【翻字】
 第一に大事のいけん 第二にはむしんの所望 むやく世中

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 此二条もまた高(かう) 野(や)大師の遺訓の うちなり人々過失 なしといふべからず 不得已して異見 を加へん時兄弟骨肉 の心となりて異見す べし聊(いさゝか)前人の 非を訐(あば)き謗(そし)るの意 あらば反(かへつ)て不和の 基(もとゐ)ともなるべし 黙(もく)して止(やま)んにはしかじ 又無心の所望 故に親友の際も うとくなるたぐひ 世に多し

【通釈】
 世の中で無駄な事は、第一に重大な事柄を諫める事、第二に借金の依頼。

 この二か条も、弘法大師の遺訓に見える。人は誰しも過ちや欠点がないわけではないだろう。やむを得ず人を諫めなければならない時は、その人の肉親になったつもりで諫めなければならない。わずかでも相手の非を暴いたり相手を謗る気持ちがあると、かえって互いの不和の元となってしまうであろう。(それ位なら最初から)黙って何も言わないでおく方が良い。また、借金のお願いも、そのせいで親友の間が疎遠になる例が世間には多い。

【語釈】
・大事…重大な事柄。非常に心配な事態。
・異見…自分の思うところを述べて、人の過ちをいさめること。
・無心…人に金品をねだること。
・所望…ある物がほしい、またこうしてほしいと、望むこと。
・無益…利益のないこと。むだなこと。
・高野大師…弘法大師空海(774~835)。
・遺訓…空海の六種の遺訓・遺告中にはこのような世俗的な内容のものはそもそも見えない。
・過失…過ち。欠点。
・不得已…注には訓点があり、「已むことを得ず」と読める。
・骨肉…直接に血のつながっているもの。親子・兄弟など。肉親。
・いささか…ほんの少し。わずかばかり。
・前人…不詳。「当人」の意か。
・際…あいだ。
・うとし…疎遠だ。よそよそしい。
・たぐひ…例。同類。

【解説】
 第八十一首目は、「無駄なものは忠告と借金の依頼である」ことについて詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、座って扇を手に畳を指しながら何やら教え諭しているような年配の男性に、若い男性が背を向けて空を眺めている場面を描いています。

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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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