【翻字】
 心して ことをば いそげ いそげたゞ さはりいでくる ものは世中

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 善はいそげとこそ いひならはせたれ論 語に敏則有功(ときときんはありこう)と 見へたりあるひと 問(とふ)ていはく物をいそ ぎてあしき事も いとおほし孟子(まうじ)に もすゝむことすみや かなるものはしり ぞくこともすみやか なりといへると爰 の心といかん答(こたへ)てい はくさればにや心してとはよくよく ふんべつしてといへる 心也ゆゑもなくいそぐ にはあらず味はふ べし

【通釈】
 注意して事を急げ、ただもう急げ。(さもないと何かと)障害が現れるのが世の中(というもの)である。

 「善は急げ」とは確かに言い習わしている。『論語』にも「敏速であれば功績があがる」と見える。ある人が私に尋ねるに、「物事を急いで悪い事もたいへんに多い。『孟子』にも〈進むことが敏速である者は退く事も敏速である〉とあるのと、この歌の心とはどのような関係になるのか」と。私は答えて言った。「だからであろうか、〈心して〉とは〈十分に注意して〉という意味である。理由もなしに急ぐ(のが良いという)のではない。(よくその真意を)味読すべきである。

【語釈】
・敏なれば則ち功有り…『論語』陽貨篇の言葉。注には「有」の右下に「レ」点がある。
・ときときし…「敏(と)し」を重ねて強めた畳語形容詞。
・孟子…儒教の聖典「四書」の一。この言葉の引用箇所は不詳。

【解説】
 第六首目は「敏速であること」の重要性について詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、右手に天秤棒に魚を載せた膳台と櫃を差し担いにした下僕、左手に裃を着た侍を描いています。祝いごとか何かで尾頭付きをどこかへ届ける場面を描いているようです。

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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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