【翻字】
 よの中につくづく物を あんずれば うれしきもなし かなしきもなし

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 つくつく物をあん するといふは静(しづか)に してよく慮(おもんはか)る時 妄想を打払ふまて もなく正念現前し て憂喜ともに忘るゝ 境界あるへしとなり 此哥なと百首の 中わきて深き心有 へく覚へ侍る

【通釈】
 世の中で、よくよく物事を考えてみると、嬉しい事も悲しい事もない(、すべては無常である)ことだ。

 「つくづく物を案ずる」というのは、心を静かに保ち、よく物事を考える時、妄想を打ち払うまでもなく、安らかな心が生まれ、嬉しさも悲しさも(感情すべてを)忘れ去ってしまう心の状態があるはずである、と言っているのである。この歌などは、百首歌の中でもとりわけ深い境地を詠んだ歌であると思われます。

【語釈】
・つくづく…物事を、静かに深く考えたり、注意深く観察したりするさま。よくよく。じっくり。
・案ず…あれこれと考える。
・正念…雑念を去った安らかな心。
・現前…目の前に現れること。
・境界…精神・感覚の働きによりもたらされる状態。境地。

【解説】
 第九十五首目は、「結局世は無常であり、幸不幸や喜怒哀楽も空しい」ことについて詠んでいると、注釈は説明しています。絵は、脇息により空を見上げる一人の男性の姿を描いています。

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(底本:『世中百首絵鈔』(1835年刊。三重県立図書館D.L.))

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