【翻字】
世中に人のをんをば 恩として我する恩は をんとおもふな
世中に人のをんをば 恩として我する恩は をんとおもふな

己(おのれ)人に恩をかくる 事もあり又人より 恩をかけらるゝ事 もあり人よりかけら れたる恩は心に刻(こく) して忘れず時を 得て報恩をはかる べし己人にかけ 置たる恩はさらに 心にとゞめず忘れ たるが如くなれと なりこれ美(うる)はし き心ならずや
【通釈】
世の中で、人からの恩は恩と考え、自分がした恩は恩と考えないように。
自分が人に恩をかける事もあるし、人から恩をかけられる事もある。人から受けた恩は心に刻んで忘れないようにし、時機を見て恩返しするようにしなければならない。自分が人にかけた恩は少しも心にとどめず忘れたようにしなさいと、この歌は詠んでいるのである。これは美しい心がけではないか。
【解説】
第八十二首目は、「人から受けた恩は忘れず、自分が人にした恩は忘れる」ことの重要性について詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、米俵を積み上げた荷車を一人の男性が肩を脱いで鉢巻をして引いている姿を描いています。歌との関連は不明です。

(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))