【翻字】
世中に酒のむ人は みてぞよき のまざる人も 見てよかりけり
世中に酒のむ人は みてぞよき のまざる人も 見てよかりけり

酒は天の美禄也 とてもろこし賢き 人にもこれを愛 せしなれどもあしく のむときは身をほろ ぼし国家をも失ふ にいたる故に仏は 深くこれを戒しめ 孔子は乱に及さゞ れとのたまひしなし 乱に及ぶと及ざる とは人に在て酒に あらずさてのま ざる人も見てよかり けりといへるは儒仏に よるとしもなく作 者の旨偏らざるを見るべし
【通釈】
世の中で、酒を飲む人は見ていても良いものだ。飲まない人も見ていて良いものだ。
「酒は天からのご褒美である」と、中国の賢者も愛したけれども、悪い飲み方をすると、一身を滅ぼし国家を失うに至る。だから、仏陀は深く飲酒を禁じ、孔子は「酔い乱れてはならない」と仰ったのである。酔って乱れるか乱れないかは人の問題であり、酒自体の問題ではない。ところで、「のまざる人も見てよかりけり」と詠んでいるのは、儒教と仏教、いずれに依拠するわけでもない、作者の趣旨がいずれにも偏っていない点を(その言葉に)見るべきである。
【語釈】
・酒は天の美禄…『漢書』食貨志に見える言葉。
・いましむ…してはいけないと命ずる。禁止する。
・乱に及さゞれ…『論語』郷党篇に見える言葉。
・旨…述べたことの中心。趣旨。趣意。
・いましむ…してはいけないと命ずる。禁止する。
・乱に及さゞれ…『論語』郷党篇に見える言葉。
・旨…述べたことの中心。趣旨。趣意。
【解説】
第六十八首目は、「酒は飲んでも飲まなくてもそれぞれに良い」ことについて詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、戸外で三人の男性が酒宴を催している傍らに、一人の男性が背を向けて座り、空を見ている場面が描かれています。

(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))