめたり。抑第五に。おむじゆかいと申は。さけにゑひてひれ。ふしうりかふ事をいましめりぎくわとうによと。いつし人は五百生の間。くちの闇にまよひしもしゆくしゆはかいなるがゆへ。あるいはじゆぶうぜむの。いましめとかうし。又は三十六の。とがありときらへりかゝる。いましめふかき酒を。何とて。てんだい山に。ゆるすそと尋るにむかしてむたい山に。おむじゆをことにいましめ。酒をきらひ給ひしに。九條のせうじやう。御登山のありし時。きやうわうの余に。はしめて酒をゆるす事かむをふせかむためなり。たいれいのゆうかんになを此酒をゆるせり。ましてくわていのゆうゑいにたれかは酒をのまざらん。樽の前には。ゑひをすゝめ。きよく水にさかつきをうかへ。しうのちやうやを見わたせは山も紅葉にゑふとかや酒をあいする人をば。ふくしゆとこれをなづけ。のむ事をゆるし。うりかふ事をいましめりそれはいはれぬ所。仏をはじめたてまつつてあなむかせうしゆぼたい。いづれかさけをこのみ。よろぼひありき給ひし。ゑひては心みたれつつ。をのづからしたをたちまちせつかいすなをいましめのふかきは。おむじゆかいにてとゝめたりかゝる五かいをまたふして。ひとつもやふる事なくは。てむりむわうと。生へし。むかしゑしむのそうつわうの御幸をかならずおかみ給ふ。僧都のおばあむやうのあまふしむをなしてとひ給ふ。何とて僧都は。仏のやうにわうをおがませたまふぞ。僧都こたへていはく。わうのたつときにあらず。前の世によくかいをたもち今国王と生れ給ふ。そのしゆくぜむのちからのたつとさにさておがむよと仰けり。いかにもわれらさきのよに。かいぎやうなきかゆへに。心もぐちにさとりなし。いま此さつけ申かいぎやうによつて。しむげうの衣の上に。かいほつとつゝみ捨されよ。当来にてはかならず。じゆかいのしゆゐむあさからず。むじやうとくだつなり給ひかへつてわれをみちひくへし。ねざめにわすれ給ふなとときをしへ申其日すてに入あひのかねつくつくとちやうもむす。梶原待かねておそしといひてせめければ。ひじりなみだをなかし。ゑかふのかねうちならし。とうみやうをけし庵室にいらせ給へば。しつかはものゝふの手にわたる。ともしひくらふしてはすかふくしがなむた。夜ふけぬれは。しめむそかの声とは。ぐしがわかれをかなしみて。作給ひし詩にてあり。それはいこくの物語。これはしづかゞみのなげき。かむとわてうは。かはるともおもひのいろはひとつなり。かみはぎよくろうきむでむ。下はしつがふせやまて。しづかをおしまぬ人ぞなき。みめといひのうといひ。心のなさけのみちといひ。たぐひもやわかあるへきと人々のなけき。しうたむは四方にも。あまるばかりなり。かゝるあはれをもよほす所に爰ににくき事こそ候ひけれ。あこやと申女。梶原にそせうするやうは。わすれさせたまはぬさきに。御約束のほうろくをみづからにたへと申。梶原きいて腹をたて。何と申ぞあの女。しづかごぜむの関東下向とて。上下万民をしなへてあはれをもよほす所に。申さむやなむぢは。きのふがけふにいたるまて御内にありしものぞかし。わかれをばかなしまてほうろくのこひやうこそ心へられね。あまりにものをしらぬ女にいむぐわれきせむのたうりをかたつてきかすへし。それにてよくちやうもむせよ。よひには。ろう月をもてあそふといへと。あかつきはべつりの雲にかくれぬ。心はこくうじやうぢうにしてかたちはかりはかりの宿。みゝはとせいのみゝ。目はじやうはりのかゞみ。したはわざはいのね。くちはわざはいの門。した三寸のさえづりをもつて五尺のみをはたす。たれかあるあの女にひきて物をとらせよ。承と申て。さう車にとつてうちのせてわたす所はとことこそ。上は一條やなぎはら。