【翻字】
世中の人は慈悲あれ 心あれ心なくとも 千とせをばへじ

あらしにむせぶ松の こずゑも千とせを またでたきゞに くだかるゝ世中に けんどんにして何か せん人生七十古 来稀也といへば 後の世のみやげ 子孫の花とさか へんたねにはもつ はらじひのこゝろ をたもてよといへる こゝろなるべし
【通釈】
世の中の人は慈悲の心、人としての心を持ちなさい。心を持たずに生きようと、千年も生きられはしないだろうから。
嵐に唸り声を立てる松の梢も、千年を経ずして薪として砕かれてしまうこの世の中で、思いやりの心もなしに生きて、一体どうしようというのか。「人生、七十まで長生きすることは滅多にない」と言うから、冥途の土産、子孫が花と栄える基として、何はさておき慈悲の心を持ちなさいという(歌の)心であろう。
【語釈】
・むせぶ…むせび泣くような声や音を立てる。
・けんどん…思いやりのないこと。じゃけんなこと。
・人生七十古来稀…杜甫の詩「曲江」に見える詩句。
・後の世…死後の世。来世。あの世。後世。
・たね…物事の起こる原因となるもの。
・けんどん…思いやりのないこと。じゃけんなこと。
・人生七十古来稀…杜甫の詩「曲江」に見える詩句。
・後の世…死後の世。来世。あの世。後世。
・たね…物事の起こる原因となるもの。
【解説】
第五十五首目は、「慈悲の心を持つ」ことの重要性について詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、一段高い壇上にいる、左右に侍者らしき人物を従えた貴人に向かい、正座してお辞儀する人物が描かれています。おそらくは何らかの漢籍に典拠を持つ絵かと推察されますが、具体的には特定できません。

(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))