【翻字】
 世中に銭だにもたば 芸能もいらぬと我は おもふべらなり

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 人間の道は忠孝を 第一として暇(いとま)ある時 は手習物よみ詩歌 管弦の道をもたし なみたきものなり しかるを世には 貪欲の凡夫たゞ 金銀をむさぼり あつめ無能無芸 にて一生を送り 更にその非をさと らず頑(かたくな)に思ひさだめ たる類(たくひ)世に少な からず浅ましく 又憐むべし因(よつ)て 次の哥に返しと 題して云々

【通釈】
 世の中で、金さえ持っていれば、芸事などは不要であると自分では思っているようだ。

 人間の踏み行う道は、忠孝の道徳を第一に考えて、余暇を得た時には、習字、読書、詩歌、器楽の諸道も嗜みたいものである。それなのに、世間には欲深い凡人がただもう金銀を欲しがり集めて、無能無芸のままで一生を送り、全くその誤りに気付かず、頑迷に思い込んでいる輩が少なくない。浅ましく、憐れむべきである。そこで、次の歌に(守武卿自身の考えを述べた)返歌として以下のようにある。

【語釈】
・芸能…生花・茶の湯・歌舞音曲などの芸事。
・手習…文字を書くことを習うこと。習字。
・物よみ…書物を読むこと。特に、漢籍を素読すること。
・凡夫…平凡な人。普通の人。凡人。
・かたくな…かたくな

【解説】
 第九十首目は、「金さえあれば芸事は身に付ける必要はない」ことについて詠んでいると、注釈は説明しています。但し、これは作者守武の考えでも注者の考えでもなく、世間にそのような考えの者がいるとして作者も詠み、注者も批判しています。作者守武の考えは、次の歌で示されます。絵は、尺八を吹く男性の傍らに、脇息に肘を置いて話す男性の姿が描かれています。

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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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