【翻字】
マチコル
マチコルとは婚姻のことなりその親々の意にまかせしを
小児の時よりいゝなづけ置もあり又壮年に及てむかへ
取もあり彼等にも貧福上下はありて結納の品は
かはれとも大抵太刀一振をもてば妻は持たれとの風
俗なりかのいゝなづけせし女子の成長すれば
いつとなくその家にいたりて夫婦手伝ふに
海漁山猟の事をはけむ其利を
舅姑に手伝ふにもあらす皆銘々の
稼にして世を渡しぬ
偖婚姻の夜は媒人その婦の
伴ひてその家にしのばせ媒人
のうしろにかくしおく舅
姑もしらぬ体をなし
夫も見ぬ
ふりして
時候の咄しなど
して居る間に夫の蔭に
おきかへる故にその夜は灯
し火爐の火も幽にする
を心得とす
娵ふと起いでゝ
爐の火を
焚付るなとを
家内にてしらさるを
上首尾とする
ならひなり

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【通釈】
マチコル
マチコルとは婚礼のことである。その親同士の意思にまかせて、子供の時から結婚の約束をしておく場合もあれば、大人に成長してから結婚相手を決めて迎え入れる場合もある。アイヌにも貧富や身分の上下はあって、結納の品は違っても、大体は、太刀一振りを持ったなら、妻も持つべきだという風俗である。その許嫁の女子が成長すると、いつとはなしに将来の夫の家に来て夫の家業を手伝うが、二人が海の漁や山の猟に励んだ稼ぎは、舅姑を手伝うのではない、全部自分たちの稼ぎとしてその暮らしの費用となる。
そうしていよいよ婚礼の夜は、仲人が新婦を連れて嫁ぎ先の家にやってくるが、その時新婦を自分の背後に隠しておく。舅姑も気づかないふりをし、夫も見ないふりをして、互いに時候の挨拶などをしている間に、仲人は新婦を夫の陰に隠して自分だけ帰って行く。だから、その夜は灯火も囲炉裏の火も微かにしておくのを心得事にしてある。嫁が夜中にふと起き出して、囲炉裏の火を焚き付けるのに、家族中が気付かないというのが、婚礼が上首尾に済んだとする習俗である。

【解説】
 アイヌの婚礼であるマチコルについて描き、説明しています。