下はから九條。小路小路をわたし。見る物ごとににくませて。のちには此女を。かつら川の。ふかき所をたづねて。ふしづけにしたりけりみやこの上下これを見てものいひしたる女房の。所知をばたまはらて。よみの国の大国を。たまはつたりやと申つゝ見る人きくものをしなへてにくまぬものはなかりけり。かくてしづか御前をこしにのせじやうどうしを出る母のせむしもなくなくかちにてあこがれいづる。しつか此よし見るよりも。母をかちにてあゆませ申其子かこしにのりたればとてやすき心のあるへきか。年寄たるはゝをのせてかけとて。こほれおつる。げにげにこれはだうりとて馬をたて母をのせ。みやこになごりうきおもひ物うき事にあはた口。われをはとめよせき山しなのすさましさに。すぎふる雪の下みちを跡よりもたれか大津のうら。きえばや爰にあはづが原。おもひはなをも瀬田の橋。野路に日くれてしの原やうきふししけきかりの宿の。夜ことにものやおもふらむ。此程は心のやみに。かきくもりかゝみの。山も見もわかず。なはさめかへときくからに。ふかき心はいつみ哉。いとゝなみだの。おほかるに雨山中やとをるらん。あらしこがらしふはの関。月のやとるか袖ぬれてあれ。たる宿の板まより。露もたるゐと。きくからにしぼりかねたるたもと哉。夜はほのぼのとあかさかや。うちこそわたれくむせ川。植しさなへの。いつのまに黒田とはなりてはらむらん。夏はあつたとなるみがた。三川にかけし八橋の。すゑをいづくととをたうみ。恋をするがの。ふじのねの。けふりは空に。よこおれてくゆるおもひはわればかり。いづの三嶋やうらしまが。明てくやしきはこね山。さかみの国に入ぬれはなをうき事を。菊川の宿にもはやくつきにけり。梶原みちよりはや馬をたてしづかごせむをば菊川の宿まてめしくして候。みちのくさばの露霜ともなしもやせむと申。頼朝きこしめてたつぬへき子細あり鎌倉まてめしぐせよ。承つてしづかを大御所さしてかきいるゝ。折節ありあふ大名小名。かゝる時にこそみゝをうたする学門の候へ。しづかはきこふるがくしやうなれば。いざや参てちやうもむせんと。内さふらひとうさふらひに所せきなくなみゐたり。やゝあつて頼朝。御たいめむの其為に。あをかりぎぬたて烏帽子めし。和田ちゝふ左右にして御座になをらせ給ふ。しつかこしよりおりかゞみをもみわかすして。はるかにざしきのあいたるをわかためぞとおもひ。人々のかたをうしろになし。つゝめとこほるゝなみたのいろ。みだれがみをつたひてつらぬくたまのことくなり。頼朝御覧じていそのせむしかむすめしつかとは女房か事か。四国九国のかつせむはめづらしからぬものがたり。頼朝がいせいによつて諸国はをのれとしづまりぬ。代がわがまゝにもならぬには。兵法のじゆつもかなはす。とをくいてうをたづねるに。けいかしむふやうはむゑきかくひをかつて。しくわうていをねらひあはうてむまてのぼるといへど。うむつきぬればうたれぬ。いはむやよしつねけいかしむぶやうはむゑき程はよもあらじ。ましてはむくわひちやうりやうがいきおひにもおとりたる。よしつね一人たゝかひて。天下にみちし平家をかたふくへしともおぼえず。頼朝かいせいのおもき所なるへし。それによしつねこのよをくつがへさむとおもひたつ。よしつねといちみし。あひねむふかくさだめなきちぎりをこむるしづかには。心ゆるすへからす。たとひ女のみなりとも。おむねむのふかきをばがうてきとこれをするなり。なにさまひくてさだめなき遊女のみとありながら。さしも頼朝うらめしきくさのたねをつくときくやあいかにとの御諚也。しつかうとましかほにしてたもとをかほにあてなから。なくなく申ける様は。抑人のちぎりの。定なしとはいひながら。