【翻字】
( 和尚「…)併(しか)しお二人の衆、斯(か)うやツてからに出家になると、またそれ
ぞれ用事がある依(よ)ツて、それだけの事はして貰(もら)はにやならぬ
先(ま)づ夜(よ)が明けたらば、お前方(がた)ア本堂から位牌所(じよ)、彼(あ)の辺りを
掃除して貰(もら)はにやなりません、よいかナ、掃除が済んで了(しま)う
たら、汝(こなた)は又鐘楼堂(しやうろうだう)へ上(あが)ツて鐘を撞(つ)いて貰(もら)はにやならぬ、お
前さんはまた釜の下を焚(もや)して湯を沸かして貰(もら)はにやならぬ、
それが済んで了(しま)うたら、又庭から彼(あ)の辺を塵芥(ちりあくた)のないやうに
掃いて貰(もら)はにやならぬ、お前は又お米を糟(か)してからに、飯(めし)を
炊いて貰(もら)はにやならぬ、またお前は野菜廻りの所をば気を付

けて貰(もら)はにやならぬ、それが済んで了(しま)ひましたら、また二人
とも経文の稽古をせねばならぬ、それが済んで了(しま)うたなら私(わたし)
の肩をば叩いて貰(もら)はにやならぬ、お前さんは腰を揉(も)んで貰(もら)は
にやならぬ、午刻(ひる)になツたら鐘楼堂(しやうろうだう)へ上(あが)ツて鐘を撞(つ)き、日暮(ひのくれ)になツたら又一人は其処等(そこら)に水を撤(う)ツたりしても貰(もら)はにやな
らぬし、一人は又暮(くれ)の鐘をば撞(つ)いて貰(もら)はにやならぬ、夜分(やぶん)は
経文の稽古……… 似多「モシマア一寸(ちよつと)待ツてお呉(く)んなさいまし、
それでは一日休む間はありやしません 和尚「サアそれだけは
何(ど)うも出家となれば修行ぢやから 似多「止(お)かうかエ、糞面白く
もない 和尚「ハゝア、おかしやるか 似多「エゝおきませう、坊主
にはなツたわ、夜(よ)が明けたら鐘は撞(つ)かにやアならず、本堂か
ら位牌所(じよ)の掃除をして、飯(めし)を炊き按摩アするわ、御経(おきやう)の稽古
をせにやアならぬ、日に三度鐘を撞(つ)かにやアならぬ、糞面白

くもない、ぢやア御免蒙ります 和尚「然(さ)うか、それぢやア仕方
がない、無理になれとは言ひません 似多「けれども余(あんま)り用事が
多過ぎてやりきれません、マア止(よ)しませう 紛郎「オイ似多、チ
ヨツと待て、止(や)めやうと言ツたからツて、斯(か)うやツて二人な
がら坊主になツて了(しま)うてから如何(どう)する 似多「オヤこりやア困ツ
たなア、髷(まげ)を剪(き)らぬ先に言ツて呉れば好(よ)いものを、剪(き)ツて
了(しま)うて今更如何(どう)する事も出来やアしない 紛郎「サア何(ど)うも仕方
がないから、寧(いつ)そ坊主にならうか 似多「然(さ)うよなア、エーそれ
ぢやア仕方がございませんから、和尚様、二人とも坊主にな
ります 和尚「ならしやるか、そんなら今も言うただけはして下
さるであらうナ 似多「どうも仕方がございません、やりませう
 和尚「イヤ然(さ)のみ厭(いや)がる程の事でもないから、それでなツた限
りにやアそれだけの事をばしなされや、これも皆修行ぢやで

ナ 似多「どうも致方(いたしかた)がございません」と二人は度胸を据ゑてこ
の寺に居(を)る事になりました

【語釈】
・度胸を据ゑてこの寺に…原文「度胸を据ゑて の寺に」。誤植は明らかであり、訂正した。

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【解説】
 和尚は二人に寺の仕事を言いますが、似多八はその多さに「くそおもしろくもない」と、やっぱり辞めると言い出します。しかし紛郎兵衛に、髪をおろして坊主になってしまっているのにどうすると言われ、仕方がない、やっぱりなりますと承諾します。実にグダグダの展開で、二人はこの寺の修行僧になるというくだりです。
 このやりとりは、現行の仁鶴「鳥屋坊主」にも故枝雀「八五郎坊主」にもありません。

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