【翻字】
 世中はちゑはうべんに たゞしくて身を おさめんぞ めてたかるべき

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 智恵方便は心に かけていふなりお よそ人その身を おさめんにはまづ その心の才智を あきらかにし思慮 の手だてをたゞし うしてさてその 身をまつたふおさ むべしとなり身を おさめんと欲する ものはまづその心 を正しうすと大学 にも出たり時宜を 知りて一辺に偏ら ぬを方便といふ

【通釈】
 世の中は、智恵と方便を正しくして、身を修めるとしたら、素晴らしい事であろう。

 「智恵方便」は、心に関して言っているのである。そもそも人が身を修める時は、最初に心の才智を明らかにして、思慮という(身を修めるための)手段を正しいものにしてから、その身を確かなものに修錬しなければならないとこの歌は言っているのである。「その身を修めたいと願う者は、まず(身よりも先に)心を正しくする」と、『大学』にも出ている。時機をわきまえて一方に偏らない(で修錬できるできる心性を)方便と言う。

【語釈】
・方便…人を真実の教えに導くため、仮にとる便宜的な手段。ただし注末の説明とは整合しない。
・かける…そのことに関する。
・てだて…目的を達成するための方法・手段。
・まつたし…完全だ。無事だ。
・大学…儒教の経典の一つ。引用は『大学』経一章に見える。
・時宜…時がちょうどよいこと。適当な時期・状況。
・一辺… 片側。一方。

【解説】
 第八十四首目は、「心を修めてから身を修める」ことの重要性について詠んでいると、注釈は説明しています。歌は単に「心身の修養の素晴らしさ」を詠んでいて、「修錬心を先にし身を後にする」ことを強調する注は、若干儒教的教えに偏した解釈をしています。絵は、脇息によって書物を読む侍と、床に積まれた書物と聖王の画像が掛けられている場面が描かれています。

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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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