生々世々きうえむの。つきせすくちぬきえむにや。むかし源氏のだいしやうも。きりつぼはゝきゞうつせみの。もぬけの衣きたりし尼にもちきり給ひぬ。若むらさきすゑつむはな。紅葉のが花の縁。あふひ榊はなちるさと。須广やあかしみをづくし。せきやよもぎう絵あはせまつふくかせやうす雲。それのみならすげむしは。六十帖の。物語はかなき。ちきりこれ多し。一じゆのかけ一河の水をくむ事も。他生のきえむとこそきけ。とめる人もいつまてぞ。いつまてくさのいつまてと。霜かれゆくをしらぬぞと。袂をかほに。をしあてゝなくより外の事はなし。頼朝きこしめし大きに腹をたて給ひ。なにと申そしつか。ことは多しと申せともいつまてぐさといひつるは。かべにおふるくさなり。平地にねをさすたにもあきはてぬれは霜がるゝ。ましてやかべにつかのまの。ねをかくるくさなればみなあきはてぬそのさき。さかりのなつにかるれば。いつまてぐさとこれをいふ。さればにやしづか。わがみの上をくわむし。けむじによそへ六十帖所々語つなり。それはともあらばあれいつまてくさといひつるは。頼朝が。事を申也今よに出てあめが下を。わがまゝにするとも。いつまでさかふべきそと。申つる所。それはしつかゞいはずともうゐてむべむのよのならひ明日まてたのむ事やある。しかりとは申せともよにある程はいつまても。久しかるへきためしには。かねては松を植をき。住吉とこそいはふなれ。みやうせむぢしやう中々。うつろひやすき世の中にいはへはかなふ事なるに。それにしづかゞなむぞそも源氏の。物語にいつまでぐさといひかすめ。頼朝がみの上をてうぶくするとおぼえたりかゝるふしやうをきくみゝ。ゑいせむの。ながれあらざればあらふつへしとおほえずと。御ざしきづむとたち板あららかにふみならし内所へ入せ給ひけり。連座ありし人々。一度にざしきはらりとたつ。心ほそくもしづかはたゝ一人ぞのこりける。去間梶原はおもふさまにしおほせ。内々うちわらひ。しづかゞあたりへたちよつて。是はくぼうの御座ちかし。こなたへ御出候へとともなひ出したりけるが。いやいやかゝるめしうとなむどは。時刻うつれは内縁あり。後のわづらひむつかしゝ今夜の内に胎内をさがし。てうてきの御末をからさはやとおもひ。宿をとりてをしこめ。日のくるゝを待る。さすが人のせむどなれは。最後をしらせそのしたくをあらせばやとおもひ。しづかゞあたりヘたちよつて。あらいたはしや。今夜御内より胎内をさかししつけむとの御諚の候。おぼしめさるゝ事のさうは。何事も母御前に仰をかれ候へとそらなきしてかたる。しつかゞ母のぜむしむすめにいたきつきつゝ。抑人のおやのならひにて。あしき子のあまたあるだにも。わかれといへば物うきに。ましてや申さむみつからが。唯一人のしつか御前。みめかたち心さま。上下にならふ人なしと。世にもかくれぬ一人子をさきだてなにと成へきぞ。いかなるてうてきげきしむも。女をころす事はなし。たとひげむかくあらけなき。ゑびすの住家なれともさかりの花を風なふて。きりからしたる事やある。うたてかりける鎌倉の。まつりことゝ。かきくときなくより。ほかの事はなし。よくよく物をあむずるに頼朝よりの御諚ゆめゆめもつてあるまじ。是はたゞざむしんのなせる所なるべし。事もなのめの時にこそ人めもつゝみはつかしけれ。北のたいへ参りしづかゞそせうを申さばやとおもひ。こゝかしこをわけくゞり。然へき人についてしつかゝそせう申上る。折ふし北の御方御機嫌めてたふて。人のおやのならひにて。子をおもふみちはあさからぬぞ。これは時刻うつしてかなふましはや。とくとくとの御諚にてかたしけなくも北のたい奉書を下し給ふ。しづかゝ母のうれしさは何にたとへむ方もなし。