【翻字】
 おもひ出をしつゝ後生を ねがへたゞひさしからぬは 人の世中

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 ふく風にこぞの さくらはちらずとも あなたのみがたの人の 世にいつまてぐさの いきながらふべき世 にもあらざれば折に ふれたるたのしみも しつゝのちの世の 心がけをわすれず して成たけの恵み をもなすべしたとひ 才学に富たる人も 無常をしらざるは 古人これを五つの 媚なしといへり 旨あるかな

【通釈】
 思い出となるような事をしては、(一方で)ひたすら後生を願いなさい。長くは生きられないのが人の世である。

 吹く風に、去年の桜は(今改めて)散る事はないけれども、ああ、なんとあてにならない人の世の中で、いつまで草ではないが、いつまでも生き永らえる事のできるこの世ではないから、季節折々の楽しみもしながら、後世を願う心がけを忘れず、できるだけの施しをすべきである。たとえ学識豊かであっても、無常をわきまえない人は、昔の人も五つの慈しみを持たない人だと言っている。意味深い言葉である。

【語釈】
・いつまてぐさ…キヅタ。マンネングサ。ノキシノブ。
・めぐみ…めぐむこと。恩恵。いつくしみ。
・才学…才能と学問。学識。
・媚…いつくしみ。この個所、出典も文意も不詳。
・旨…事の意味・内容。趣旨。

【解説】
 第九十四首目は、「折々の楽しみに並行して、後世を願う」ことの重要性について詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、桜の木の下に幕をめぐらして花見をしている人々の姿を描いています。頭巾を被った旦那らしき男性が、粗末な身なりをした一人の男性に、財布を開いてお金を与えて施しをしているようです。


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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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