【翻字】
似多「時に紛さん、虚々(うかうか)と詰(つま)らん事
を言うて歩いて居(ゐ)るうちに、何処(どこ)がどこか頓(さつぱ)り道が分(わか)らなく
なツて来た、モシお百姓、チヨイと物をお尋ね申します、モ
シお百姓、このまたお百姓は唖(をし)か聾(つんぼ)かいナ、モシ 紛郎「阿呆(あほ)か
似多「時に紛さん、虚々(うかうか)と詰(つま)らん事
を言うて歩いて居(ゐ)るうちに、何処(どこ)がどこか頓(さつぱ)り道が分(わか)らなく
なツて来た、モシお百姓、チヨイと物をお尋ね申します、モ
シお百姓、このまたお百姓は唖(をし)か聾(つんぼ)かいナ、モシ 紛郎「阿呆(あほ)か
いナ、彼(あ)りやアお前案山子(とりおどし)だがナ 似多「オイ紛さん、うだうだ
言ふなエ、菜種の咲いた時分に案山子(とりおどし)ツてものがあるものか
紛郎「あるものかツて此処(こゝ)に案山子(とりおどし)があるがナ、顔は一升徳利(どつくり)
で以(もつ)て笠を被(かぶ)せて蓑(みの)着せてあるがナ 似多「世の中は変(かは)ツたもの
ぢやナ、畑(はたけ)に菜種の咲いた時分に案山子(とりおどし)を拵(こしら)へるものぢや、成程顔は
徳利(とつくり)でしてある、アゝとツくり(〇〇〇〇)見なかツたのが一生の過失(あやまり)み(〇)
の(〇)誤り 紛郎「悪い洒落やナ……… 似多「モシお百姓、チョイと物を
お尋ね申します、モシお百姓、これも案山子(とりおどし)かいナ 紛郎「イヤ
こりや石の地蔵さんぢや 似多「石の地蔵さんが笠を被(かぶ)ツてゐる
案山子(とりおどし)で喫驚(びつくり)して、又石地蔵さんで喫驚(びつくり)して、これが地蔵喫(びつ)
驚(くり)、石の悪い 紛郎「悪い洒落やナ……… 似多「モシお百姓、チョイ
と物をお尋ね申します、モシお百姓、オイ五十五十、四十六
言ふなエ、菜種の咲いた時分に案山子(とりおどし)ツてものがあるものか
紛郎「あるものかツて此処(こゝ)に案山子(とりおどし)があるがナ、顔は一升徳利(どつくり)
で以(もつ)て笠を被(かぶ)せて蓑(みの)着せてあるがナ 似多「世の中は変(かは)ツたもの
ぢやナ、畑(はたけ)に菜種の咲いた時分に案山子(とりおどし)を拵(こしら)へるものぢや、成程顔は
徳利(とつくり)でしてある、アゝとツくり(〇〇〇〇)見なかツたのが一生の過失(あやまり)み(〇)
の(〇)誤り 紛郎「悪い洒落やナ……… 似多「モシお百姓、チョイと物を
お尋ね申します、モシお百姓、これも案山子(とりおどし)かいナ 紛郎「イヤ
こりや石の地蔵さんぢや 似多「石の地蔵さんが笠を被(かぶ)ツてゐる
案山子(とりおどし)で喫驚(びつくり)して、又石地蔵さんで喫驚(びつくり)して、これが地蔵喫(びつ)
驚(くり)、石の悪い 紛郎「悪い洒落やナ……… 似多「モシお百姓、チョイ
と物をお尋ね申します、モシお百姓、オイ五十五十、四十六
十、三十三(みつ)ツに十(とを) 紛郎「何(なん)ぢやエ三十三(みつ)ツに十(とを)とは 似多「都合百
姓、モシお百姓、何(なん)ぢやエ、この百姓、唖(をし)か聾(つんぼ)かエ、モシ 〇「
アゝ、何(なん)ぞ言うてるのか 似多「この野途(のみち)は何方(どつち)へ参じますナ 〇「
アゝお光(みつ)の事を尋ねて呉れるか、お光(みつ)は藪際の茂左衛門の息
子の所(ところ)へ嫁にやツたゞ 似多「何を吐(ぬか)してけつかる、野途(のみち)を尋ね
て居(ゐ)るのに、お光(みつ)といふ娘の事を言うてゐる、こりや奴聾(どつんぼ)や
