【翻字】
 世中に物くさくして物知らで ものをばもたで物にかゝりて

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 われからとこそ はぢをかきけりと いふ句にあまの かるものしりがほは みぐるしやといへる 付あひの心成べし こゝによめるわざ皆 はぢをかく道なり 物くさくとはさな がら物をもしれる けしきにてひつきや う物をしらず一物 もなくして万物に かゝるこれらもの もたずの市だち あなみくじでふね のぞくといふ世中 のわらひぐさなり


【通釈】
 世の中で、物ぐさ、物を知らない、物を持っていない、物に頼っている、こういったあり方はいずれもよろしくない。

 「自分から恥をかいたことだ」という前句に「海人の刈る藻、その〈も〉ではないが、ものを知ったかぶりした顔は見苦しい事だよ」という句を付けた付合の心で詠んだ歌であろう。この歌に詠み込んでいる振る舞いは皆、恥をかく道筋である。「物くさく」とは、あたかも物を知っている顔をして結局はものを知らない(事を言う)ず。一つも(これといったものを)持っていないで、(取るに足りない)ものに頼っている。こういった物をもたない〈市だち〉が〈あなみくじでふねのぞく〉(とい うのは)、世間のお笑い草である。

【語釈】
・ものくさし…なんとなく怪しい。めんどうくさい。
・かかる…意味が多く不詳。「頼みとする。頼る」の意か。
・あまのかる…「海人の刈る」で「も(藻)のしりがほ」を導く修辞。
・物知り顔…いかにも物事を知っているような顔つき。
・われから…「自分から。みずから」の意の「我から」に、海藻に付着する動物の「ワレカラ」を掛けている。
・つけあい…連歌・俳諧で、五・七・五の長句と七・七の短句を付け合わせること。
・道…ある目的や結果に行きつく道すじ。
・ひっきょう…つまるところ。結局。
・これらもの~のぞくといふ…文意不詳。

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【解説】
 第八十六首目は、「知ったかぶり、無知、貧乏、物頼み、これらはいずれも良くない」ことについて詠んでいると、注釈は説明しています。注は、後半は解釈不能です。また、前半の「物くさくして」の説明は疑問が残ります。歌の通釈は、注によらずに訳してあります。絵は、刀や衣類か何かを持ち去る男性、着物に手をかける男性、その男性に掌をかざし、何やら懇願している風の男性が描かれています。畳の上にある書面はあるいは借用証文で、右の男性は借金のかたに着ている着物まで脱がされようとしているのかもしれません。

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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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