【翻字】
 ふそくなる ことをこらへよ 何時も うらみむことはやすき世中

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 百たび戦ひて百度 勝(かつ)とも一たび忍ぶに しかずとしるせり或 人いふ堪忍の忍の 字は百貫文のあた ひ有とかたへの人 聞て何ぞ百貫文 にはかぎるべき王侯 一たびこらへずして 一天下うごき士大 夫一たびこらへずし てその家さはく此一 字のあたひかぎるべ からすといへりしは まことにしゆしやうの 事也何時にても いひ出んはやすけれは こらへ忍ぶにしか ざる世中也

【通釈】
 不満に思う事を我慢しなさい。愚痴を言う事は常に簡単な事である。この世の中は。

 「たとえ百戦して百勝するとしても、一度我慢する方が勝る」と(ものの本に)書いてある。ある人が言った。「堪忍の人という字は百貫文の価値がある」。すると、傍でそれを聞いていた人が「どうして百貫文だけであろうか。王侯が一度我慢できなければ天下が騒乱になるし、一士大夫が我慢できなければ、一家が騒動になる。忍の一字の価値は、無限であろう」と言ったのは、実に卓見であった。常に、口に出すことは簡単であるから、我慢するに越したことはない、この世の中である。

【語釈】
・不足…不満。
・うらむ…ぐちを言う。
・百たび戦ひて百度勝とも一たび忍ぶにしかず…出典不明。
・百貫文…約二十五両に相当。
・さわぐ…騒動になる。
・殊勝…とりわけすぐれているさま。

【解説】
 第六十二首目は、「不平不満を口にせず堪える」ことの重要性について詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、縁側で立って何か言っている客風の男性と、膝をついてそれを聞く目下風の男性の姿が描かれています。客か主人が店の者に何か文句を言っているのかと思われます。

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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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