【翻字】
 世中をすぐさむ みちのかしこきはこれや くはほうのはじめなるらん

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 つねのなりはひ なきときはつねの 心なしといへり そのすぐさんなり はひの道にかしこくて 立身せんは誠に くはほうのはじめ なるべけれ士農工 商の上に推◎して 専(もつは)ら勤むべきは それそれの産業也 これを外にして 種々の外慕ある べからずとなり

【通釈】
 世の中で暮らしていく生業に秀でているのは、幸福の第一であろうか。

 「定まった職業がなければ、定まった正しい心を持つことができない」と言う。そのふだんの生業に優れていて成功するとしたら、実に幸福の第一であるだろう。士農工商それぞれの身の上について想像してみても、ひたすらに努力すべきは自分の生業である。それをよそにして他の職業や身の上を願ってはならないと(、この歌は)言っているのである。

【語釈】
・果報…よい運を授かって幸福なこと。
・つねのなりはひなきときはつねの心なし…「恒産なきものは恒心なし」。『孟子』梁恵王上篇に見える言葉。
・なりはひ…生活を営むための仕事。
・かしこい…上手だ。大変よい。巧みだ。すぐれている。立派だ
・立身…世に認められて、一人前になること。社会的に高い地位につくこと。
・推◎して…翻読不能。「(士農工商の身分を越えて全てに)推(お)しわたす」の意か。

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・産業…生活していくための仕事。職業。生業。なりわい。
・外慕…不詳。「それ以外に求めること」の意か。

【解説】
 第五十七首目は、「生業に努力する」ことの重要性について詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、桶屋が桶を拵え、そこへ一人の女性が小さな桶を持って歩み寄っている場面が描かれています。

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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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