鳥ならは一とびに。とむてもつげたけれとも。女のみの。此程のおもひにやせ。おとろへ夢地をはしることくに。唯一所はかりにおとるやうにぞおもひける。去間梶原は。日も入あひの鐘をきゝ。今はとおもひすまし。けいごのもの四五人けしからぬすがたに出たゝせ。しづかゝ宿へこしよせて。はやめされよと申。しづか此よしきくよりも。今をかぎりの事なれば。からあやのふたつきぬ。かけおびまほりかけながら。しゆへむに御経とりそへて。こしの前へそ出られける。われよりもなみたは。たれをさそふてさきたつそや。などやかむろの母御前。都の内を出しより。かくあるベしとはしろしめさすや。最後のみちにおもむくを。御覧せさるぞいたはしき。とてもかなはぬそせうゆへ。けさ御所中へいてられつる。面影。はかりのたちそひて。けさのわかれを。かぎりそとしらて待つるはかなさよ。おやは一世と。きくなれは。めいとて又もあふべきか。それもこうくわひすへからす。夫人間のならひにて。すゝみしむそきとにかくに。物うかるべきうき世かな心にまかせ。ざりけるはしやうじむしやうの世なりけり。かやうにかきくどき最後のこしに乗給ふ。乗かとみればものゝふ共。こしを中にとばせ。ゆいのみぎはにいそぐ。爰にて胎内をさがさむとたちかくす所に。といの二郎真平は鎌倉のけいごにて。暮れば十騎廿騎にて鎌倉内をまはりしが。何とはしらずはまはたに。あやしき人の見えければ。駒うちよせてたそととふ。梶原これにありといふ。何事そやととひければ。しづかゞ胎内を只今さがすなりと申。さねひらきいて。あふそれはよくこそしたゝむれ。去なから此辺は若宮ちかき所にてかなふまじ。これより少引のけ。なこやか入江のさむまいはいしかりなむと存る。あふもつともと同し。又こしよせて打のせてあふなこやか入江そいそぎける。しつか此よし見るよりも。これやめいどのかしやくかぎやくろうのたびもかくやらん。かねて一世と聞たりし。親には生てはなれつゝ。又もあはぬによみかへり。くらきやみぢをまたゆくや。当鎌倉の。けいしむはかの若宮にしくはなし。しかも八幡大𦬇。そうべうの神として。はうじやうゑをなし給ふ。毎年八月一日より一切の有生の。とられてしすべかりしを。あたひをはうじてかひあつめ。同き月の十五日にいはし水のなかれに。はなちてたすけ給ふ也。此ことはりにまかせつゝ。はうじやうゑとは申也。神々ならばきこしめせ。人こそ人をころすとも。和光のかけの。あまねくは。我をたすけてたひ給へ。たとひいのちは露のみの。きえやすきならひにて。なけくしるしのあらすとも。いきてわかれし。母上をまいちと見せてたひ給へ。神は哥にかならず。なうじうましますなれは。こしおれながらはうだいの。ぐゑいをくみて参らせむ。なとされはなにはに捨し浦なみの。しづかもあらき。はまのなはたつ。か様にゑいじ若宮へゑかう申されたりければ。なにとはしらずうしろより。人のよばはる声はかすかにこそは聞えけれ。けいこの者これをきゝ。何事にやととひければ。しづかゝ母のせむじよばはる声にてぞ候ひける。梶原きもをつぶし。奉書や下し給らむに。何ともぜひのなきさきにはからヘやれつはもの。承と申てこしをちうになげおろし。しづかをとつてひき出し。がいせむとせし時。といの次郎ふさがつて。真平かくてありなからもし。奉書や下給ふらむに。あはてて後の大事と。をしとゞめたりけれは梶原いとゝいかつてたゞがいせよと申。ぜむじは奉書これありとよばはりさけびはしれば。しつかは母の。声と聞ておそしともたえこかるゝを物によくよくたとふれば。つみふかきざい人くしやう人のてにわたり。むけん大しやうのそこにおとさるべかりしを。六たうのうけのぢざうの。