ぜ、コリヤヤイ親爺(おやぢ)、素固丹(すこたん)ポンと打(い)ツてやらうか 〇「アゝ
好(よ)い日和(ひより)続きで結構ぢや 似多「イヤ頭(どたま)ア打擲(どつ)いてやらうかと言
うてるのぢや 〇「マア夫婦交情(なか)好(よ)うしてゐるので大きに安心
ぢや 似多「何を吐(ぬか)してけつかる、一ツ屁を嗅(かま)してやらうか 〇「
オウ、また倅(せがれ)の事を尋ねて呉れるかエ、彼(あ)りやア温和(おとな)しいも
ので、両親(おや)が喜んで居(ゐ)るだ、近々(ちかぢか)に彼(あ)れにも嫁を貰(もら)はうと思
ツてるのぢや 紛郎「オイ、そんな者に相手になツて居(ゐ)たツて、
姓、モシお百姓、何(なん)ぢやエ、この百姓、唖(をし)か聾(つんぼ)かエ、モシ 〇「
アゝ、何(なん)ぞ言うてるのか 似多「この野途(のみち)は何方(どつち)へ参じますナ 〇「
アゝお光(みつ)の事を尋ねて呉れるか、お光(みつ)は藪際の茂左衛門の息
子の所(ところ)へ嫁にやツたゞ 似多「何を吐(ぬか)してけつかる、野途(のみち)を尋ね
て居(ゐ)るのに、お光(みつ)といふ娘の事を言うてゐる、こりや奴聾(どつんぼ)や
ぜ、コリヤヤイ親爺(おやぢ)、素固丹(すこたん)ポンと打(い)ツてやらうか 〇「アゝ
好(よ)い日和(ひより)続きで結構ぢや 似多「イヤ頭(どたま)ア打擲(どつ)いてやらうかと言
うてるのぢや 〇「マア夫婦交情(なか)好(よ)うしてゐるので大きに安心
ぢや 似多「何を吐(ぬか)してけつかる、一ツ屁を嗅(かま)してやらうか 〇「
オウ、また倅(せがれ)の事を尋ねて呉れるかエ、彼(あ)りやア温和(おとな)しいも
ので、両親(おや)が喜んで居(ゐ)るだ、近々(ちかぢか)に彼(あ)れにも嫁を貰(もら)はうと思
ツてるのぢや 紛郎「オイ、そんな者に相手になツて居(ゐ)たツて、
相手は奴聾(どつんぼ)ぢや、言ツてる事が頓(さつぱ)り訳が分(わか)らぬ、向(むか)ふに百姓
が居(ゐ)るぜ、彼(あ)の百姓にチヨイと尋ねて見ろ
が居(ゐ)るぜ、彼(あ)の百姓にチヨイと尋ねて見ろ
【語釈】
・虚々(うかうか)と…ルビ不鮮明。
・とツくり見なかツたのが一生の過失みの誤り…「とっくり(じっくり)」「一生」「身の」がそれぞれ「徳利」「一升」「蓑」の洒落。
・地蔵喫驚、石の悪い…「地蔵」は「二度」、「石」は「意地」の洒落。
・素固丹(すこたん)…頭を卑しめていう語。どたま。
・屁を嗅(かま)してやらうか…ルビ不鮮明。
・近々(ちかぢか)に…ルビ不鮮明。
・虚々(うかうか)と…ルビ不鮮明。
・とツくり見なかツたのが一生の過失みの誤り…「とっくり(じっくり)」「一生」「身の」がそれぞれ「徳利」「一升」「蓑」の洒落。
・地蔵喫驚、石の悪い…「地蔵」は「二度」、「石」は「意地」の洒落。
・素固丹(すこたん)…頭を卑しめていう語。どたま。
・屁を嗅(かま)してやらうか…ルビ不鮮明。
・近々(ちかぢか)に…ルビ不鮮明。
【解説】
発句にしりとりをしながら道を取り違えたことに気づいた二人は、街道を尋ねようと野良仕事をしているお百姓に声を掛けますが、最初は案山子、次は地蔵をそれと間違え、三度目にようやく本物のお百姓に尋ねたものの、ひどく耳の遠い人で、全く話が通じない、というくだりです。
それにしても似多八と紛郎兵衛の言葉の悪さはずいぶんなものがあります。それをそのまま寄席で噺家が演じているのですから、演者の曽呂利新左衛門師匠はずいぶんとリアリズムが徹底していたのだと思います。
ここのやりとりは、やはり形は幾分違いますが、笑福亭仁鶴「七度狐」にあるやりとりとほぼ同じです。
