【翻字】
あみのいとの ひとつすぢめの ちがふゆゑ みたれにけりな 人の世中
あみのいとの ひとつすぢめの ちがふゆゑ みたれにけりな 人の世中

あみのいとは君臣 父子夫婦の三綱(かう) をいふ此三綱ひとつ みだるゝときは天下 の礼義いづれも みたれてみちたゞず 故に義家将軍 の宗任を追れしとき 年を経しいとのみた れのくるしさにと 宗任よみたるをやさ しとおほしてしばらく ゆるし去しめ給へりと いふ上下のみだれを かなしみし趣(おもむき)なり 人道の最(もつとも)守るへきは この三綱の上にあり
【通釈】
網の糸目が一筋違っているために、乱れてしまった事だなあ。人の世の中が。
「網の糸」とは、君臣・父子・夫婦の踏み守るべき「三綱」の道を言う。この「三綱」が一つでも乱れる時、天下の礼と義の両道は共に乱れ、人の道は成り立たない。そこで、昔、源義家将軍が安倍宗任を追討なさった時、「年をへし糸の乱れの苦しさに」と宗任が詠んだのを、「感心だ」と仰って、少しの間(追撃を)緩めて逃がせなさったと言うのである。それというのも、身分の上下の間の礼義の道の乱れに心を痛めた趣旨からである。人の守るべき道の中で最も守らなければならないのは、この三綱である。
【語釈】
・三綱…儒教で、君臣・父子・夫婦の踏み行うべき道。
・礼義…礼と義。また、人のふみ行うべき礼の道。
・義家将軍の宗任を追れしとき…『古今著聞集』巻第九武勇第三三六段に見える。
・やさし…けなげだ。殊勝だ。感心だ。
・ゆるす…ゆるめる。逃がす。
・上下…地位・身分・年齢などの、上位と下位。
・かなしむ…心が痛む思いだ。
・趣…趣旨。
・礼義…礼と義。また、人のふみ行うべき礼の道。
・義家将軍の宗任を追れしとき…『古今著聞集』巻第九武勇第三三六段に見える。
・やさし…けなげだ。殊勝だ。感心だ。
・ゆるす…ゆるめる。逃がす。
・上下…地位・身分・年齢などの、上位と下位。
・かなしむ…心が痛む思いだ。
・趣…趣旨。
【解説】
第八十首目は、「礼義道徳が乱れると社会は成立しない」ことについて詠んでいると、注釈は説明しています。ただ、歌は、「物事の条理が一つ狂っているために、社会全体が乱れてしまっている」ことを詠んでいて、むしろ主題は社会の乱れた現状に対する嘆きを詠んだものと解釈すべきです。絵は、座ったままで老人の胸ぐらをつかむ男性とその腕をつかみ返す老人、後ろから二人を制止しようと手を伸ばす老女の姿を描いています。

(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))