しやくぢやうを。からりと打ふつてかゝむかむみさんまいとよばはりかけすくひあげ。たすけむとし給ふも。是ほどそありつらん。心なきつはもの刀を捨てなきければさしもにたけきかけときも大声あげてあげてなきにけり。さてこそ奉書。よみあけてしつかも母も諸友に。同こしにとりのり。きらくのゑみをふくめば。しづかは母に。すがりついて。是は夢かといひければ母はむすめにいたきつき夢とないひそうつゝぞ。さもあれあやうかりつる。わごせがけふのいのちとてはらはらとなきにけり。うき時はたうり。なかすなみたはことはりや。うれしき今の。何とてかさのみなみたのこぼるらん。かくてしづかごぜんをばといの次郎にあづけらるゝ。頼朝よりの御諚にはしづかゝ胎内の子男子ならはてうてきにてちからをよぶべからず。女子の体にてあるならば。はゝかたからとなすへしとかねて御下知くたる。しづかもはゝももろともに。都にありし時には。よしつねのわすれがたみにて御座ある間。男子に生れ給へと。いのる心を引替て。女子になれとぞいのられける。されどもかなはぬ憂世のならひ。玉をのべたるごとくなるわかぎみをまうけ給ふ。つゝむにたえぬはつ声の。あたりのさとにかくれなし。梶原やがてきゝつけ源太をつかはし。御さむすでに平安に御座あるよしを承て。男子女子のかたちを見て参れとの御諚にて候。景末まいつて候と大音あけて申。しつかもはゝも諸友に。源太が声ときくからに。あはうらせつの使のゑむまのせめをつぐるかときもたましゐもみにそはず。母のぜむじたち出なふいかに源太殿。女子をまうけてさふらふに。御やくそくのことくみつからにたへと申。景末聞て。何様一目見まいらせやかてかへし申さむといふ。しづかさん所をいて。源太にうちむかひなくより外の。事はなし。七いろの嶋に。八いろのふねをかくすとやらん。申たとへの候そや。ともかくも源太殿殿をこそ。たのみ申さふらはめ。これこれ御覧さふらへとて。たまのやうなる若君を。いたきあけて見する。源太此よし見まいらせ。あらいつくしの若君や候。かゝるゆふなる御わかぎみを。わたくしにてはかなひ候まじ。御所中へ御供申御目にかけ。やかてかへし申さむと。たもとにつゝみふところにをし入。駒引よせてうちのり。ゆいのみぎはにいそぐ。二人は跡をしたひなふせめてなく声今一度きかせてたばせ給へと。よばはりさけびはしれども。馬にはいかでおつつくべ。きあら情なし源太。ゆいのみぎはにて取はづしたる体にてなみうちぎはにておとしけり。いそうつなみ。なく声。はま松をさそふ。風の音。みにしみしみとおもへとも。とりもとどめぬ事なれは。あたりにたをれ。ふしこがれ声を。ならへてなけゝとも。源太はすこしもあはれます。沖よりなみがどふときて。たまのやうなる御すがたを。落花のことくうちくたく其後むちを。しとゝうつて源太家にかへりけり。しづかもはゝも諸友に。ちりたるしがいをとりあつめ。たもとにつゝみかほにあて。なくより外の事はなし。しづかおもひにたえかねて。みをなけむと。せし時に。母のぜんじ。これを見て。たうりなり。ことはりやなにゝいのちのおしからん。われをもつれてゆけやとて。二人手にてをとりくむで。みをなげむとせし時に。折節ありあふ人々がすがり付てそとめにける。おもひきりぬるみちなれとも。心にまかせぬ事なれは。此人々の。しうたむはたとへむ方もなかり。かくて日かずをふる程に。大名たちの北の方。しづかゞおもひさこそやと。其文かずはかずしらず。しづかもしゆせき世にすぐれ。源氏いせ物語をはうちをく文の言葉にもたゝ此心なりけり。御れうの北の御方。仰出されけるやうはうら山しやなしづかは。いかなるちゑのふかうして。女ののうをのこさすしつたる事のゆゝしさよ。