【翻字】
和尚「併(しか)しコレお前方(がた)縞の衣物(きもの)を着
て居(ゐ)ては甚だ不体裁(ふうつり)ぢやナ 似多「けれどもこれより何(なん)にも着る
物はございません 和尚「アゝ宜しい宜しい、コレ智円や 智円「ヘエ
和尚「チヨイと来い、私(わたし)の居室(ゐま)の押入にある鼠木綿の衣物(きもの)、そ
れをば此処(こゝ)へ、帯もあらう、皆持ツてお出(い)で 智円「ヘエ…………
和尚「サアサア、六方八方、二人ともこの衣物(きもの)を着なされ、その
縞の衣物(きもの)は脱いで仕舞はしやれ 似多「オイ紛さん、ぢやアない
六方、ナア、この衣物(きもの)を着て見い、鼠色(ねずみ)の衣物(きもの)ぢやぜ、オイ
オイ、襦袢も鼠色(ねずみ)なら法衣(ころも)も鼠色(ねずみ)帯も鼠色(ねずみ)だ」と呟(ぼや)きながら着
てゐる衣物(きもの)を脱ぎまして、二人は鼠色(ねずみ)の衣物(きもの)と着替へ、この
寺に居(ゐ)る事になりましたが、夜(よ)が明けると鐘を撞(つ)き御飯(おまんま)の拵(こしら)
へをしたり経文の稽古をして、仕方なしに暮らし居(を)りました
和尚「併(しか)しコレお前方(がた)縞の衣物(きもの)を着
て居(ゐ)ては甚だ不体裁(ふうつり)ぢやナ 似多「けれどもこれより何(なん)にも着る
物はございません 和尚「アゝ宜しい宜しい、コレ智円や 智円「ヘエ
和尚「チヨイと来い、私(わたし)の居室(ゐま)の押入にある鼠木綿の衣物(きもの)、そ
れをば此処(こゝ)へ、帯もあらう、皆持ツてお出(い)で 智円「ヘエ…………
和尚「サアサア、六方八方、二人ともこの衣物(きもの)を着なされ、その
縞の衣物(きもの)は脱いで仕舞はしやれ 似多「オイ紛さん、ぢやアない
六方、ナア、この衣物(きもの)を着て見い、鼠色(ねずみ)の衣物(きもの)ぢやぜ、オイ
オイ、襦袢も鼠色(ねずみ)なら法衣(ころも)も鼠色(ねずみ)帯も鼠色(ねずみ)だ」と呟(ぼや)きながら着
てゐる衣物(きもの)を脱ぎまして、二人は鼠色(ねずみ)の衣物(きもの)と着替へ、この
寺に居(ゐ)る事になりましたが、夜(よ)が明けると鐘を撞(つ)き御飯(おまんま)の拵(こしら)
へをしたり経文の稽古をして、仕方なしに暮らし居(を)りました
和尚「なんと六方に八方や 六方「ヘエ、お呼びなさいまして 和尚「
アー私(わたし)はナ、至急に本山から御書面が参ツたで、それにさし
て行かねばならぬが、何(ど)うで十日(とをか)と半月は戻ツて来(こ)まい程に
倘(も)しや私(わたし)の不在(るす)中に、葬式でも取れたやうなことなら、お前方(がた)
は未(ま)だ勝手をば知るまいから、私(わたし)の方(はう)の組寺(あひでら)の浄道寺(ぢやうだうじ)へさし
て然(さ)う言うて行きなさると、向(むか)ふからチヤアンと代理に立ツ
て下さるから、よいかの、さうしてお布施が来た時には、二
ツに分(わ)ツて一分(ぶん)は向(むか)ふに納めるやうな事にすれば、それで好(よ)
いのぢやに依(よ)ツて、確(しか)と頼みましたぞや 六方「畏まりましてご
ざいます」 和尚は衣服をチヤンと改めまして、二人の者に留
守を頼んで置いて本山へと出掛けました、跡に両人は 八方「オ
イ六方 六方「何(なん)だ八方 八方「マアマア仕方がないから、今のうち
に出来るだけの欠伸(のび)をしやうかエ 六方「何(ど)うも実に恐れ入ツて
アー私(わたし)はナ、至急に本山から御書面が参ツたで、それにさし
て行かねばならぬが、何(ど)うで十日(とをか)と半月は戻ツて来(こ)まい程に
倘(も)しや私(わたし)の不在(るす)中に、葬式でも取れたやうなことなら、お前方(がた)
は未(ま)だ勝手をば知るまいから、私(わたし)の方(はう)の組寺(あひでら)の浄道寺(ぢやうだうじ)へさし
て然(さ)う言うて行きなさると、向(むか)ふからチヤアンと代理に立ツ
て下さるから、よいかの、さうしてお布施が来た時には、二
ツに分(わ)ツて一分(ぶん)は向(むか)ふに納めるやうな事にすれば、それで好(よ)
いのぢやに依(よ)ツて、確(しか)と頼みましたぞや 六方「畏まりましてご
ざいます」 和尚は衣服をチヤンと改めまして、二人の者に留
守を頼んで置いて本山へと出掛けました、跡に両人は 八方「オ
イ六方 六方「何(なん)だ八方 八方「マアマア仕方がないから、今のうち
に出来るだけの欠伸(のび)をしやうかエ 六方「何(ど)うも実に恐れ入ツて
仕舞ツたなア 八方「真個(ほんたう)に対屈(たいくつ)ぢや、併(しか)しこんな所に何日(いつ)まで
も居(ゐ)ると云ふ訳には行かないが、そのうちに何(なん)ぞ都合の好(よ)い
事があツたら帰るとしやうか 六方「ムゝ然(さ)うしやう」 何(なに)しろ小(こ)
費銭(づかひ)は一文もなし、仕方がございませんゆゑ、二人の者も留
守をする事になりましたが
も居(ゐ)ると云ふ訳には行かないが、そのうちに何(なん)ぞ都合の好(よ)い
事があツたら帰るとしやうか 六方「ムゝ然(さ)うしやう」 何(なに)しろ小(こ)
費銭(づかひ)は一文もなし、仕方がございませんゆゑ、二人の者も留
守をする事になりましたが
【語釈】
・組寺(あひでら)…ルビ不鮮明。
・対屈(たいくつ)…漢字ルビともに不鮮明。
【解説】
和尚は二人に鼠色の法衣を与え、二人は寺で働き始めます。和尚は本山へ行くことになり、半月ほど寺を離れる間、二人に留守番を委ねます。お金を一文も持たない二人は仕方なしにそれを引き受ける、というくだりです。
紛郎兵衛と似多八はいかにもいい加減な修行僧ですが、こんな二人に留守を頼む和尚も随分のん気です。こうしていよいよ「鳥屋坊主」の舞台が用意されました。
