【翻字】
春の夜のおぼろ月夜と世中の ばくちうたぬに しく物はなし
春の夜のおぼろ月夜と世中の ばくちうたぬに しく物はなし

古今におぼろ月 夜にしく物ぞなき の哥を據として 俳体によみなせり 孟子にも博奕好飲 酒とてあしき事の 最上とせり此道に たつさはるものは人の 財をむさほるの欲心 のみなり利欲専(もつはら)なる 故に本心を蕩(とろか)して 果(はて)は身の難義とも なるへし此一大事を なさぬたけも凡(およそ)の人 のとり所とすべし との意にてしく物 はなしといへり
【通釈】
春の夜の朧月夜と世の中の賭け事をしない事に勝るものはない。
『古今和歌集』に「朧月夜にしくものぞなき」とある歌を本歌として、滑稽に詠んだ歌である。『孟子』にも、「賭け事をして酒好き(、親の面倒を見ないのは不孝である)」とあり、最も悪い事としている。この道に手を染める者は、
人の財産を貪ろうとする欲にまみれた心しかない。物欲だけしかないので、本来の心を見失い、結局は苦労の元となってしまう。この大変な事をしないだけでも、大体の人にとっては美点とするべきであるという意味で、「勝るものはない」と詠んだのである。
人の財産を貪ろうとする欲にまみれた心しかない。物欲だけしかないので、本来の心を見失い、結局は苦労の元となってしまう。この大変な事をしないだけでも、大体の人にとっては美点とするべきであるという意味で、「勝るものはない」と詠んだのである。
【語釈】
・古今に…正しくは『新古今和歌集』巻一春上五十五「照りもせず曇りはてぬ春の夜のおぼろ月夜にしくものぞなき」(大江千里)。
・據…よりどころ。
・俳体…不詳。「俳諧体」の略で、「滑稽な形」の意か。
・博奕好飲酒…『孟子』離婁章句上篇に見える言葉。
・博奕…すごろく。ばくち。将棋。囲碁。
・利欲…利をむさぼる心。利益を得ようとする欲望。
・とろかす…惑わして本心を失わせる。
・難義…苦労すること。
・據…よりどころ。
・俳体…不詳。「俳諧体」の略で、「滑稽な形」の意か。
・博奕好飲酒…『孟子』離婁章句上篇に見える言葉。
・博奕…すごろく。ばくち。将棋。囲碁。
・利欲…利をむさぼる心。利益を得ようとする欲望。
・とろかす…惑わして本心を失わせる。
・難義…苦労すること。
【解説】
第六十首目は、「賭け事をしない」ことの重要性について詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、月夜に三人の男性がすごろくのようなもので遊ぶ姿が描かれています。

(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))