それわがてうの女はやまと言葉をむねとして。哥のみちをしるし。そさのおのみことのやくもたつと。五のもじに詠し始給ひしはわかてうのまふり。花ほとゝぎす月雪はあだなる物とおもへとも。四季てむべむのむじやうをあらはす心なりけり。仏もたゞ此事を一大事とて。五十年ときをかせ給へども。しむなふかふして。とゞかぬ言葉なりけり。ふせつふかしぎ成ゆへたゝふかとくとばかりにて。ことばにはのべつくされず。爰をもつてまさしく。ふりう文字なるゆへ。ぶつそふでむと是をいふ。たとひうばそくうばいにてかたちは女なり共。さとりをうけば仏なるべし。かのしつか御前と申は。ないでむげてんくらからすしかもわかてうのふうそく和哥のみちはたつしやなり。いざやしづかによりあひて源氏いせ物かたりの心をたづねむ。尤しかるべしとて。北の御かたを始奉り。静が宿へ御出あつてうちとけあそばせ給ふ。母のぜむしもらうえひしもてなしかしづきたてまつる。かくてよろづをとりしづめ。北の御方仰出されける様は。哥の不審さまざまおゝしと申せ共。源氏いせ物語のあふぎを委しる人稀なり。しづか御前の情にをしへをかせ給へと。仰いたされたりければ。しつが承て。みづからもいかにとしてそのあふぎをば知べき去ながら。心得てさふらふ程は申べし。抑いせ物語と申は。なりひらの中将の一生がいをかたるなり。かの業平と申は。へいぜいてむわうに第四の御子。あほうしむわうに第五のわうじこれなり。母はくわむむ天王に第八の御むすめ。伊藤内親王の御子。天長貳年きのとのみのとしむまれ給ふ。じゆむわ天王の御時。七歳にてわらは天上し給へり。ふかくさの御門の御時。春日のりむじのまつりの時。だいりよりれうのすがたにいてたつて。すきひたいのかふりをき。五せつのれいじむにたちしゆへ。しのぶずりのおみのころもをきたりしなり。又せうわ七年にうちの蔵人にふせたまふ。これたかのみこの御時かたのゝみかりにあひぐせり。かの業平の中将。しやばのほうさんつきはて給ひ。大和の国山田の郡ふるの郷在原といふ所にてみはかをてんじ給ふ。これまては業平のいつしやうがいを語なり。さても此物語を春宮の御所にて作られけるに。ふるざれ色の絹きたる男一人来つて。ゆゝしくも此物語を作り給ふもの哉。某も哥二首入むとありし時。いづくよりの御使ぞととひけれは。其返事にはをよはすして。神風や。いせのはまおき折しきて。旅ねやすらん。あらきはまへに。おもふ事。いはてたゝにややみぬへき。われにひとしき。人しなければ。かやうにゑいじたちかへらんとし給ふ時。人々御たもとにすかりつき。さも候へいづくよりの御使ぞと問けれは。是はいせと計にて。けすがことくにうせさせ給ふ。扨はうたかふ所なし。伊勢太神宮の。御使なりと心得て。此ことはりに。任せつゝ伊勢物語とは申なり。北の御方きこしめし。さてうゐかふりとはいかなるいはれにてざふらふそ。それはふかくさのみかどの御時。春日の臨時の。祭の時。内裏よりりやうの姿に出立て。すきびたいのかふりを始て給りしゆへ。扨うゐかふりとは申さふらふ。それもはやこゝろへぬ。其外の不審は。ながめあかしつみをづくし。とぶほたる。ぬきすといふ言葉たのものかり。みのしろ衣ちいろのたけ。しのぶずり都鳥。此しなしなの不審は。いかなるいはれにて候ぞ。そのしなしなの不審は真言の極ひじ。あばうむのたらに。あばらかけんのごもむ。ごちの如来のしゆじとして。四季てんべむのしきさう。あめつちひらけはしめ。日月星の三くわう。有生非生のたねとして。ゐむやうふたつ和合して。四季てむべむの。色をなす。春の色はあをけれど。何とて花はくれなゐのいろには出てひらくらん。夏のいろはあかけれは。