【翻字】
 世中にけいのう有て その上にぜにをば人の もたぬものかは

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 此哥は右のうたの かへし也即ち守武 神主の真跡には 右の哥の次に返し と題してこの哥 ありさてその意地 をたすけて一芸 に名あるものは もちゐられずと いふことなければ あくまて諸芸に 達せしうへに金銀 にもくらからずんば 鬼にかな棒とやらん にてくらき事有まじ

【通釈】
 世の中で、芸能が身に付いていて、その上にお金も持たないでいようか。

 この歌は、一つ前の歌に対する返歌である。つまり、守武神主の真筆には、前の歌の次に「返し」と題してこの歌が書かれている。さて、その歌意を補足して(以下説明すると)、一芸に名のある人は、人に用いられないという事がないので、どこまでも諸芸に熟達している上に、お金にも不足していないならば、まさに「鬼に金棒」とかで、弱点がないので、それで不足な事はないはずである。

【語釈】
・芸能…生花・茶の湯・歌舞音曲などの芸事。
・真跡…その人が実際に書いたと認められる筆跡。真筆。
・意地…句作上の心の働き。ここでは歌の作者のそれを指すか。
・助ける…不十分なところを補い、物事がうまく運ぶように手助けする。助力する。補佐する。
・あくまで…徹底的に。どこまでも。全く。
・くらし…不足している。欠けている。
・鬼にかな棒…ただでさえ強いものに、一層の強さが加わること。
・やらん…~であろうか。…とか。

【解説】
 第九十一首目は、「芸能を身に付けて、その上お金もある方が良い」ことについて詠んでいると、注釈は説明しています。この歌は直前の歌とセットであり、注もその説明と、歌意の説明とがなされているようです。絵は、鼓を打つ男性の姿が描かれています。

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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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