【翻字】
( 和尚「…)併(しか)しお前方(がた)のお名前は何(なん)といふお名
前じやナ 紛郎「エー私(わたくし)は紛郎兵衛と申します 和尚「ハゝア、妙な
名前ぢやナ、してお前さんは 似多「私(わたくし)は似多八と申します 和尚「
ムゝウ、併(しか)し出家になツてから、紛郎兵衛、似多八といふや
うな名前では大きに体裁(きまり)が悪いから、斯(か)うしませう、お前さ
んの名を道遊(だういう)、又お前さんの名を宗遊(そういう)と命(つ)けませう、道遊(だういう)は道遊(みちあそ)ぶ、宗遊(そういう)は宗遊(むねあそ)ぶと、二人が旅をしてからに此処(こゝ)へござ
ツたに依(よ)ツて、道遊(だういう)宗遊(そういう)といふ名が好(よ)からう 似多「ヘエ、鳥渡(ちよひと)
待ツてお呉(く)んなさいまし、ナア紛さん 紛郎「何(なん)ぢやエ 似多「お前
の名は如何(どう)いふ 紛郎「私(わたし)の名は然(さ)ういふ 似多「チヨツと待ツた、

なんと紛(やゝこ)しいなア、お前の名は何(ど)ういふ 紛郎「私(わし)の名は然(さ)うい
ふ 似多「イエ宗遊(そういう)は私(わし)の名ぢやが、お前の名は何(ど)ういふ名ぢや
紛郎「私(わし)が道遊(だういう)、お前の名が宗遊(そういう)ぢやが 似多「チヨイと待ツて、
モシ和尚さん、何(ど)うもこりやア誠に困りますので、何(なん)とか変
へて戴きませんと、お前の名は何(ど)ういふと尋ねますれば然(さ)う
いふ、宗遊(そういう)と道遊(だういう)と少(ちつ)とも訳が分(わか)りません、何(なん)とか最(も)う少し
分(わか)る名を変へて頂きませんと誠に困りますが 和尚「然(さ)うかナ、
ぢやアお前さんの名前をば、コーツと何(なん)としたものであらう
なア、イヤ然(さ)うぢや、お前さんの名を六方と命(つ)けませう、し
てお前さんのを八方といふ名にしませう 似多「ヘエ、八方より
燭台の方が宜(よ)うございますナ 和尚「コレ、燭台なんてそんな名
前はありやしません 似多「八方は宅中(うちぢう)明るうて宜しいけれども
土器(かはらけ)が顛倒(ひつくりかへ)ツたりしたら、衣物(きもの)に油がかゝるツて事になりま

す依(よ)ツて 和尚「ハゝア、それじやア何(ど)うしたものだらう、何(ど)う
も他にはよい名がないが 似多「ヘエ、イヤ何(ど)うも仕方がない依(よ)
ツて、それじやア六方八方に極(き)めて戴きませう 和尚「それじや
ア然(さ)ういふ事にしてお前は六方お前は八方と極(き)めて置きます

【語釈】
・八方より燭台の方が…「八方」は「八方行灯。平たい大形の釣り行灯。湯屋・寄席・居酒屋など人の集まる所で、天井などにつるして用いた」。

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【解説】
 二人の髪をおろした後、和尚が二人の法名を命名するくだりです。例によって似多八が下らないまぜっかえしを繰り返してボケ、呆れ果てた和尚がツッコむというグダグダしたやりとりが古典漫才のように展開されています。内容に変化はありますが、現行の故・桂枝雀「八五郎坊主」の一原形と言えます。


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