照日もやかてごくねつす。あきのいろはうれひにて。虫のなく音はことはりや。冬されぬれはねはむにて。雪ふる山は白妙の是をしやうらうへうしの。四季さうさためなき事を。三十一字の哥によむ。此哥のすかたは。しやはせかいの人のみ。こくうと同事にて。仏と衆生。へたてなしされは。歌をよくよめば。神も仏もなうしうあつて。衆生もやかて。仏となると。ときをしへ申時。北の御方を。はしめまいらせつゝ其外の女房たち和哥のみちはくらからず。たうとくむじやうぼたいの。真如の道に入給ふ。かくてうかりしかまくら。昨日けふとはおもへと。女房達の。情の。えさりかたきに。ほたされてふかくの。いみもはれぬへし。大名高家さしあつまつて。さゝやき申されけるやうは。かのしづかゝ舞と申は。日本一の上手。それをいかにと申に。いむじやうわの夏の比。日でりおゝくつゞき。さうもくもことことくせいみやうのこるべからす。諸神諸山へ仰付。雨のいのりをし給ふに。なをしも日でりつゞき。かなふへきやうあらされは。此事天下のせうしとて。くぎやうせむぎまちまちたり。夫龍神の腹をやすめ。神の心をとる事は。女の舞にしくはなし。たれか名人あるらんと御たつね有し時。こむゑの左大将すゝみ出て申さるゝ。たれたれと申ともいそのぜむじがむすめ。しづかと申しらびやうし。ちゝはふしみの中将とて藤原氏のくぎやうなり。其子にしづか生年十六歳にまかりなる。舞は天下にならびもなし。これをやめされ候はんとそうし申されたりけれは。あふもつともとぎせられ。やかてちよくをたて。ないし所へめされ。駿河のまひをまひけるに。月卿雲客ひやうしをとつて。はやされたり。舞の袖ひやうようし天人のかけることくなり。うたふ声はさながら。かれうひんかのことく也。きみをはしめ奉り。月卿雲客。かむにたえさせ給ふ時。てる日俄にかき曇。とゞろとゞろとなる神も。ひやうしに合せたりければ。雲へきらくにあつうして。しむの雨こそふりにけれ。此程てりし草木。一ちうの雨をそゝけば。みとり若葉となりにけりさてこそごゝく葉はさかへ。ねはふかく。末は雲ゐにのひあきは其身のまたき事。すむのいなつぶたまににて。しやくのほたけもなかかりき。臣もきみも。此舞をかむせぬ人はなかりけり。かゝる名人たまさかにまれにもいかゞあるべきぞ。いかゞはせむと内談す。かゝりし時の折ふし。御れうの北の御かた仰出されけるやうは。はゞかり多き事なれど。日本一の舞とやらんを一目見はやと仰けり。しつか承り。まはぬとがめにふたつとなき。いのちをめされさふらふとも。まはしとこそおもへども。きみが情のふかければまはではいかゞなむどゝ。したうちとけて申されたり。北の御方きこしめしうれしやまはせ給はゞ。わかみや殿のすきらうにて。神慮も諸人までも。目をおとろかすものならば。一は神のかいなざし。又はわがみのいのり。かれこれもつてめでたしと。仰出されたりければ。しつかもこのきにとうじ。吉日とつて若宮にてかいなざしとふうぶむす。すてに当日になりしかば。若宮殿のしやうめむに大将殿の御さじきに。まむまくをひかれたり。北の御方のさじきには。外にはみすをかけ内にきちやうをひかれたり。諸大名はことごとく。くわいらうと大庭に所せきなくなみゐたり。きせむくむじゆは中々に申計はなかりけり。かの若宮と申は。うしろはやま前はうみ。さうにはのきをならべみむかの門家々。むねのかすおほうして太唐の。みやうじうの津ともいつつへし。あら面白の寺々のろうもむはうむこむにさしはさみ。みねのあらしはまつにふき。みきはのなみは。よせ。引てむしのざいごうをあらひけり。おきのかもめは海上の。白浪よりもたちゐけり。とうかく真如のおきのなみほつしやうのきしをよせてうつ。