【翻字】
 二ごゝろ有けるならば 世中に 人とはひとの いふまじきかな

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 賢臣二君につかへ ず貞女両夫に まみへすといふは 二ごゝろなきなり かゝる貞節の心有 を人とはいふ也此心 みだりにして君に ふた心を持てうら がへり夫にそむきて さよ衣のつまかさぬ る女なとは人とは 人のいはずして あだしうき名を 世に立んこといと あさましきかぎ りならずや

【通釈】
 裏切る心や浮気心を持っているのであれば、そんな人を世の中の人は「人」とは言わないであろうよ。

 賢い臣下は二人の主君には仕えないし、貞淑な女性は二人の夫を持つことはないというのは、二心がないという事である。このような貞節な心を持つ人を「人」とは言うのである。この心をないがしろにして、主君を裏切る心を持って裏切ったり、夫に背いて別の夫を持つ女性などは、人は「人」とは言わずに、浮気だという悪い評判を世の中に流すとしたら、たいへん浅ましいことではないか。

【語釈】
・ふたごころ…味方や主君にそむく心。浮気心。
・みだり…秩序を無視するさま。
・うらがへる…味方が敵となる。裏切る。
・さよごろも…夜着 (よぎ) 。
・つま…着物の「端 (つま) 」と「夫(つま)」の両意を掛ける。
・あだし…実(じつ)がない。
・うき名…悪い評判。

【解説】
 第五十八首目は、「一人の主君に忠節、一人の夫に貞節を尽くす」ことの重要性について詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、戸外で武将が胡座している前に、使者と思しき武者が書状を開いて何やら話しており、傍らに一人の武者が立ってそれを聞いている場面が描かれています。

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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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