【翻字】
世の中にかくべき物は かゝずしてことをかくなり はぢをかくなり
世の中にかくべき物は かゝずしてことをかくなり はぢをかくなり

礼楽射御書数の 六芸の中にももの かくことは殊更なさ でかなはぬ道なり 神儒仏の道聖賢 の前言往行も文学 ならでは後世にのこ らずかゝる道なれば 人としてはかくべき 事なるをまなばず しらざればその身 事をかくのみならず 又はぢをかく事 のあるべしと勧め 戒められたり
【通釈】
世の中で、書かなくてはならないもの(文字)は書かないで、不自由をするし、恥もかくことだ。
ひとかどの人にとっては必ず身につけなければならないとされる礼・楽・射・御・書・数の六芸の中でも、文字を書く事は特に欠く事のできない技芸である。神道・儒教・仏教の教え、聖人賢者の言行も、文字の学でなくては後世には残らなかった。このように大切な技芸であるから、人として文字は書けなければならないのであるが、それを学ばず、知らないならば、その人自身、困る事になるだけでなく、恥をかく事があるに違いないと、学ぶ事を勧め、又学ばないでいるのを戒めなさったのである。
【語釈】
・ことをかく…必要な物がなくて不自由する。不足する。
・礼楽射御書数の六芸…中国で、士以上の身分の者が学ぶべき六種の技芸。礼・楽(楽器)・射(弓)・御(乗馬)・書・数(数学)。
・前言往行…昔の人の言い残した言葉やその行い。
・文学…学芸。学問。
・礼楽射御書数の六芸…中国で、士以上の身分の者が学ぶべき六種の技芸。礼・楽(楽器)・射(弓)・御(乗馬)・書・数(数学)。
・前言往行…昔の人の言い残した言葉やその行い。
・文学…学芸。学問。
【解説】
第八十九首目は、「文字を書く」ことの重要性について詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、一人の貴人男性が小筆を持ち座っているところへ、一人の男性が紙を差し出して何やら話している場面が描かれています。

(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))