【翻字】
 人のためよからんことの さまたげと かへすがへすもなるな世中

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 君子は済人之美 と云へり何事にも せよ人のためよき 事とならは外より これを妨げましき なり此外讒言はいふ に及はず人のなか言(こと) 水をさすなとゆめ ゆめなすましき なり返す返すもと 深くこれを戒め られたり

【通釈】
 人のためにとって良いような事の妨げには、くれぐれもならないように。世の中は。

 「立派な人は、他人の美事善事を援助し完成する」と言う。何事によらず、人のためにとって良い事であれば、それを外から邪魔してはならない。こそれ以外にも、讒言は言うまでもなく、間に入って両方に悪口を言ったり、仲違いさせるような事を決して言ってはならない。「返す返すも」と(この歌は)深く戒めなさっている。

【語釈】
・君子は済人之美…注には訓点があり、「君子は人の美を済(な)す」と読める。『論語』顔淵篇に見える言葉。
・讒言…事実を曲げたり、ありもしない事柄を作り上げたりして、その人のことを目上の人に悪く言うこと。
・なかごと…両者の間に入って、どちらに対しても相手の悪口を言うこと。中傷。
・水をさす…仲の良い者同士を仲違いさせること。

【解説】
 第五十六首目は、「人にとって良い事を邪魔してはならない」ことについて詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、縁に立つ武士に、女性が膝をついて何か言っている場面が描かれています。あるいは、正義のための出陣を女性が愛情から止めているという意味かとも解釈できます。

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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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