【翻字】
口ごもるならひ成ける 世中に いふべきことを 何つつむらむ
口ごもるならひ成ける 世中に いふべきことを 何つつむらむ

うらみをかくして その人をともとする をば孔子もこれをはづ とのたまひしなれは 親しき交りの中にて もいふべき恨みあらば つゝまずいひあけて その事をとりさばき なほなほねんごろをも 尽(つく)すはまことにいさ ぎよき行かたなれば 男子(なんし)つねのこゝろ がけにあるべき哥也
【通釈】
口ごもるのが当たり前である世の中で、言うべき事をどうして隠すのか。
恨みを隠してその人を友にする事は孔子も恥ずかしいと思うと仰ったのであるから、親しい交友の間柄であっても、言うべき恨みがあれば、隠さずに打ち明けて、その事を処理してから、ますます親しく交際するのは、実にさっぱりとしたやり方であるから、男子として常日頃の心がけとするべき歌である。
【語釈】
・習い…世間であたりまえであること。世の常。
・つつむ…心の中にしまっておいて外へ出さない。秘める。隠す。
・孔子もこれをはづ…『論語』公冶長篇に見える言葉。
・とりさばく…こみいった事柄をうまく処理する。
・なほ…さらにいっそう。ますます。
・ねんごろ…親密になること。
・いさぎよし…思い切りがよい。さっぱりしている。
・つつむ…心の中にしまっておいて外へ出さない。秘める。隠す。
・孔子もこれをはづ…『論語』公冶長篇に見える言葉。
・とりさばく…こみいった事柄をうまく処理する。
・なほ…さらにいっそう。ますます。
・ねんごろ…親密になること。
・いさぎよし…思い切りがよい。さっぱりしている。
【解説】
第六十六首目は、「恨みを隠さずに友人と付き合う」ことの重要性について詠んでいると、注釈は説明しています。ただ、歌自体は「心に思うことを口にしないのが世の常であるが、どうして隠す必要があるのか。思っていることは言えばいいではないか」と詠んでいるだけです。絵は、中国風の男性二人が対座して会話している場面が描かれています。

(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))