【翻字】
 世中に身のとりどころ なかりきと いはれんことや 無念ならまし

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 やぶれたるきぬがさ もしゝたるいぬを うづむるにたより有 かどはきのうばにも 応じたる用あり しかるに人品ひと なみに生(うま)れながら つねの心がけなくし て何の功なく徳か けて身のとり所 なしと世にうとん ぜられんは無念第 一ならざらんや

【通釈】
 世の中で、その身に取り柄がないと人に言われるとしたら、悔しいであろう。

 破れている絹の傘でも、死んだ犬を埋めるのに役に立つ。門の前を掃く老女でも、ふさわしい役割がある。それなのに、見た目は人並に生まれていながら、常日頃何の心がけもなく過ごした結果、何ができる訳でもなく人柄見識も十分でなく、取り柄がないと世間から嫌われるとしたら、何よりも悔しい事ではないか。

【語釈】
・とりどころ…取り立てていうだけの価値のある点。長所。とりえ。
・無念…くやしいこと。
・きぬがさ…絹を張った長柄のかさ。
・たより…都合のよいこと。便利なこと。
・かどはき…朝、かど(家の前)を掃き清めること。
・うば…年とった女。老女。老婆。
・人品…人としての品格。身なり・顔だち・態度などを通して感じられる、その人の品位。
・功…すぐれた働き。りっぱな仕事。
・徳…精神の修養によってその身に得たすぐれた品性。人徳。
・うとんず…嫌って、よそよそしくする。遠ざけて親しまない。
・第一…ほかのことはともかくとして。何よりもまず。

【解説】
 第七十首目は、「取り柄がないと人に言われるのは悔しい」ことについて詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、机に向かって何やら書いている男性の姿を描いています。恐らくは、このように常日頃から何かの修練に心がける事が大切であるとの意味で描いているのであろうと推測されます。

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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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