大慈大悲の若宮は。無明の闇を。てらさむとかくらおとこのしやうこのをときぬがたもとになるすゝいつれをきくも。いさぎよく和光の。影そすゝしき。しつかゞ舞のしやうぞくはちは殿の御役。笛はちゝぶの六郎殿。つゝみは公藤すけつね。かの祐経と申は大内に門やくのありし時。つゝみをうつてめいようす。きうろうきむ中のひやうしにたにもあはてたりしつゞみにてさゝるゝもたうり。下むさしの住人に中ぬまの五郎はとひやうしのやくなり。しつかはこれに。はやされて何の情にかまくらにて。舞まふべしとおほえすと。たもとをかほに。をしあててなくより外の事はなし。母のぜむじ是を見て。いかなる事ぞしづか御前。かほど目出度御さじきにて。舞まはぬ程ならば。きみのとがめをいかゝせむ。庭ばらひざふらふとて。さきにたつてぞまふたりける。本より舞は上手。かたくれしほりはきをうたひすましたりければ。しづか此よし見るよりも。あらいたはしや母御前。何にこゝろのなくさみ。かやうにうたはせ給ふそや。これもたゞみづからを。たすけむための舞そかし。それにみつから只今。物うき心のあるまゝに。舞まはぬ程ならは。母のとがめを。いかゞせむ。まはばやとおもひて。うちきぬのそてひきつくろひ。はかまのおびをさしはさみ。たち出たりし心の内。さこそやとおもひしられたり。みわせは。れきれきとさせられたる人々に。和田ちゝふ殿江戸かさい。ちは小山うつのみや。いづれか日比わかまゝに。ふるまはさりし人やある。義経のつまとありし程は。大名高家おそれをなし。舞まはせて見るまては。おもひもよらでありつるか。きのふは人を。したかへつゝ。けふは人にしたがへり。天人の五すひのけうさめぬると。おもへは。よその見る目もはづかしや。はつかしなからしつかこせむ。時のしうけむなりけれは。きみをはしめて。おかむには。ちよもへぬへし。ひめこまつ。とうたひすましたりけり。かたちは日本一なり。声はたゞかれうびむかみやうのひゞきなりけり。うつもふくもみなじやうず。ひらりとあくるかいなに。天人もあまくたりふみそろへたるひやうしに。地神もうこくばかりなり。入まひになりけれは。しつやしつしつがをたまきくりかへし。むかしを今に。なすよしもがなとうたひすましたりければ。みすもきちやうもざゝめき。おめきさけぶ所に。頼朝みすをおろさるゝ。故をいかにと申に。しつやしつしつがをたまきくりかへし。むかしを今とうたふたは。よしの山でわかれしよしつねをしたふ所。それは頼朝見ぬ所。ちゝぶ殿申さるゝむかしを今とうたふたはごていのむかし今にき。代はおさまるといふ所。目出度おほえ候に。みすを上られ候はで。いかゝと。申されたりければ。御領げにもとおぼしめし。みすをさらりとあげ給ふ。しづかはこれを見。こくらくじやうとのたますだれ。かむじゆまむしゆのたまのはたあくれは。いよいよ光ます玉体つゝがなふして。あめが下こそ。のどかなれと。三遍ふむてまはれば。みすもきちやうもざゞめきほうしやもゆるぐばかりなり。頼朝かむに。たえかね給ひ。おどり出させ給ひてともにかいなをさし給ふ。大名高家。庭上にころひおち。声をあげてぞおめいたるさてしも舞はおさまりぬ。きみよりの御諚にはするがの国かむばら。八十余町たひにけり大名たちのほうろく。たからの山を前につむ。しつかは。いよいよこれにはぢいつその程にまひまふて。ほうろくにほこるべきかへせばおそれありやと。鎌倉内のみややしろみだう寺にきしむし。義経の御いのり又はわか子のためにと。ひとつもみにそえず都へとてそのほりける。
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