【翻字】
世中に人を そねむは目に見えぬ 鬼よりもたゞ おそろしきかな

人のよき事を なすを見て心に これをそねみ人の あしきことは外には せうしがるやうなれ とも内心快(こゝろ)よく おもふは誠にあさま しく鬼よりも おそろしき人心 なり為鬼為蜮 といひて詩経に も深くこれをにくめり
【通釈】
世の中で、人を妬むのは、目に見えない鬼よりも、ただもう恐ろしいことだなあ。
人の良い事を見て内心妬んだり、人の悪い事を見て、表面は気の毒がって見せて、内心喜んでいるのは、実に浅ましく、鬼より恐ろしい人の心である。「鬼であり蜮である」と言って、『詩経』でも深く憎むところである。
【語釈】
・笑止がる…気の毒がる。同情する。
・為鬼為蜮…注には訓点があり、「鬼たり蜮たる」と読める。『詩経』小雅に見える詩句。「蜮(こく)」は想像上の害虫。転じて人を害する者を比喩する。
・為鬼為蜮…注には訓点があり、「鬼たり蜮たる」と読める。『詩経』小雅に見える詩句。「蜮(こく)」は想像上の害虫。転じて人を害する者を比喩する。
【解説】
第五十四首目は、「人を妬む心の恐ろしさ」について詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、室内で女性二人が何かについて話している戸外で、雷神のような異形の物が空中に浮かぶ場面が描かれています。琳派の描いた雷神そっくりでは、悪い鬼という印象は受けません。男性でなく女性が描かれているのは、妬み嫉みが女性の心性として一般であるとの通念からかと推測されます。

(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))